どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

文字の大きさ
26 / 41

第26話

しおりを挟む
「ね、ねぇギル、その前に食事でもしない?」
「食事?」
「ほら、トンネル作業とかさっきの勝負とかでお腹空いてるでしょう? 休憩だってほとんどしてないし」
「ああ、そういえば。たしかに、あのとんでもなくマズいポーション以外、水しか飲んでないもんな」
「でしょ?」
「うん、じゃあデータを取るのはご飯を食べてからってことで」

 ……ほっ、よかった。
 若干話題を逸らすように提案したけれど、ギルは疑うことなく素直に頷いてくれた。
 あ、そうだ。どうせ食事するならせっかくだし、ギルをあそこに連れて行こうかしら。
 ちょうど今夜、いっしょに食事をしようって約束してたし。

「そういえばギル、前に私が“会わせたい人がいる”って言ったの、覚えてる?」
「ああ、覚えてるよ。あのおにぎりの人だろ」
「その人と食事の約束をしていたのを思い出したの。せっかくだからギルもいっしょに行きましょう」

 “彼”もまた、この国を救うために欠かせない同志。
 同じ仲間として、ギルとも早めに顔を合わせておくに越したことはない。

「うん、わかった。会議室のおにぎりは俺も食べさせてもらったけど、美味しかったからなぁ。ただコメを握って塩を振っただけとは思えなかったよ。夕飯もその人が作ってくれるのか?」
「いいえ、私よ」
「…………」

 ちょっと、何よその顔は。

「嘘よ。今日の料理は向こうが担当よ」
「おお! それは楽しみだ!」
「まったく、失礼しちゃうわね」

 よーし、今決めた。
 帰ってきたら特大の電気をお見舞いしてあげましょう。

「はは、ごめんごめん。フェルトの手料理も食べたかったよ」
「本当かしら?」
「ああ。本当に。今日だけと言わず、毎日ね」
「…………」
「? どうかした?」
「いえ……」

 その発言はその発言で、なんというか……別の誤解を招く意味に聞こえるんだけど。
 でも、きっとギルのことだから深い意味なんてないのよね。

「……まあいいわ。私も楽しみだし、早く行きましょう」

 ちなみに今日の誘いは向こうから。
 ということは、きっと何か特別なものを用意してくれているに違いない。
 私は小さな期待に胸を膨らませつつ、地下の工房を後にした。


 ***


 ギルと共に食事へ向かう。
 目的地は王城の南側に隣接する別塔――そこは王族の居室が集まる場所だ。
 石畳の廊下を進みながら、ギルはきょろきょろと周囲を見渡している。

「ここって、たしか王族が住んでいるフロアだよね」
「ええ、相手も王族だからね。今から会ってもらうのは、私の弟よ」

 アストリア王家には王女が二人、王子が三人。
 シルフィーナ姉さんに私、そして兄たちがグロウ兄様とリヒテル兄様。
 そしてもう一人、末弟のライル。

「ああ、そういえば。すっかり忘れてた」
「こらこら。この国の王子様よ?」
「し、仕方ないじゃないか。ライル王子はほとんど表に出ないし、ローム帝国に行く前ですら一度もお会いしたことがないんだぞ」
「たしかに、それもそうね」

 ライルはまだ十歳。
 生まれつき身体が弱く、城にいてもほとんど人前に出ることはない。
 兄たちにとっても守るべき存在で、病弱な弟をいつも気遣っていた。こう言っちゃなんだけど、私に対する態度とは雲泥の差。
 とはいえ、私にとってもライルは特別な家族の一人。会うのは楽しみ。

 階段を上り、塔の最上階へ着く。
 柔らかな灯りがともる廊下の先に、ライルの部屋がある。
 私は軽くノックをした。

「フェルトです」

 返事の声が聞こえ、扉がゆっくりと開く。
 出迎えたのは、十代後半ほどの青年だった。
 黒い長髪を後ろで束ね、右目にはモノクル。端正な顔立ちに似合わぬ、やや芝居がかった仕草で一礼する。

「これはこれはフェルト王女。ようこそお越しくださいました」
「モーリス、この前は助かったわ」
「いえ、それもこれもライル坊ちゃまの命とあらば。……ですが、あんな執事のコスプレをさせられた屈辱は高くつきますよ。ふふふ」
「え、ええ。でも、すごく似合ってたわよ」

 彼の名はモーリス。ライルの近衛騎士。
 黒い長髪を束ね、右目にはモノクルという騎士にしては珍しい格好をしている。
 ただ、騎士としての実力は相当なものであり、グロウ兄様からも一目置かれている。
 それもあって病弱な王子を守るにふさわしい人材だと推薦を受け、ライルの近衛に任じられた。
 ……もっとも、それが理由のすべてではないけれど。
 そんな彼のもとに、ギルが一歩前へ出る。

「モーリス、久しぶりだな」
「お帰り、ギルバート。さっそくフェルト王女の近衛騎士に収まるなんて、やるじゃないか」
「そっちこそ、まさかライル王子の近衛騎士になっているなんてな」

 自然に笑い合う二人。
 それも当然で、モーリスはギルの親戚にあたり、さらに剣はジークに習った。つまりギルにとっては血縁者であり、兄弟子でもある。
 幼いころから顔見知りで、互いに気の置けない仲なのだ。

「ふふ、そうとも。私は栄えあるライル坊ちゃまの近衛騎士! ライル坊ちゃまは私のすべて! そしてこの国の至宝! この命にかけても、私はライル坊ちゃまを守り抜いてみせる!」

 急に力強く拳を握りしめるモーリス。
 ああ、やっぱり始まった。
 彼のライルへの愛はもはや宗教的な領域である。
 何が彼の心をそこまで突き動かしたのかは謎だけど、とにかく実の兄が弟に注ぐように……いや、それ以上に溺愛している。
 近衛に任命された際、感激のあまり号泣したのは城内じゃ有名な話。
 もっとも、これは何もモーリスが特殊な性癖の持ち主というだけではない。

 ライルには昔からそういうところがあった。
 天性の人たらし……とでも言うべきかしら。
 あまり表舞台に出ないため知名度こそ低いものの、一部の彼の存在を知る者たちは例外なく虜になる。
 本人は純真そのもので、誰かを魅了しようなんて気はまったくないのに。
 でももしかしたら、その無垢さこそが人の庇護欲を刺激してしまうのかも。

「モーリスのライルへの愛はよくわかったから、いい加減中に入れてくれないかしら。私たちは食事に来たのよ」
「おっと、これは失礼しました、フェルト王女。では、どうぞこちらへ」

 モーリスが慌てて姿勢を正し、扉を大きく開ける。
 やれやれ、と肩をすくめながら私はギルと共に中へ入った。
 温かな灯りが差し込む室内――そこに、小さな影がこちらへ駆け寄ってくる。

「フェルト姉さま!」

 ライルの声だ。
 ふわふわの金髪を揺らしながら小走りで駆け寄ってくる。
 その姿はまるで人懐っこい子犬のようで、会うなり胸がほっこりする。

「フェルト姉さま、いらっしゃいませ! そちらの方は姉さまの騎士様ですか?」
「はい、ライル殿下。ギルバートと申します」
「ギルバートはジーク様の孫で、私の弟弟子でもあるのですよ」

 モーリスがすかさず補足すると、ライルの笑顔がさらに明るくなった。

「やっぱり! ギルバートさんのことは、フェルト姉さまからたくさんお話を聞いています。ずっと前からの幼馴染なんですよね?」
「はい、よくご存じで」
「ライルはあんまり外に出られないからね。だから私がよく、ギルとの思い出話を聞かせてあげてたの」
「へぇ、なるほど」

 他にも民の生活ぶりや他国との情勢など、それと直近では海の存在やトンネル作りの件についてもライルにはすでに話してある。

「僕、ギルバートさんにずっと憧れていたんです」
「自分に、ですか?」
「はい。僕は身体が弱いので、ギルバートさんやモーリスのように強い方がうらやましいです。ギルバートさんは剣の達人で、猫のように俊敏だと聞きました」
「はは、光栄です。……まあ、ついさっき兄上に完膚なきまでに叩きのめされましたけどね」
「グロウ兄様ですか? 仕方ありません、兄様は何かと規格外ですから。でも、やっぱりギルバートさんも僕にとっては憧れです。いつか剣を見せてもらえますか?」
「もちろん。喜んで」

 ライルの無垢な笑顔に、ギルの頬も思わず緩む。
 やっぱり二人を会わせて正解だったわ。
 やる気を取り戻したとはいえ、今日のギルは少なからず心にダメージを受けている。
 ライルの無邪気さは、そんな彼にとって何よりの癒しになる。
 ――と、そこでモーリスがずいっと割って入った。

「おっと、そこまでだギルバート! ライル坊ちゃまは私の主君だぞ。乗り換えようったって、そうはいかない!」

 いや、誰もそんなことは言ってないんだけど。
 モーリスはそのままライルを抱きしめ、頬ずりまで始める。
 ライルは笑顔を保ちながらも、微妙に困った表情を浮かべていた。
 ……ほんと相変わらずね、この人。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。 しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。 ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。 死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。 「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」 化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。 これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

役立たずの【清浄】スキルと追放された私、聖女の浄化が効かない『呪われた森』を清めたら、もふもふ達と精霊に囲まれる楽園になりました

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
侯爵令嬢のエリアーナは、ただ汚れを落とすだけの地味なスキル【清浄】を持つことから、役立たずと蔑まれていた。 ある日、絶大な聖なる力を持つ「聖女」が現れたことで、婚約者である王太子から婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。 行くあてもなく、誰も近づかない『呪われた森』へと逃げ込んだエリアーナ。 しかし、彼女が何気なくスキルを使うと、森を覆っていた邪悪な呪いがみるみる浄化されていく。 実は彼女の【清浄】は、あらゆる穢れや呪いを根源から消し去る、伝説級の浄化能力だったのだ。 呪いが解けた森は本来の美しい姿を取り戻し、伝説の聖域として蘇る。 その力に引き寄せられ、エリアーナのもとには聖獣の子供や精霊、もふもふの動物たちが次々と集まってきて……。 一方その頃、聖女の力では浄化できない災厄に見舞われた王国は、エリアーナを追放したことを激しく後悔し始めていた。

転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい

夢見望
ファンタジー
 レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。 しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた! しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!? よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?! 「これ…スローライフ目指せるのか?」 この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!

処理中です...