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「オニ役!?」
さっき助六さんが、持ってきた話を聞いて、ボクは絶叫する。
「そりゃ、これ以上の適任者いねぇーだろ」ピョン太は、アッサリと言うけれど
「だって、完全に悪者じゃないか!豆ぶつけられるんだぞ!!」
憤慨するボクを宥めるようにアオさんが言った。
「悪が居なけりゃ、善は生まれねぇ。
そんなこと、皆わかってるけど、誰もやりたくねーから、オラに話しが
回ってきたんだろ。なら、やるしかねーだろ。
頼りにされてるこの機会を無駄にしたら、男がすたる!!」力説したあと
「それにオラなら、衣装とか、必要ねーしな!」
下手クソなウインク(?)をつけ足した。
【なんてこと無い】というふうに、
あっけらかんとされたら、一人で怒ってるボクは馬鹿みたいだ。
しぶしぶそれを承諾するしかなかった。
..*+☆.**+☆+*..
当日。
アオさんはどこにしまってあったのか?金棒を持ち出し、意気揚々と広場に向かう。ボクとピョン太もそれに続き、小屋を出た。
広場には、大勢の人がつめかけ、アオさん(鬼)の登場を待っていた。
手には、おのおの豆を握っている。
ボクらもその中に加わり、アオさんを待つ。
ところが…。
「悟!!」
感極まったような叫び声。と、ほぼ同時に、強く誰かに抱きしめられた。
何事?と顔を上げる。
「母さん…」
両目を真っ赤に腫らした母さんがいた。
「もぉ!どこ行ってたのよ」
怒りながら、また、ボロボロと涙をこぼす。よく見ると、少し困り顔の父さんも隣りに立っている。
やがて、ひとしきり泣き終えた母さんは
「さぁ、帰りましょう」
さも当前のようにボクの手を引く。
「ヤダ!帰らない!!」
瞬時に反抗を示すボクを見下ろし
「また、そんなこと言って…!!」
哀れみの目を向けてくる。
これに父さんも賛同し、ボクは半ば無理やり、家に連れ戻された。
久々に戻った自室で、膝を抱え頭を垂れていると、
「今度、つきあってやるから元気だせよ」
どうやって戻ってきたのか?目の前にピョン太がいた。
「あの二人も、今回のことで、結構懲りたみたいだから、少し自粛するだろ!」
「でも、アオさん!」
「アオさんが居ない。ボクはアオさんとずっと一緒に居たかったんだ」
顔を上げ抗議するけど
「オマエ、スゴく懐いてたもんな!でも、ずっとあのままってわけにい
かなかったろ。オマエは子供で、しかも人間だ」
「そんなの関係ない!!」
張り上げた声は
「そんなことないさ」
厳かなピョン太の声で打ち消される。
「それに…」
わずかに逡巡したあと、
「これは、アオが望んだことでもあるんだ」
「アオさんが?」
信じられない!
「嘘だ!」
聞きたくない!!
手で耳を覆うけれど…
「オマエに内緒で頼まれた。
親が迎えに来られるように、居場所を知らせてくれってな」
隙間をかいくぐり、声は届いた。
「そんなの嘘だ!!アオさんがそんなこと…」
「本当だよ」
言い終わらないうちにピョン太に遮られる。まるで最終宣告のように。
そして、その顔は苦しげに歪められていた。
ひと月かかってしまった。
やっと親の監視が離れ、今日から、
また一人で行動的できる!!
早速ボクは学校帰りに、あの小屋に行ってみることにした。
本当は、もっと早くに行きたかったんだけど、なかなか一人になれる機会が無くて…。
家に戻された直後、アオさんに会いたくて「忘れ物がある」って言って
みたんだけど、全然取り合ってくれなくて、今に至る。
..*+☆.**+☆+*..
久しぶりに訪れた小屋は、ひとことで言うなら、とてもさびれていた。
まず目につくのが【苔】で、いたるところにはびこり、下地を変色させてしまっている。
他にも、表皮をめくり上げ、室内と外部を同一の環境にしてしまってい
るものまである。
『おかしいな?アオさん居るはずなのに』
ボクは首を傾げながら、中に入る。
室内にアオさんの姿はなかった。
ポツリと囲炉裏のそば、ボクの座っていた場所にランドセルが置かれている。
そのランドセルは、ボクの忘れ物。
あの…アオさんと知りあった日に、ボクか背負っていたものだった。
おもむろにそれに近づき、カバンを開ける。
カサリ───
きれいに折りたたまれた紙が一枚、入っていた。
それを手にとり、中をみる。
【さとるへ
ゴメンな。ちゃんと挨拶もしねーで、居なくなまって。
でも、オマエの顔見たら駄目だと思ったんだ。
たぶん?オラ、何もいえなくなる。
だから、ピョン太に頼んじまった。
オラ、狡いよな。
オマエがこの手紙を読んでる頃、オラはもう他の場所にいる。新しい土
地で、元気にやってるから安心しろ!
悪いが、もうここに戻ってくるつもりは無い。
だからオマエも、明るく元気に暮らせ!!好き嫌いしないで、何でも食えよ!
あと、あまりご両親に心配させるな!!
もう会うことが無くても、オレはずーとずっとオマエの幸せを願ってる
。達者で暮らせよ!!
最後に短い間だったけど、一緒にいられてオラもはスゴく楽しかかった
ぞ。ありがとな!! アオより】
泣いた。
手紙を胸に抱いたまま、わんわん泣いた。
体中の水分が、みんな流れてしまうのでは?と疑うほどに…。
やがて高かった日差しが、大幅に傾き朱色に染まった頃、
やっと涙の止まったボクは、重い身体を叱咤して、よろよろと立ち上がる。
アオさんからの手紙を大切にしまうと、後ろ髪引く思いを断ち切り、小屋をあとにした。
ボクは、絶対、忘れない!
アオさんも。ここでの生活も。
そしていつの日か、またアオさんに会うんだ!!
決意を固め、ボクは歩きだした。
明日に向かって!!
『まずは、ピョン太にこの手紙を見せなきゃな』
早く感想を聞きたくて、ボクは家に向かって走りだす。
さっき助六さんが、持ってきた話を聞いて、ボクは絶叫する。
「そりゃ、これ以上の適任者いねぇーだろ」ピョン太は、アッサリと言うけれど
「だって、完全に悪者じゃないか!豆ぶつけられるんだぞ!!」
憤慨するボクを宥めるようにアオさんが言った。
「悪が居なけりゃ、善は生まれねぇ。
そんなこと、皆わかってるけど、誰もやりたくねーから、オラに話しが
回ってきたんだろ。なら、やるしかねーだろ。
頼りにされてるこの機会を無駄にしたら、男がすたる!!」力説したあと
「それにオラなら、衣装とか、必要ねーしな!」
下手クソなウインク(?)をつけ足した。
【なんてこと無い】というふうに、
あっけらかんとされたら、一人で怒ってるボクは馬鹿みたいだ。
しぶしぶそれを承諾するしかなかった。
..*+☆.**+☆+*..
当日。
アオさんはどこにしまってあったのか?金棒を持ち出し、意気揚々と広場に向かう。ボクとピョン太もそれに続き、小屋を出た。
広場には、大勢の人がつめかけ、アオさん(鬼)の登場を待っていた。
手には、おのおの豆を握っている。
ボクらもその中に加わり、アオさんを待つ。
ところが…。
「悟!!」
感極まったような叫び声。と、ほぼ同時に、強く誰かに抱きしめられた。
何事?と顔を上げる。
「母さん…」
両目を真っ赤に腫らした母さんがいた。
「もぉ!どこ行ってたのよ」
怒りながら、また、ボロボロと涙をこぼす。よく見ると、少し困り顔の父さんも隣りに立っている。
やがて、ひとしきり泣き終えた母さんは
「さぁ、帰りましょう」
さも当前のようにボクの手を引く。
「ヤダ!帰らない!!」
瞬時に反抗を示すボクを見下ろし
「また、そんなこと言って…!!」
哀れみの目を向けてくる。
これに父さんも賛同し、ボクは半ば無理やり、家に連れ戻された。
久々に戻った自室で、膝を抱え頭を垂れていると、
「今度、つきあってやるから元気だせよ」
どうやって戻ってきたのか?目の前にピョン太がいた。
「あの二人も、今回のことで、結構懲りたみたいだから、少し自粛するだろ!」
「でも、アオさん!」
「アオさんが居ない。ボクはアオさんとずっと一緒に居たかったんだ」
顔を上げ抗議するけど
「オマエ、スゴく懐いてたもんな!でも、ずっとあのままってわけにい
かなかったろ。オマエは子供で、しかも人間だ」
「そんなの関係ない!!」
張り上げた声は
「そんなことないさ」
厳かなピョン太の声で打ち消される。
「それに…」
わずかに逡巡したあと、
「これは、アオが望んだことでもあるんだ」
「アオさんが?」
信じられない!
「嘘だ!」
聞きたくない!!
手で耳を覆うけれど…
「オマエに内緒で頼まれた。
親が迎えに来られるように、居場所を知らせてくれってな」
隙間をかいくぐり、声は届いた。
「そんなの嘘だ!!アオさんがそんなこと…」
「本当だよ」
言い終わらないうちにピョン太に遮られる。まるで最終宣告のように。
そして、その顔は苦しげに歪められていた。
ひと月かかってしまった。
やっと親の監視が離れ、今日から、
また一人で行動的できる!!
早速ボクは学校帰りに、あの小屋に行ってみることにした。
本当は、もっと早くに行きたかったんだけど、なかなか一人になれる機会が無くて…。
家に戻された直後、アオさんに会いたくて「忘れ物がある」って言って
みたんだけど、全然取り合ってくれなくて、今に至る。
..*+☆.**+☆+*..
久しぶりに訪れた小屋は、ひとことで言うなら、とてもさびれていた。
まず目につくのが【苔】で、いたるところにはびこり、下地を変色させてしまっている。
他にも、表皮をめくり上げ、室内と外部を同一の環境にしてしまってい
るものまである。
『おかしいな?アオさん居るはずなのに』
ボクは首を傾げながら、中に入る。
室内にアオさんの姿はなかった。
ポツリと囲炉裏のそば、ボクの座っていた場所にランドセルが置かれている。
そのランドセルは、ボクの忘れ物。
あの…アオさんと知りあった日に、ボクか背負っていたものだった。
おもむろにそれに近づき、カバンを開ける。
カサリ───
きれいに折りたたまれた紙が一枚、入っていた。
それを手にとり、中をみる。
【さとるへ
ゴメンな。ちゃんと挨拶もしねーで、居なくなまって。
でも、オマエの顔見たら駄目だと思ったんだ。
たぶん?オラ、何もいえなくなる。
だから、ピョン太に頼んじまった。
オラ、狡いよな。
オマエがこの手紙を読んでる頃、オラはもう他の場所にいる。新しい土
地で、元気にやってるから安心しろ!
悪いが、もうここに戻ってくるつもりは無い。
だからオマエも、明るく元気に暮らせ!!好き嫌いしないで、何でも食えよ!
あと、あまりご両親に心配させるな!!
もう会うことが無くても、オレはずーとずっとオマエの幸せを願ってる
。達者で暮らせよ!!
最後に短い間だったけど、一緒にいられてオラもはスゴく楽しかかった
ぞ。ありがとな!! アオより】
泣いた。
手紙を胸に抱いたまま、わんわん泣いた。
体中の水分が、みんな流れてしまうのでは?と疑うほどに…。
やがて高かった日差しが、大幅に傾き朱色に染まった頃、
やっと涙の止まったボクは、重い身体を叱咤して、よろよろと立ち上がる。
アオさんからの手紙を大切にしまうと、後ろ髪引く思いを断ち切り、小屋をあとにした。
ボクは、絶対、忘れない!
アオさんも。ここでの生活も。
そしていつの日か、またアオさんに会うんだ!!
決意を固め、ボクは歩きだした。
明日に向かって!!
『まずは、ピョン太にこの手紙を見せなきゃな』
早く感想を聞きたくて、ボクは家に向かって走りだす。
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