どうも、崖っぷち王女です~転生先が滅亡寸前の小国だった私は、幼馴染の騎士とクセモノな兄二人に囲まれながら【禁忌の術】で国を救います!

宮田花壇

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第35話

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 決闘が終わり、グロウ兄様の提案で宴が始まる。
 なんだかんだここ一ヶ月常に漂っていた緊張から解放され、さぞやみんな楽しんでいることだろう……と思いきや。

「「「…………」」」

 城外にある広場では、兵士たちが無言で固まっていた。
 とても宴を楽しんでいるように見えない。
 ……が、それもある意味で当然のこと。

「ま、こんなもんよね……」
「うん……」

 私とギルは、そろって何とも言えない顔でテーブルを見下ろした。
 そこに並んでいたのは、宴にふさわしいご馳走とはほど遠いラインナップ。
 蒸かしたカボチャ、ヤギのミルク――以上、それだけ。

「ま、まあ……とにかく食べよう!」
「そ、そうね! いただきます!」

 気を取り直してフォークを手に取り、ほくほくのカボチャを口に運ぶ。
 口の中に広がる優しい甘み。
 ……うん、悪くはない。悪くはないんだけど。

「おいしい……な」
「……ええ、そうね」

 沈黙。
 おいしいけれど、宴で食べたいものではない。
 やっぱり宴と言えば、こう……肉とか、魚とか、そういう“見た目や香りの暴力”が欲しいっていうか……。
 ああ、でもいけないわフェルト! シルフィーナ姉さんがその身を削って送ってくれたカボチャを前に、そんな不謹慎なことを思うなんて! この恥知らず!
 そうよ、悪いのはカボチャじゃない。むしろこの国でお腹を満たせる食事にありつけるだけ、どれほどありがたいことか! 
 …………でも、やっぱりこの静けさはちょっと寂しい。

「まあでも仕方ないわよね。やる前はみんな決闘に集中してたし、誰もその後のことまで考えてなかったもの」
「ああ。この宴も完全に殿下の思いつきだしね。それに、この国の現状を考えたら……」

 ギルの言うとおり。
 稲を植えたのはまだ一か月前。収穫までには時間がかかる。
 塩田づくりも道半ばで、塩を輸出して他国と交易を始めるにはもう少し準備が必要だ。
 つまり――国の食料事情はいまだ火の車。
 こんな状況で“いかにもな”宴を開こうなんて、どだい無理な話というもの。

 ――だがしかし、そこに救世主が現れた。

「フェルト姉さま、ギルバートさん。決闘の勝利、おめでとうございます」

 やってきたのはライルだった。背後には日傘を手にモーリスも立っている。
 ライルは透き通るような白い肌を日差しから守るため、晴れの日でも傘をさして外に出なければならない。

「ライル、ありがとう。まさかあなたまで観戦に来てくれるとは思わなかったわ」
「大事な日ですから。僕にも王族として、ちゃんと見届ける責任があると思ったんです」

 立派な心掛けね。とても十歳とは思えない。
 これで身体の心配さえなければ、ライルこそ名君の器かも。
 たまにそんなことを考える。

「お疲れさまでした、ギルバートさん。姉さまの話に聞いていた通りでした。あの戦い方、華やかで見ていてすごくわくわくしました!」
「腕を上げたな、ギルバート。見事な決闘だった」
「二人ともありがとう。でも、まだ納得はしてないんだ。今日の勝利はフェルトの装備あってこそ。この次は、俺だけの力で殿下を超えてみせる」

 ライルとモーリスの称賛に、ギルは照れくさそうに笑ってほおをかいた。
 そこからしばらく、私たちは決闘の感想戦で盛り上がった。
 この一ヶ月の海辺での特訓や例の新装備のこと、そして本気になったグロウ兄様の迫力のヤバさなど……気づけば、話は弾んで場の空気もだいぶ和んでいた。
 やがて、ギルが皿を手に取る。

「……あれ、もうカボチャがない」
「まあ、兵士の人たちはよく食べるからね。……でも変ね。私の記憶だと、もっと用意していたはずなんだけど」

 宴の前に給仕と打ち合わせた分量なら、まだ余りがあるはず。
 私とギルが同時に首をかしげていると――。

「ふふ、フェルト姉さま、安心してください」

 ライルが楽しそうに微笑む。

「蒸したカボチャは半分だけで、もう半分は姉さまたちの勝利を祝うためのご馳走にしたんです。そろそろ届くはずですよ」

 その言葉どおり、ちょうど奥から使用人たちが皿を運んできた。
 香ばしい匂いが風に乗って鼻をくすぐる。
 私はその黄金色の円盤がテーブルの上に置かれた瞬間、気がつけば椅子を蹴飛ばすように立ち上がっていた。

「……こ、これはまさか……!」
「はい、かぼちゃを使った“ケーキ”です」
「!!!!!」

 やっぱり……!
 身体中に電流が迸る。
 この国にはケーキなんて存在しない。いや、焼き菓子自体がほぼ伝説級だ。
 なんせそれらの主たる材料である小麦がないのだから当然だ。

「前にお姉さまが“甘いものが恋しい”って言っていたでしょう? だから挑戦してみました」
「お、覚えていてくれたのね……」
「はい。それに、お祝いといえば、やっぱりケーキかなって」

 天使。
 にっこり笑うライルの背に、私は本当に白い羽が見えた気がした。

 モーリスが一歩進み出て、丁寧に説明を始める。

「小麦がない分は、フェルト王女が作ったおコメで代用しました。この間のパスタを覚えておいでですか? あれを作る際にいったん粉にしたおコメを、試しに山羊のミルクを加えて焼いてみたのです」
「するとサクサクとした食感が良い具合で……そこで前にチラッとお姉さまがしてくれたケーキの話を思い出したんです。たしか、正確には“タルト”――という名前でしたでしょうか」
「え、ええ……」

 ここだけの話、転生前の私は大の甘党だった。中でもおばあちゃんがたまに焼いてくれたパンプキンタルトが大好きだった。
 ちなみに私は誰にも自分が転生者だと伝えていない。言ったところでどうせ信じてもらえないからだ。
 だからあくまで前世の記憶というのは伏せた上で私がポロッとこぼした話を、ライルはその情報をもとに独自に再現してくれたのだ。

「それもこれも、姉さまのくれた“砂糖”のおかげです」

 ああ、あれね。
 懐かしさと同時に、あの地獄の試行錯誤の日々がよみがえる。
 サトウキビがないこの国で、植物の自然糖を錬成して甘みを抽出する作業。あれはもはや錬金術というより執念の産物だった。
「これも国の発展のためよ!」と言い訳しながら、実際は“甘いものが食べたい”一心で夜な夜な実験していた私。

「こ、これ……食べていいのか?」
「見たことねえ……」
「甘い匂いがする……?」

 突然現れたタルトにざわつく兵士たち。
 それもそのはず、焼き菓子なんて他の大国でも上流貴族くらいしか食べられない超貴重品だ。
 興味は津々だが、初めて見る食べ物に戸惑っている様子。
 そうして誰も手を出せずにいる中、私は先陣を切って口にする。
 みんなの視線が私に集中する。

「では……いただきます」

 パクリと一口。
 ――甘い。
 こしたカボチャの滑らかさと、焼きたての香ばしさが舌の上で溶け合う。
 ほろりと崩れるタルト生地、そこに染み込むミルクの優しい風味。

「おいしい……!」

 そのひとことが合図だった。
 プルプルと震えながら感動の声を漏らした私。
 その姿に触発され、見守っていた人々が次々と皿に手を伸ばす。

「あ、甘い! 甘いぞ!」
「なんじゃこりゃあ! うますぎる!」
「おいおいおい! こんなすげぇもん今まで食べたことがねぇぞ!」
「おい、俺にも寄越せよ!」
「うめぇえええええ!!」

 一口食べるや否や歓喜に打ち震える兵士たち。
 それだけではない。

「こいつぁたしかにうめえな!」
「……ああ。すごいよライル、本当に」

 普段は厳しいグロウ兄様が、まるで子供のような顔で頬張っていた。
 リヒテル兄様も冷静を装っていたけど、口元が完全に緩んでいる。

「えへへ……」

 二人の尊敬する兄たちに褒められ、ライルが嬉しそうにモジモジする。なんとも微笑ましい光景。
 私も手が止まらず、ついつい一切れもらおうと手を伸ばす。

「これ、他の皆にも教えてあげないとね。きっと飛び上がって喜ぶわ」
「そうですね。でも甘みを出すには砂糖が必要なので……たくさんはまだ作れないんです」
「ああ、そういえばそうだったわね」

 なんとか錬金術で砂糖を作れたと言っても、さすがに大量には生み出せない。
 それらしい原料があるならまだしも、今回は半ば無理矢理だったので消費する魔力も大きかった。
 やれやれ、なかなか一筋縄じゃいかないわね。
 やっぱり早く他国と貿易して欲しいものを得られるようにならないと。

「他にはどうかしら? 料理をしてて、ライルが“これが欲しい”って思ったものはある?」
「そうですね……食材とは少し違うんですが、憧れはやっぱりお鍋です」
「お鍋? 鉄鍋のこと?」
「はい。それがあれば、前に姉さまが言っていた“油で揚げる料理”もできると思うんです。他にもいろんな調理法を試せますし」
「なるほどね……」

 この国には鉱山がなく、鉄は常に不足している。
 剣を揃えるのがやっとで、農具に至っては木の先端を鉄で覆う“なんちゃって仕様”で精いっぱいなのが現状。
 とはいえこの先を考えると、鉄は欠かせない資源だ。
 一番手っ取り早いのは他国からの購入だけれど――隣国を経由すれば、即「反攻の準備だ」と疑われる。
 そんな状況での大量輸入は自殺行為に等しい。
 う~ん、なんとか秘密裏に手に入れる方法はないかしら。
 ……いや待って。そういえば、たしか師匠の遺産で――。

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