どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第28話

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「はい、お察しのとおりですフェルト姉さま。ついにできました」
「ホントに!? すごいじゃない、ライル!」

 期待を込めて見つめた私に、ライルがにっこり微笑み返してくる。
 私は思わず椅子から腰を浮かせてしまった。でも、そのくらい興奮していた。

 それはいわゆる嗜好品。“飢えをしのぐ”ためではなく、“暮らしを豊かにする”象徴。
 私が目指す救国は、ただ生き延びるだけじゃ足りない。
 人が笑って明日を楽しみにできる国にすること――ずっと振る舞いたかった、それが形になった。

「まだ試作段階なので、改良の余地はありますけどね。もっとも、僕は年齢的に味の良し悪しを細かく判断できないのですが」
「いえいえ。私もライル坊ちゃまの近衛騎士として味見しましたが、現時点でも素晴らしい出来でしたよ。まさか、あれがこの国で手に入るとは。ああ、まさに天才!」
「そういうわけなので、あとでぜひ実験場を覗きにきてください」
「ええ、もちろん行かせてもらうわ」

 やたら大げさなジェスチャーで称えるモーリス。それをよそに笑顔で頷き合う私とライル。
 が、ひとりだけ蚊帳の外のギルだけは不服そう。

「なあ、さっきからみんなで何の話をしてるんだい? あれだのなんだの、すごく気になるんだけど」
「あ、すみませんギルバートさん。それじゃあモーリス、例の物を持ってきてください」
「かしこまりました、ライル坊ちゃま」

 一度厨房に下がったモーリスが水差しを運んでくる。
 中身は無色透明。

「これは、水……じゃないよな? ほんのりいい香りがする」
「ふふ、飲めばわかるわ」

 とくとくと注がれた液体の臭いを、ギルが犬のようにクンクンと嗅ぐ。
 私は彼に促しながら、自分も同じくコップに口をつけた。

 舌に触れた瞬間、米の甘みがほどける。澄んだ味わいとやさしい余韻。
 ――おいしい。
 喉を過ぎると、静かな火が胸の奥にともるような心地よい酩酊がひろがっていく。

 そう、これはまさしく――。

「信じられない。これ“お酒”かい? しかも、とっても上質な」
「ええ、そうよ。お米ができたときから、ずっと作りたいと思ってたの」
「麦やブドウじゃなくて、あのコメをお酒に……。すごい、こんなの見たことも聞いたこともない。けど……うまい!」

 ギルがもう一口、コップを傾けて唸る。
 米のお酒――いわゆる日本酒。
 お米の存在が珍しく、ビールやワインが一般的なこの世界では、まず概念すらない代物。

「僕も“お米でお酒を造りたい”って姉さまに相談されたときは驚きました。でも、いざ作ってみたら、これがバッチリというか」
「いやはや。先ほども申し上げましたが、風味も味わいも素晴らしい。ビールとは似ても似つかぬ、高貴な余韻……!」
「……すごいや。ローム帝国ではビールは水みたいな扱いで、珍しくもなんともなかったけど。お酒って、こんなに美味しいんだな」

 この時代は普通に飲める水が少なく、ビールはビールでも私が前世で知っているものとは別物。味が薄くてアルコールも弱い、淡泊な飲み物だ。

 対して、ライルの作ったこの日本酒はまさに幸せの味。
 ただ生き延びるだけでなく、豊かな暮らしを実感させるに十分な一杯。

「ねえライル。このお酒、量産にはどれくらいかかりそう? できれば、冬を越す前に国民全員に振る舞いたいんだけど。できるかしら?」
「材料がそろえば、なんとかしてみせます。姉さまの頼みとあらば」

 頼もしい答えに、私は誇らしさを覚える。

 ライルは博識で十歳とは思えないほど優秀で、兄たちもそれは認めている。けれど国にとっての武器になる才だとは思っていなかったはずだ。

 素直すぎて駆け引きができず、頭は良くても政治には向かない。
 かといって魔力があって身体能力は強化できても、持病のため前線に立たせるわけにもいかない。
 なにより戦いの場に立つには性格が優しすぎる。
 だから、兄たちも箱入の宝物のように扱ってきた。

 でも、私はずっと感じていた。
 ライルには私にはない発想力と応用力、そして器用な手がある。
 この力はきっと私の目指す救国の助けになってくれる、と。

「今度、お兄様たちにもネタばらしをしないとね。お兄様たちが絶賛した“おにぎり”を誰が握ったのか。そのあとで、このパスタとお酒も味わわせてあげましょう。きっと腰を抜かすわ」

 グロウ兄様とギルの決闘はもちろん大事。
 でも、国を豊かにすることは、それ以上に重要なこと。
 私はすぐにリヒテル兄様と段取りを組み、田んぼの収穫までにライルのレシピを広めるつもりだ。


 ***


 食事を終えた私たちは、再び地下工房へ戻ってきた。
 後回しにしていた「ギルの新兵器のためのデータ取り」をするためだ。
 うぅ、ついにこの時が来たか……。
 お腹は満たされたけど、心の準備はまったく整っていない。

「それで、データってどう取るんだ?」
「あ、うん……」
「フェルト?」
「え、ああいや、やり方自体は簡単よ。食事に行く前に、ここで私と握手して手がビクンとなったでしょ?」
「あの電気ってやつか」
「……うん。あれをまあ、全身くまなく隅々までやる……って感じ。いろんなところを触って、私の魔力を流して、それでギルの反応を確かめて……」
「え」

 事ここに至って、ギルも察したらしい。
 若干顔色が変わった。

「ちなみに、ちゃんと正確なデータを取るためには……その、なるべく余計な布はない方がいいの。反応が鈍っちゃうから……」
「…………!!」

 ギルが盛大に目を見開く。
 余計な布――つまりはそういうことである。

 しばらくしてギルから「準備ができた」との報告を受け、データ測定が始まる。
 ギルは着ていた服をすべて脱ぎ、私の前に立っていた。
 薄明かりの中に浮かび上がる剣士の肉体。
 しっかり筋肉質で引き締まっているが、決してゴツゴツした印象はない。
 むしろ染み一つない肌はきめ細やかで透き通っており、若干の女性らしさすら感じる。
 私は美しい体つきに、つい生唾を飲んでしまった。
 ……って、なに見惚れてるのかしら私は!

「……その、なるべく早く済ませるわ///」
「……そうしてくれると助かる///」

 お互い顔を真っ赤にしながら視線を逸らす。
 普段はやや天然気味でそういうことに疎そうなギルも、このときばかりは少し態度がおかしかった。

 私はそっと手を伸ばし、ギルの胸板に触れた。

「うおっ」
「ちょ、まだ電気は流してないわよ!」
「ご、ごめん。なんか、思ったより手が温かくて」
「そりゃあ……」

 こんな状況で体温が低くなるはずもなく。
 私の手がギルの肌に密着する。
 汗ばんだ感触と、鼓動。
 熱い。顔も手も、胸の奥も。
 魔力を流すために触れているはずが、代わりに妙な気分が込み上げてくる。
 けれど私は首を振り、煩悩を振り払う。

 目的は一つ――二人でグロウ兄様を超えるために、最高の装備を作ること。

 そう、これはそのためのデータ取りに過ぎないのよ!
 研究、科学、使命……やましい気持ちなんてない! 集中よ、集中!
 ……ああ、でもやっぱり!

 私は内なる自分と葛藤を繰り広げながら、データ取りを開始した。

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