27 / 41
第27話
しおりを挟む
「ちなみに改めて言っておくけど、この二人も私の隠れた協力者よ。この前のおにぎりはライルが握ってくれたの」
「そうです。姉さまに教わって、僕が握らせてもらいました!」
えっへんと胸を張るライル。
いちいちかわいい。
「そしてそれを私が給仕に扮して運びました」
「え、あれってモーリスだったの?」
「ああ。甚だ不本意ではあったが、フェルト王女に頼まれて仕方なくな」
「ふふ、ごめんね。お米の件を知っている人間は限られているから、秘密裏に動くにはモーリスに頼むしかなかったのよ」
秘密を知る人を簡単に増やすわけにはいかない。
だから信頼できるこの二人にだけ協力してもらったのだ。
なお、ビジュアル的に燕尾服が似合いそうだと思ったから――という裏の理由は内緒にしてある。
さっき会ったときの反応からして、本人はどうやら執事扱いが不服みたいなので。そこは一応騎士としてのプライドだろうか。
それにしても、顔なじみのギルでさえ全然気づかないほど衣装に溶け込むとは……やっぱり私の見立てに間違いはなかったようね。
「まあまあ、モーリス。でも、僕もすごく似合っていたと思うよ」
「はっ! ありがたき幸せ!」
「あはは……」
なにこの凄まじい変わり身。
ライルに褒められた瞬間、モーリスは片膝をついてすかさず敬礼する。
まったく、ライルの人たらしぶりは健在ね。
私たちは和やかな雰囲気のまま、玄関から奥へと進む。
「おお、すごいな。本がこんなにいっぱい……」
部屋に入ってすぐギルが感嘆の声を漏らす。
ライルの部屋は、本人の愛らしい印象とは対照的だった。
壁一面を本棚が覆い、天井近くまでぎっしりと本が積まれている。
「ここはもともと父の書斎だったからね。アストリアだけじゃなく、他国から取り寄せた本もたくさんあるわ」
「へ~」
元気だった頃の父は、「知恵こそ力」と信じる学者気質な人だった。
宝石や芸術品よりも書物を愛し、知識の収集に情熱を注いでいた。
今でこそアストリアは人口わずか三千人の小国だが、領地を奪われる前はそれなりに豊かで、当時に集められた蔵書がこうして残っている。
すべてを運び込むことはできなかったとはいえ、これだけの量が残っているのは父の学問への執念の証だろう。
そしてそんな父だからこそ、例の師匠が残した錬金術の魔導書なんて代物を持っていたのかも……と今では思う。
「ま、今はほとんどライルの部屋って感じだけどね。ライルはとにかく本の虫だから。いちいち借りに来るより、もういっそここへ住んじゃえばって言ったら本当に引っ越ししてきたのよね」
「あはは……グロウ兄様もリヒテル兄様もいいよって言ってくださったので。おかげで毎日心置きなく本が読めて楽しいです」
「二人ともライルには甘いからね~」
アストリア王家の中で、ライルは最も色濃く父の血を受け継いだ子だ。
彼は昔から大の本好きで、今ではこの部屋を半ば自室として使っている。
ベッドと小さな机だけを持ち込み、あとは本。本。本。
きっといろんな知識に触れるのが好きなのだろう。
おかげで私やリヒテル兄様が本を借りに訪ねるたびにも、なにかと外の世界に関して質問攻めに遭うのが恒例行事になっていた。
――さて、それはともかくそろそろ本題に入りましょうか。
「ところでライル。今夜、私を呼んだということは――もしかして“アレ”ができたってことでいいのかしら?」
「はい、そうですフェルト姉さま。どうぞ、これを見てください!」
ライルが誇らしげに差し出したのは、細く真っ白な乾燥麺だった。
「わぁ! すごい、よく出来てるわね」
「? それはなんだい?」
「えっと、フェルト姉さまに頼まれていた“お米で作ったパスタ”です」
ギルの質問に、ライルが嬉しそうに答える。
パスタとは言っても、原料は小麦ではなく米。
どちらかといえばベトナムのフォーに近いが、あいにくこの世界にそんな言葉はない。
だから便宜上、“お米パスタ”ということにした。
「へぇ~、パスタか。ローム帝国での生活を思い出すな」
「あっちは普通に小麦が取れるものね」
留学経験のあるギルからすれば、パスタ自体は割と馴染みのある食べ物。
だからこれだけではまだ驚かない。
「でも、その割にはずいぶん硬そうだね。……これ、ほんとに食べられるの?」
「大丈夫よ。これは乾燥させた保存食なの。今はカチコチだけど、茹でればちゃんと普通のパスタみたいになるわ」
「僕も最初はびっくりしました。保存食ってあまり美味しいイメージがないですけど、このパスタはたくさんのお湯で茹でるととっても美味しいんですよ」
この世界では、麺といえば生麺が主流だ。
それというのも天日干しにできる食材以外、乾燥させて保存するという技術がないためである。
まあアストリア王国の場合は、そもそも小麦が取れないのでパスタ自体がかなり珍しい食べ物ではあるけど。
だから、この“お米パスタ”は立派な発明品と言えるだろう。
「実は前からライルには、工房で育てたお米で新たな食料の開発をお願いしていたの。お米は炊いて食べるのが普通だけど、せっかくならもっと活用したいと思ってね」
なにより私自身、お米を育てた経緯と同じくパスタも食べたいという欲求があった。
というわけで、挑戦してみることにしたのだ。
それに乾燥パスタなら長期保存で備蓄もできる。
お米も玄米のままなら保存が利くが、精米後は賞味期限が一~二ヶ月程度になってしまう。
だから豊作の時期にパスタとして加工しておけば、凶作の備えにもなる。
まさに一石二鳥というわけだ。
それにしても、本当に見事な出来栄えね。
ライルは地頭も良く本で蓄えた知識も豊富だし、おまけに料理も上手だから期待はしていたけど、まさかここまで完璧に仕上げてくるとは……。
以前、私が錬金術で水分だけを飛ばそうとしたときは失敗したのに、いったいどうやったのかしら。
あとでこっそり聞いてみよう。
「なるほどな。麺料理はローム帝国でもよく食べていたけど、こんなタイプは初めてだ。食べてみたい」
「はい、たくさんご用意していますので、ぜひ! さあ、フェルト姉さま。ダイニングへ参りましょう」
感心しながら頷いたギルに、ライルが嬉しそうに答える。
そして私の手を取りながら隣室の食卓へ。
それからほどなくして、ライルはモーリスと共に手際よく調理を始めた。
大きな鍋でお湯を沸かし、乾いた麺を丁寧にくぐらせる。
蒸気とともに広がる香りが、どこか懐かしい。
そして数分後。
「フェルト姉さま、ギルバートさん。お待たせしました」
トレイの上には、茹で上がった真っ白なパスタと数種類のソースが並んでいた。
ソースはインドカレーなんかで見かけるランプのような形の食器に入っている。
「ソースはいろいろ試してみました。お好みでどうぞ」
「さあお二方! 私とライル坊ちゃまが丹精込めて作り上げた渾身の一皿です。どうか温かいうちにお召し上がりくださいませ!」
「ええ、ありがとう」
「いただきます!」
まずは赤い色をしたソースから味見してみる。
私とギルはなぜか得意げな顔をしているモーリスを横目に、ライルが作ったパスタをくるくる巻いてぱくりとひと口。
その瞬間、思わず笑みがこぼれた。
「おいしい! これはトマトソースね! ほどよい酸味とトマトの甘みがしっかり活きてる!」
「ああ、本当だ! それに麺自体もすごくウマい! あんなにカチカチだったのが、こんなにつるつるになるなんて! これならソースなしでだって十分いけるよ!」
栄養価を高めた改良米は糖分が多く、自然な甘みがある。
ライルの茹で加減も絶妙で、もちもちとした歯ごたえとのど越しが心地いい。
トマトソースも旨みの中にちょっとした清涼感もあって食べ飽きない。
私とギルが手放しで褒めると、ライルはほっと息をついた。
「よかったぁ。ちなみにトマトは姉さまの農園で育てたトマトを使っています。あとハーブも少々」
稲の栽培が軌道に乗ってから、畑を増やして育て始めた野菜の一つだ。
最近ではトマト以外にも、豆やハーブ、根菜などいろいろ挑戦している。
なるほど、このソースにある爽やかさはハーブによるものだったか。
「いやぁ、これは恐れ入ったわね。レシピや材料は私がそろえてあげたものとはいえ、私が作ったときは“まあ食べられるわね”くらいの出来だったのに。でも、これならもうプロ級と言ってもいいわ」
「ああ。お店で出されても文句ないレベルだよ。むしろ本当に開いてみたらどうです? きっと繁盛しますよ」
「あはは。ありがとうございます」
私とギルがなおも褒め続けると、ライルが照れくさそうに頬をかいた。
やっぱり可愛い。
「うむ、それは妙案だ。よし、早速手配いたしましょう」
……いや、さすがにそれは早すぎでしょ。
そんなモーリスのことはさておき、私たちはその後も他のソースも試しつつライルのパスタを堪能した。
すると、そのうちの一つでギルの手が止まる。
クリーム、魚介、香草と木の実……どれも個性があって面白い。
と、そこでギルの手が止まる。
「おや?」
「どうしましたか、ギルバートさん? もしや、お口に合いませんでしたか?」
「いえ、ライル殿下。そうではなくて、ちょっと不思議で。この酸っぱい味……これって酢ですよね?」
「あ、はい。そうです。このソースは酢をベースにしたビネガーソースです」
「これも美味しいわね。ほどよい酸味が食欲をそそるわ」
私も同調しながら頷く。
けれど、ギルはなおもスプーンですくったソースをじっと観察していた。
「なるほど。でも、やっぱり不思議です。自分の記憶では、この国で酢なんて作っていなかったはず……」
「実は“あるもの”を作った過程で、たまたまできたものなんです。でもお酢はお酢で便利なので、その偶然をきっかけにきちんとした作り方を確立しました」
「あるもの? ライル、それってもしかして……」
ライルが恥ずかしそうに笑う一方、私は思わず身を乗り出した。
もしも推測が正しければ、その“あるもの”とは私にとって――いえ、この国にとっての“救国の鍵”とも呼べる発明品。
けれど私はその製法を完全には知らず、錬金術でも再現に苦戦していた。
そこで必要そうな器具だけを用意し、あとはライルの好奇心に託していたのだが……。
「そうです。姉さまに教わって、僕が握らせてもらいました!」
えっへんと胸を張るライル。
いちいちかわいい。
「そしてそれを私が給仕に扮して運びました」
「え、あれってモーリスだったの?」
「ああ。甚だ不本意ではあったが、フェルト王女に頼まれて仕方なくな」
「ふふ、ごめんね。お米の件を知っている人間は限られているから、秘密裏に動くにはモーリスに頼むしかなかったのよ」
秘密を知る人を簡単に増やすわけにはいかない。
だから信頼できるこの二人にだけ協力してもらったのだ。
なお、ビジュアル的に燕尾服が似合いそうだと思ったから――という裏の理由は内緒にしてある。
さっき会ったときの反応からして、本人はどうやら執事扱いが不服みたいなので。そこは一応騎士としてのプライドだろうか。
それにしても、顔なじみのギルでさえ全然気づかないほど衣装に溶け込むとは……やっぱり私の見立てに間違いはなかったようね。
「まあまあ、モーリス。でも、僕もすごく似合っていたと思うよ」
「はっ! ありがたき幸せ!」
「あはは……」
なにこの凄まじい変わり身。
ライルに褒められた瞬間、モーリスは片膝をついてすかさず敬礼する。
まったく、ライルの人たらしぶりは健在ね。
私たちは和やかな雰囲気のまま、玄関から奥へと進む。
「おお、すごいな。本がこんなにいっぱい……」
部屋に入ってすぐギルが感嘆の声を漏らす。
ライルの部屋は、本人の愛らしい印象とは対照的だった。
壁一面を本棚が覆い、天井近くまでぎっしりと本が積まれている。
「ここはもともと父の書斎だったからね。アストリアだけじゃなく、他国から取り寄せた本もたくさんあるわ」
「へ~」
元気だった頃の父は、「知恵こそ力」と信じる学者気質な人だった。
宝石や芸術品よりも書物を愛し、知識の収集に情熱を注いでいた。
今でこそアストリアは人口わずか三千人の小国だが、領地を奪われる前はそれなりに豊かで、当時に集められた蔵書がこうして残っている。
すべてを運び込むことはできなかったとはいえ、これだけの量が残っているのは父の学問への執念の証だろう。
そしてそんな父だからこそ、例の師匠が残した錬金術の魔導書なんて代物を持っていたのかも……と今では思う。
「ま、今はほとんどライルの部屋って感じだけどね。ライルはとにかく本の虫だから。いちいち借りに来るより、もういっそここへ住んじゃえばって言ったら本当に引っ越ししてきたのよね」
「あはは……グロウ兄様もリヒテル兄様もいいよって言ってくださったので。おかげで毎日心置きなく本が読めて楽しいです」
「二人ともライルには甘いからね~」
アストリア王家の中で、ライルは最も色濃く父の血を受け継いだ子だ。
彼は昔から大の本好きで、今ではこの部屋を半ば自室として使っている。
ベッドと小さな机だけを持ち込み、あとは本。本。本。
きっといろんな知識に触れるのが好きなのだろう。
おかげで私やリヒテル兄様が本を借りに訪ねるたびにも、なにかと外の世界に関して質問攻めに遭うのが恒例行事になっていた。
――さて、それはともかくそろそろ本題に入りましょうか。
「ところでライル。今夜、私を呼んだということは――もしかして“アレ”ができたってことでいいのかしら?」
「はい、そうですフェルト姉さま。どうぞ、これを見てください!」
ライルが誇らしげに差し出したのは、細く真っ白な乾燥麺だった。
「わぁ! すごい、よく出来てるわね」
「? それはなんだい?」
「えっと、フェルト姉さまに頼まれていた“お米で作ったパスタ”です」
ギルの質問に、ライルが嬉しそうに答える。
パスタとは言っても、原料は小麦ではなく米。
どちらかといえばベトナムのフォーに近いが、あいにくこの世界にそんな言葉はない。
だから便宜上、“お米パスタ”ということにした。
「へぇ~、パスタか。ローム帝国での生活を思い出すな」
「あっちは普通に小麦が取れるものね」
留学経験のあるギルからすれば、パスタ自体は割と馴染みのある食べ物。
だからこれだけではまだ驚かない。
「でも、その割にはずいぶん硬そうだね。……これ、ほんとに食べられるの?」
「大丈夫よ。これは乾燥させた保存食なの。今はカチコチだけど、茹でればちゃんと普通のパスタみたいになるわ」
「僕も最初はびっくりしました。保存食ってあまり美味しいイメージがないですけど、このパスタはたくさんのお湯で茹でるととっても美味しいんですよ」
この世界では、麺といえば生麺が主流だ。
それというのも天日干しにできる食材以外、乾燥させて保存するという技術がないためである。
まあアストリア王国の場合は、そもそも小麦が取れないのでパスタ自体がかなり珍しい食べ物ではあるけど。
だから、この“お米パスタ”は立派な発明品と言えるだろう。
「実は前からライルには、工房で育てたお米で新たな食料の開発をお願いしていたの。お米は炊いて食べるのが普通だけど、せっかくならもっと活用したいと思ってね」
なにより私自身、お米を育てた経緯と同じくパスタも食べたいという欲求があった。
というわけで、挑戦してみることにしたのだ。
それに乾燥パスタなら長期保存で備蓄もできる。
お米も玄米のままなら保存が利くが、精米後は賞味期限が一~二ヶ月程度になってしまう。
だから豊作の時期にパスタとして加工しておけば、凶作の備えにもなる。
まさに一石二鳥というわけだ。
それにしても、本当に見事な出来栄えね。
ライルは地頭も良く本で蓄えた知識も豊富だし、おまけに料理も上手だから期待はしていたけど、まさかここまで完璧に仕上げてくるとは……。
以前、私が錬金術で水分だけを飛ばそうとしたときは失敗したのに、いったいどうやったのかしら。
あとでこっそり聞いてみよう。
「なるほどな。麺料理はローム帝国でもよく食べていたけど、こんなタイプは初めてだ。食べてみたい」
「はい、たくさんご用意していますので、ぜひ! さあ、フェルト姉さま。ダイニングへ参りましょう」
感心しながら頷いたギルに、ライルが嬉しそうに答える。
そして私の手を取りながら隣室の食卓へ。
それからほどなくして、ライルはモーリスと共に手際よく調理を始めた。
大きな鍋でお湯を沸かし、乾いた麺を丁寧にくぐらせる。
蒸気とともに広がる香りが、どこか懐かしい。
そして数分後。
「フェルト姉さま、ギルバートさん。お待たせしました」
トレイの上には、茹で上がった真っ白なパスタと数種類のソースが並んでいた。
ソースはインドカレーなんかで見かけるランプのような形の食器に入っている。
「ソースはいろいろ試してみました。お好みでどうぞ」
「さあお二方! 私とライル坊ちゃまが丹精込めて作り上げた渾身の一皿です。どうか温かいうちにお召し上がりくださいませ!」
「ええ、ありがとう」
「いただきます!」
まずは赤い色をしたソースから味見してみる。
私とギルはなぜか得意げな顔をしているモーリスを横目に、ライルが作ったパスタをくるくる巻いてぱくりとひと口。
その瞬間、思わず笑みがこぼれた。
「おいしい! これはトマトソースね! ほどよい酸味とトマトの甘みがしっかり活きてる!」
「ああ、本当だ! それに麺自体もすごくウマい! あんなにカチカチだったのが、こんなにつるつるになるなんて! これならソースなしでだって十分いけるよ!」
栄養価を高めた改良米は糖分が多く、自然な甘みがある。
ライルの茹で加減も絶妙で、もちもちとした歯ごたえとのど越しが心地いい。
トマトソースも旨みの中にちょっとした清涼感もあって食べ飽きない。
私とギルが手放しで褒めると、ライルはほっと息をついた。
「よかったぁ。ちなみにトマトは姉さまの農園で育てたトマトを使っています。あとハーブも少々」
稲の栽培が軌道に乗ってから、畑を増やして育て始めた野菜の一つだ。
最近ではトマト以外にも、豆やハーブ、根菜などいろいろ挑戦している。
なるほど、このソースにある爽やかさはハーブによるものだったか。
「いやぁ、これは恐れ入ったわね。レシピや材料は私がそろえてあげたものとはいえ、私が作ったときは“まあ食べられるわね”くらいの出来だったのに。でも、これならもうプロ級と言ってもいいわ」
「ああ。お店で出されても文句ないレベルだよ。むしろ本当に開いてみたらどうです? きっと繁盛しますよ」
「あはは。ありがとうございます」
私とギルがなおも褒め続けると、ライルが照れくさそうに頬をかいた。
やっぱり可愛い。
「うむ、それは妙案だ。よし、早速手配いたしましょう」
……いや、さすがにそれは早すぎでしょ。
そんなモーリスのことはさておき、私たちはその後も他のソースも試しつつライルのパスタを堪能した。
すると、そのうちの一つでギルの手が止まる。
クリーム、魚介、香草と木の実……どれも個性があって面白い。
と、そこでギルの手が止まる。
「おや?」
「どうしましたか、ギルバートさん? もしや、お口に合いませんでしたか?」
「いえ、ライル殿下。そうではなくて、ちょっと不思議で。この酸っぱい味……これって酢ですよね?」
「あ、はい。そうです。このソースは酢をベースにしたビネガーソースです」
「これも美味しいわね。ほどよい酸味が食欲をそそるわ」
私も同調しながら頷く。
けれど、ギルはなおもスプーンですくったソースをじっと観察していた。
「なるほど。でも、やっぱり不思議です。自分の記憶では、この国で酢なんて作っていなかったはず……」
「実は“あるもの”を作った過程で、たまたまできたものなんです。でもお酢はお酢で便利なので、その偶然をきっかけにきちんとした作り方を確立しました」
「あるもの? ライル、それってもしかして……」
ライルが恥ずかしそうに笑う一方、私は思わず身を乗り出した。
もしも推測が正しければ、その“あるもの”とは私にとって――いえ、この国にとっての“救国の鍵”とも呼べる発明品。
けれど私はその製法を完全には知らず、錬金術でも再現に苦戦していた。
そこで必要そうな器具だけを用意し、あとはライルの好奇心に託していたのだが……。
2
あなたにおすすめの小説
『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれた浄化師の私、一族に使い潰されかけたので前世の知識で独立します
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。
しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。
ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。
死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。
「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」
化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。
これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
役立たずの【清浄】スキルと追放された私、聖女の浄化が効かない『呪われた森』を清めたら、もふもふ達と精霊に囲まれる楽園になりました
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
侯爵令嬢のエリアーナは、ただ汚れを落とすだけの地味なスキル【清浄】を持つことから、役立たずと蔑まれていた。
ある日、絶大な聖なる力を持つ「聖女」が現れたことで、婚約者である王太子から婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
行くあてもなく、誰も近づかない『呪われた森』へと逃げ込んだエリアーナ。
しかし、彼女が何気なくスキルを使うと、森を覆っていた邪悪な呪いがみるみる浄化されていく。
実は彼女の【清浄】は、あらゆる穢れや呪いを根源から消し去る、伝説級の浄化能力だったのだ。
呪いが解けた森は本来の美しい姿を取り戻し、伝説の聖域として蘇る。
その力に引き寄せられ、エリアーナのもとには聖獣の子供や精霊、もふもふの動物たちが次々と集まってきて……。
一方その頃、聖女の力では浄化できない災厄に見舞われた王国は、エリアーナを追放したことを激しく後悔し始めていた。
転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい
夢見望
ファンタジー
レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。
くらげ
ファンタジー
俺、 鷹中 結糸(たかなか ゆいと) は…36歳 独身のどこにでも居る普通のサラリーマンの筈だった。
しかし…ある日、会社終わりに事故に合ったらしく…目が覚めたら細く小さい少年に転生?憑依?していた!
しかも…【この子】は、どうやら家族からも、国からも、嫌われているようで……!?
よし!じゃあ!冒険者になって自由にスローライフ目指して生きようと思った矢先…何故か色々な事に巻き込まれてしまい……?!
「これ…スローライフ目指せるのか?」
この物語は、【この子】と俺が…この異世界で幸せスローライフを目指して奮闘する物語!
無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。
ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。
時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。
死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。
彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。
心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。
リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。
やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる