筋肉執事とヤミの聖女〜筋肉を愛する執事は魔王の魂を持つ聖女に溺愛される〜

またたび五郎

文字の大きさ
11 / 11

9話 筋肉式訓練と不殺の心得

しおりを挟む
 珍しく誰もいない冒険者ギルドに併設された訓練場にグレイとアヤト、ミサキ、ナミネが対峙していた。
 
「でりゃあ!」
 
 アヤトが魔力で加速しながら木剣を上段に振りかぶりグレイへ振り下ろす。
 
「気合いだけは十分だな」
 
 振り切る直前に足を払い除けられて体勢を崩してしまうアヤト。
 
 そのアヤトに隠れグレイの死角へ移動して刺突を繰り出すミサキだが、グレイはアヤトをそのまま投げ飛ばしてミサキへぶつけた。
 
 人1人の質量をぶつけられたミサキはアヤトと共に訓練場の地面へ叩きつけられ身動きが取れなくなってしまった。
 
「アヤトくん! ミサキちゃん!」
「意識を逸らすな、ヒーラーのキミが注意を怠れば死ぬのはアヤトくん達だぞ」
 
 叫んだナミネの目の前にはグレイの拳があった。
 
 理不尽の化身。
 
 それが3人がグレイへと抱いた感想だった。
 
 魔力が無いはずのグレイに手も足も出ない。
 
 コレで都度5回の模擬戦。
 
 その度に軽くあしらわれ問題点を洗い出される。......と言うのを繰り返していた。
 
「ナミネちゃんは、とりあえず落ち着いて視野を広く」
「はっはい......」

「アヤトくんは動きの硬さは取れてきたけど、もう少し相手の動きを見て」
「はい!」 
 
「ミサキちゃんは良い感じだけど搦手以外も使ってみて、もし通じない相手が来たら先に潰されるぞ」
「ですが先ずは自分の得意な事を伸ばした方がいい気がしますが......」
「そりゃそうなんだけど、基礎が出来てないといざって時は何も出来なくなるぞ? それに正直、攻撃が軽すぎて黒き森の魔物に通用するか微妙なラインかも」
 
 意外に辛口な評価にミサキは分かりやすく落ち込んでしまった。
 
 慌てたグレイは人心地着かせるために一度休憩を挟む事にした。
 
 グレイに用意した水を飲みながら3人は息を整え、一息つく。
 
 一息吐いたところで、ミサキが恨めしそうに小さく頬を膨らませてグレイを睨んだ。
 
「グレイさん強すぎません? コレでもアタシ達は聖都でも屈指の強さだったんですよ?」
「そりゃあ鍛えたからな、それにキミたちとは年季が違うし......逆に経験ないのにそこまで戦えるキミ達の方が凄い気がするが」
 
 グレイは1日だけとはいえ教官として厳しい指摘はするが内心では感心していた。
 
「でもグレイさんに一撃与えるイメージは全く湧かないんだけど......」
 
 アヤトは少し視野が狭くなる時はあるが、真っ直ぐな太刀筋と様々な魔法を状況に応じて使えるオールラウンダー。
 
「アタシなんてナイフを指で挟まれて防がれた時は絶望したし......」
 
 ミサキは小手先に頼りがちだが、隙を見抜き急所を的確に狙いに行く嗅覚は凄まじい。
 
「人って瞬間移動できるんですね......」
 
 ナミネは生来に気弱さは気になる所だが支援に特化した魔法は非常に頼りにして良いだろう。
 
 正直、彼らに戦いを教えた奴がしっかりと心構えや力の使い方を教えていれば、もっと伸びていた筈なのだ。
 
 グレイはそれを痛感し、顔も名前も知らない人物へ憤りを向けた。
 
「そうだ! 模擬戦ばかりじゃ飽きるだろうし。何かしてみたい事とか聞きたいことはあるか?」
 
 と言っても、筋トレの仕方ぐらいしか答えられんがな。
 
 とグレイはワザとらしく笑った。
 
「私は特に......ミサキちゃんは?」
「アタシ? うーん、うーん......そうだ! グレイさんの本気の攻撃を見てみたい!」

 ミサキが身を乗り出し、目を輝かせている。
 
 自分から言い出した事だ。
 
 グレイは少し考えて訓練場の中央へ向かい、軽く拳を握った。
 
「攻撃っていうかは微妙な所だけど」
 
 ドン!。
 
 空気の破裂音と拳を正面を突き出したグレイの姿。
 
 まるで時が飛んだように過程が消えた動きにミサキの顔が引き攣った。
 
 けれどグレイが行った事はただの突きでは無い。
 
 訓練場の壁に開いた拳大の穴。
 
 罅が入る事なく綺麗に壁が潰されていた。
 
「えっと......グレイさん。何したの?」
「空気を殴った」
 
 何でも無いようにグレイが言うが、3人の顔は引き攣っていた。
 
 異世界の知識がある3人。
 
 さらに、とある時期に知識を仕入れていたアヤトはグレイの非常識に開いた口が塞がらない。
 
「(生身で音速を超えた? いやいやいや! 普通は体の方が潰れるよ!)」
 
 何でもないようにミサキと話すグレイを見て、アヤトは改めて手加減されていて良かったと安堵した。
 
 もし、グレイが理知的でなかったら、もし拳を振るう事に抵抗が無かったら......あの時に殺されていたかもしれないと改めて自分の浅はかさを思い知った。
 
 そして1つ気になった。
 
「あのグレイさん! 1つ聞いても良いですか」
「ん? おう別に良いぞ」
 
「グレイさんは、もし人に力を振るわないといけない時はどうしますか......俺は今、人に向けて剣を向けるのが怖いです」
 
 アヤトの手が震える。
 
 夢から覚めたあの瞬間、今まで人を傷付けないで来れたのは運がよかっただけなのだと思い知らされた。
 
 自分の力は誰かを容易に殺せるのだと。
 
 ミサキとナミネもアヤトの言いたい事が分かるのか目を逸らして俯いてしまった。
 
「うーん、少し勘違いしてると思うんだけど」
 
 グレイは考えるでもなく腕を組んで答えを返す。
 
「俺だって必要があれば戦うし誰かを傷付ける事もあるさ」
「そもそも俺は聖女付きの護衛だぞ? 危害を加えてくる奴を殴り飛ばした回数なんて数え切れねぇよ」
 
 グレイは口を大きく開けて笑う、アヤト達の心の底の不安をかき消すように。
 
 臆する事なく言い放った。
 
「けどな! 誰かを殺す覚悟なんぞ俺にはねぇ。だから殺さないように加減して殴るし、あとは衛兵に任せる」
 
 胸を張って言い切るグレイにアヤトはミサキはナミネは言葉を失った。
 
 心のどこかで、異世界は命の価値が低いのだと。
 
 剣を向け合えば残る道は殺し合いしか無いのだと。
 
 それを目の前の執事に打ち壊された。
 
「でっでも! 相手が殺そうとしてくるならコッチも抵抗しないと!」
「何で相手に合わせるんだよ、俺は殺したく無い。それだけだ、相手がどう考えようが興味は無いし合わせる気もねぇ」
「それで良いんですか......」
 
 アヤトの呟きにグレイは力強く頷く。
 
「まぁ意地を通すのには力が要るぞ? 相手の意地を通されたく無いなら力を磨くんだな」

 その言葉に、意気消沈していたミサキが元気を取り戻し深く息を吐いた。

 まるで嫌な空気を体から追い出したようだ。

「そうだよね! グレイさん、アタシ達をビシバシ鍛えて!」
「......わっわたしも頑張りたい! アヤトも一緒に頑張ろ?」
 
 呆然とグレイの笑い声を聞いていたアヤトはナミネに差し出された手を見て瞳に力が宿った。
 
 ナミネに手を引かれ立ち上がったアヤトに迷いは無くなっていた。

「あぁ! グレイさん! よろしくお願いします!」
 
「やる気が出たな? じゃあ逃げないで着いて来いよ!」
 
 そして、グレイは思う。
 
 コレ、今日で終われる空気じゃ無いなと。
 
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...