上 下
6 / 7

#6

しおりを挟む
翌朝は、めちゃめちゃ早かった。
聞いてはいたけど、ここまで早いとは思ってなかった。
時計無いから正確な時間わからないけど、夜明けと共に起床。その後、
朝ごはんを食べ、斧、片手に小屋を出る。 

なかなかのハードスケジュールだ。
ボクとピョン太は、慣れない(というか、ほぼ初めて)の経験に右往左往。結果、疲れただけで、ほとんど戦力にならなかった。
そんなボク達を責めるわけでもなく、アオさんは、次々と木を切り倒し
、黙々とは薪を作っていく。

やがて、太陽が真上にきた頃、
「一度、小屋に戻るべ」
アオさんの声が掛かった。
「なんで?」」ボクとピョン太は、やっと木を切り倒した(二人で一本)ところだったので声がそろう。
「結構たまったから、荷車に乗せて、助六んとこ、持ってく」
「助六さん?」「助六?」
初めて聞く名に、僅かに眉が上がる

勝手に一人だと…一人で自由気ままに暮らしているものだと思っていた。 

そんなボクの疑問を察知したのか?
「時々、人間と関わらんといけんことがあってな!そん時、助六の世話になっちょるだ」説明してくれる。
「じゃ、今日で最後だね!その人。…だってこれからは、ボクが居るじ
ゃん!!」すかさず、瞳を輝かせ、アオさんに切り返すも、
「ウンにゃ、無理だな」あえなく撃沈。
「なんで???」間髪入れず、噛みつくボク。
「そりゃーさとるに頼めりゃ、オレは良いけど、オメーは、まだ子供だ」
「子供だけど、ちゃんとアオさんの役に立ってみとせるよ!ボク!!」張りきるボクに
「スマンさとる!堪忍!!」
アオさんは、弱ったように、頭を下げた。 

「オメーの気持ちはスゴく嬉しい。…だども、こうゆうのは経験も必要なんだ」
暗に経験不足を指摘され…
「じゃあ、もういいよ!アオさんなんてしらない!!」ボクはむくれた。

..*+☆.**+☆+*..

トボトボと荷車の後ろを歩く。
車を引いているのは、勿論アオさんで、薪状態に縄でくくられた木片が
荷台いっぱいに積み上げられていた。
ピョン太は、ちゃっかりとその上に座っている。
「なんで、そんなにアイツに媚びるんだ?」
荷車の上から、ピョン太が話しかけてきた。
「別に、媚びてないよ!!」ボクは即座に否定する。
「媚びてる訳じゃないけど…納得いかないんだ…」 

「何が?」
本気でわからない、という素振りで問い返してくるピョン太。
「ピョン太は、アオさんのこと、いい人だって思わないの?」
同意見だと、思っていた。というか共感できると信じて疑わなかった。だけど…
「でも、鬼だぞ!」
彼の口から出たのは、それを否定する言葉。完璧に人格の相違をつきつ
けられた。
「じゃあ、鬼は一生、善人にはなれないっていうの?ピョン太は?」
「見損なったよ!そんな種族で人を判断するような奴だったのかよ!オマエは!!」
身も蓋もないピョン太の言い草に、感情が高ぶり、終いにはブチ切れた。

しばらく無言が続き、やがて…
「情けないよな…」
弱々しくピョン太が呟く。 

「確かにアイツは善人かもしれない。…でもな、ひとめ見ただけで相手
を萎縮させちまう【オニ】なんだよ。残念だけどな。そして、大概の人間はそれを受け入れられない」

正論だ。
ピョン太の言ってることは、何も間違ってない。
間違ってないけど…。
頭では理解出来ても、感情がついていかないことがある。
【理不尽】だ。
やるせなさを胸に抱え、ボク達は無言のままに歩く。

..*+☆.**+☆+*..

「スマン。目的のモノ手に入らなかった」 

目的地につくと、出迎えた助六さんが頭を下げながら、アオさんの手に
お金を二枚置いた。
しかしその顔には…
全然しおらしさのカケラも無く、
むしろ、してやったりというようにニヤついていた。
なのにアオさんは
「イヤ、少し残念だけど、助六さんのせいじゃないよ!それより、いつもありがとう」
そう言って、手の上のお金をポケットにしまう。
その後も、二・三言にこやかに言葉を交わし、助六さんの家をあとにした。 

夜、どぉーしても我慢のできなかったボクは、アオさんに詰めよる。
囲炉裏では、今宵も大根が美味しそうな湯気を立てていた。

「なんで、怒らないの?」
頭にクエスチョンマークでも浮き上がりそうなアオさんの表情に怒りが
煽られる。
「明らかにおかしいジャン!!あの人、終始ニタニタしてたし、あれだけの薪が、金二枚にしかならないってそんなのありえない。絶対ネコババしてるよ、あの人!!」
頭が沸騰しそうなほど怒ってるのに
「だろうな」
アオさんはたいしたこと無いというように平然と言ってのける。
「気づいてたの?」
アオさんのあっけらかんとした顔に、ボクは毒気を抜かれる。
「ああ。初めの頃は頭にきたさ。オラも。なんで、オラばっかりこんな目にあわなきゃいけねーんだ?ってな」
「でもな、考え直したんだよ。助六だけなんだ。オレと怖がらずに
接してくれるの。前にも言ったけど、たまに人間と関わらないといけねー時がある。そん時、いつも助けてくれるんだ、助六は。だから、少しくらい目ーつぶらなきゃいけねーだろ!」
「それに…助六ん家は、ガキが五人も居る。対してオレは、一人だ。なら、助けるだろ、普通!オレが困ってる時、いつも力になっ
てくれる人間にささやかな恩返しってヤツだ」
話を聞き終え、ボクは怒気を収めた。
(とりあえず、という感じだけどね)
だって…ボクにはどうすることも出来ない。 

『まだ子供だから…アオさんに理不尽な思いをさせてしまっている』
顔を俯かせ、握った拳に力を込める。

そのまま、下を向いていると
ポンっ!!
誰かの手が、頭に乗せられた。
条件反射で顔を上げると
「そんな顔するな、さとる!オラは納得してんだからよ!!」
「でも、ありがとな。オラのために怒ってくれて」
優しく微笑むアオさんがいた。 

一週間が過ぎた。
あのまま、(ボクは納得できないでいるけど)平穏な日々が続いている。
ボクらも、すっかりこの生活に慣れはじめていた。
そこに、穏やかな空気を打ち破り、新たな波乱が近く。
しおりを挟む

処理中です...