どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第27話

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「ちなみに改めて言っておくけど、この二人も私の隠れた協力者よ。この前のおにぎりはライルが握ってくれたの」
「そうです。姉さまに教わって、僕が握らせてもらいました!」

 えっへんと胸を張るライル。
 いちいちかわいい。

「そしてそれを私が給仕に扮して運びました」
「え、あれってモーリスだったの?」
「ああ。甚だ不本意ではあったが、フェルト王女に頼まれて仕方なくな」
「ふふ、ごめんね。お米の件を知っている人間は限られているから、秘密裏に動くにはモーリスに頼むしかなかったのよ」

 秘密を知る人を簡単に増やすわけにはいかない。
 だから信頼できるこの二人にだけ協力してもらったのだ。

 なお、ビジュアル的に燕尾服が似合いそうだと思ったから――という裏の理由は内緒にしてある。
 さっき会ったときの反応からして、本人はどうやら執事扱いが不服みたいなので。そこは一応騎士としてのプライドだろうか。
 それにしても、顔なじみのギルでさえ全然気づかないほど衣装に溶け込むとは……やっぱり私の見立てに間違いはなかったようね。

「まあまあ、モーリス。でも、僕もすごく似合っていたと思うよ」
「はっ! ありがたき幸せ!」
「あはは……」

 なにこの凄まじい変わり身。
 ライルに褒められた瞬間、モーリスは片膝をついてすかさず敬礼する。
 まったく、ライルの人たらしぶりは健在ね。

 私たちは和やかな雰囲気のまま、玄関から奥へと進む。

「おお、すごいな。本がこんなにいっぱい……」

 部屋に入ってすぐギルが感嘆の声を漏らす。
 ライルの部屋は、本人の愛らしい印象とは対照的だった。
 壁一面を本棚が覆い、天井近くまでぎっしりと本が積まれている。

「ここはもともと父の書斎だったからね。アストリアだけじゃなく、他国から取り寄せた本もたくさんあるわ」
「へ~」

 元気だった頃の父は、「知恵こそ力」と信じる学者気質な人だった。
 宝石や芸術品よりも書物を愛し、知識の収集に情熱を注いでいた。
 今でこそアストリアは人口わずか三千人の小国だが、領地を奪われる前はそれなりに豊かで、当時に集められた蔵書がこうして残っている。
 すべてを運び込むことはできなかったとはいえ、これだけの量が残っているのは父の学問への執念の証だろう。
 そしてそんな父だからこそ、例の師匠が残した錬金術の魔導書なんて代物を持っていたのかも……と今では思う。

「ま、今はほとんどライルの部屋って感じだけどね。ライルはとにかく本の虫だから。いちいち借りに来るより、もういっそここへ住んじゃえばって言ったら本当に引っ越ししてきたのよね」
「あはは……グロウ兄様もリヒテル兄様もいいよって言ってくださったので。おかげで毎日心置きなく本が読めて楽しいです」
「二人ともライルには甘いからね~」

 アストリア王家の中で、ライルは最も色濃く父の血を受け継いだ子だ。
 彼は昔から大の本好きで、今ではこの部屋を半ば自室として使っている。
 ベッドと小さな机だけを持ち込み、あとは本。本。本。
 きっといろんな知識に触れるのが好きなのだろう。
 おかげで私やリヒテル兄様が本を借りに訪ねるたびにも、なにかと外の世界に関して質問攻めに遭うのが恒例行事になっていた。

 ――さて、それはともかくそろそろ本題に入りましょうか。

「ところでライル。今夜、私を呼んだということは――もしかして“アレ”ができたってことでいいのかしら?」
「はい、そうですフェルト姉さま。どうぞ、これを見てください!」

 ライルが誇らしげに差し出したのは、細く真っ白な乾燥麺だった。

「わぁ! すごい、よく出来てるわね」
「? それはなんだい?」
「えっと、フェルト姉さまに頼まれていた“お米で作ったパスタ”です」

 ギルの質問に、ライルが嬉しそうに答える。
 パスタとは言っても、原料は小麦ではなく米。
 どちらかといえばベトナムのフォーに近いが、あいにくこの世界にそんな言葉はない。
 だから便宜上、“お米パスタ”ということにした。

「へぇ~、パスタか。ローム帝国での生活を思い出すな」
「あっちは普通に小麦が取れるものね」

 留学経験のあるギルからすれば、パスタ自体は割と馴染みのある食べ物。
 だからこれだけではまだ驚かない。

「でも、その割にはずいぶん硬そうだね。……これ、ほんとに食べられるの?」
「大丈夫よ。これは乾燥させた保存食なの。今はカチコチだけど、茹でればちゃんと普通のパスタみたいになるわ」
「僕も最初はびっくりしました。保存食ってあまり美味しいイメージがないですけど、このパスタはたくさんのお湯で茹でるととっても美味しいんですよ」

 この世界では、麺といえば生麺が主流だ。
 それというのも天日干しにできる食材以外、乾燥させて保存するという技術がないためである。
 まあアストリア王国の場合は、そもそも小麦が取れないのでパスタ自体がかなり珍しい食べ物ではあるけど。
 だから、この“お米パスタ”は立派な発明品と言えるだろう。

「実は前からライルには、工房で育てたお米で新たな食料の開発をお願いしていたの。お米は炊いて食べるのが普通だけど、せっかくならもっと活用したいと思ってね」

 なにより私自身、お米を育てた経緯と同じくパスタも食べたいという欲求があった。
 というわけで、挑戦してみることにしたのだ。

 それに乾燥パスタなら長期保存で備蓄もできる。
 お米も玄米のままなら保存が利くが、精米後は賞味期限が一~二ヶ月程度になってしまう。
 だから豊作の時期にパスタとして加工しておけば、凶作の備えにもなる。
 まさに一石二鳥というわけだ。

 それにしても、本当に見事な出来栄えね。
 ライルは地頭も良く本で蓄えた知識も豊富だし、おまけに料理も上手だから期待はしていたけど、まさかここまで完璧に仕上げてくるとは……。
 以前、私が錬金術で水分だけを飛ばそうとしたときは失敗したのに、いったいどうやったのかしら。
 あとでこっそり聞いてみよう。

「なるほどな。麺料理はローム帝国でもよく食べていたけど、こんなタイプは初めてだ。食べてみたい」
「はい、たくさんご用意していますので、ぜひ! さあ、フェルト姉さま。ダイニングへ参りましょう」

 感心しながら頷いたギルに、ライルが嬉しそうに答える。
 そして私の手を取りながら隣室の食卓へ。

 それからほどなくして、ライルはモーリスと共に手際よく調理を始めた。
 大きな鍋でお湯を沸かし、乾いた麺を丁寧にくぐらせる。
 蒸気とともに広がる香りが、どこか懐かしい。
 そして数分後。

「フェルト姉さま、ギルバートさん。お待たせしました」

 トレイの上には、茹で上がった真っ白なパスタと数種類のソースが並んでいた。
 ソースはインドカレーなんかで見かけるランプのような形の食器に入っている。

「ソースはいろいろ試してみました。お好みでどうぞ」
「さあお二方! 私とライル坊ちゃまが丹精込めて作り上げた渾身の一皿です。どうか温かいうちにお召し上がりくださいませ!」
「ええ、ありがとう」
「いただきます!」

 まずは赤い色をしたソースから味見してみる。
 私とギルはなぜか得意げな顔をしているモーリスを横目に、ライルが作ったパスタをくるくる巻いてぱくりとひと口。
 その瞬間、思わず笑みがこぼれた。

「おいしい! これはトマトソースね! ほどよい酸味とトマトの甘みがしっかり活きてる!」
「ああ、本当だ! それに麺自体もすごくウマい! あんなにカチカチだったのが、こんなにつるつるになるなんて! これならソースなしでだって十分いけるよ!」

 栄養価を高めた改良米は糖分が多く、自然な甘みがある。
 ライルの茹で加減も絶妙で、もちもちとした歯ごたえとのど越しが心地いい。
 トマトソースも旨みの中にちょっとした清涼感もあって食べ飽きない。
 私とギルが手放しで褒めると、ライルはほっと息をついた。

「よかったぁ。ちなみにトマトは姉さまの農園で育てたトマトを使っています。あとハーブも少々」

 稲の栽培が軌道に乗ってから、畑を増やして育て始めた野菜の一つだ。
 最近ではトマト以外にも、豆やハーブ、根菜などいろいろ挑戦している。
 なるほど、このソースにある爽やかさはハーブによるものだったか。

「いやぁ、これは恐れ入ったわね。レシピや材料は私がそろえてあげたものとはいえ、私が作ったときは“まあ食べられるわね”くらいの出来だったのに。でも、これならもうプロ級と言ってもいいわ」
「ああ。お店で出されても文句ないレベルだよ。むしろ本当に開いてみたらどうです? きっと繁盛しますよ」
「あはは。ありがとうございます」

 私とギルがなおも褒め続けると、ライルが照れくさそうに頬をかいた。
 やっぱり可愛い。

「うむ、それは妙案だ。よし、早速手配いたしましょう」

 ……いや、さすがにそれは早すぎでしょ。
 そんなモーリスのことはさておき、私たちはその後も他のソースも試しつつライルのパスタを堪能した。
 すると、そのうちの一つでギルの手が止まる。
 クリーム、魚介、香草と木の実……どれも個性があって面白い。
 と、そこでギルの手が止まる。

「おや?」
「どうしましたか、ギルバートさん? もしや、お口に合いませんでしたか?」
「いえ、ライル殿下。そうではなくて、ちょっと不思議で。この酸っぱい味……これって酢ですよね?」
「あ、はい。そうです。このソースは酢をベースにしたビネガーソースです」
「これも美味しいわね。ほどよい酸味が食欲をそそるわ」

 私も同調しながら頷く。
 けれど、ギルはなおもスプーンですくったソースをじっと観察していた。

「なるほど。でも、やっぱり不思議です。自分の記憶では、この国で酢なんて作っていなかったはず……」
「実は“あるもの”を作った過程で、たまたまできたものなんです。でもお酢はお酢で便利なので、その偶然をきっかけにきちんとした作り方を確立しました」
「あるもの? ライル、それってもしかして……」

 ライルが恥ずかしそうに笑う一方、私は思わず身を乗り出した。
 もしも推測が正しければ、その“あるもの”とは私にとって――いえ、この国にとっての“救国の鍵”とも呼べる発明品。
 けれど私はその製法を完全には知らず、錬金術でも再現に苦戦していた。
 そこで必要そうな器具だけを用意し、あとはライルの好奇心に託していたのだが……。
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