筋肉執事とヤミの聖女〜筋肉を愛する執事は魔王の魂を持つ聖女に溺愛される〜

またたび五郎

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8話 筋肉と歪な冒険者

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「......」
「じー」
 
 グレイの日課である早朝の鍛錬。
 
 今回はミリアリアが作った様々な道具を用いて各部位の筋肉を鍛える事にした。
 
 全身を偏りのないように丁寧に筋肉と会話を行いながら続ける。
 
「......」
「ジトー」
 
 幼女を側に侍らせながら。
 
「なぁ楽しいか?」
「うん」
「そうか」
 
 グレイは筋肉に意識を向けながらも何処か居心地悪そうに頬を掻いた。
 
 最初は気にならなかった。
 
 孤児院の子供達のように飽きたらすぐに遊び始めると思ったからだ。
 
 それがどうだ。
 
 既にグレイの体からは湯気が上がり珠玉の汗が浮かぶほどに時間が過ぎている。
 
 その間の穴が開くほど見つめられれば流石に気になる。
 
「えーと、マオちゃん?」
「ん?」
「......よし! 走り込みだ! マオちゃん、俺の肩に乗れ!」
 
 無表情で首を傾げるマオに負けた。
 
 多分何を言っても首を傾げられる奴だとグレイは本能で察したのだ。
 
 それなら子供が好きそうな肩車をしつつ鍛えた方が肉体及び精神的に効果的だと判断した。
 
「おぉ たかい」
「ほら 落ちないようにしっかり掴まってろよ!」
 
 グレイは目を輝かせるマオを肩車し、勢いよく中庭を走り回るのだった。
 
 ///////////
『あとで面倒が起きないように街へマオの顔見せに行って来てくれるかしら?』
 
 とのミリアリアの言葉を受けたグレイ。
 
 ファルシア達へミリアリアの護衛等を引き継ぎ今はギルド通りへ来ていた。
 
 近場の知り合いや店の店主に顔見せと説明をしながら散歩気分で出歩いて居た。
 
 この街では聖女の影響力は非常に大きく、大抵の事はミリアリアの名を出せば事足りてしまう。
 
 それに黒き森と数多くの冒険者に日常的に接するアルティシア領民は非常におおらかと言うか......適当だ。
 
 まぁそうでも無いと時折発生する異常に対応出来ないからアルティシア領民の性質という事にしておこう。
 
 グレイは想像以上にマオを受け入れるのが早かった領民に一抹の不安を抱えたが直ぐに気を取り直した。
 
 そういえば、既に裏教会へは顔を出したが。
 
 『あら! あらあら! 可愛い子ね! 困った事があったらスグに来なさい、力になってあげるわぁ』
 
 とシスターも即断即決で後ろ盾になってくれた。
 
 さすがシスター、頼りになる。
 
「もぐもぐ さかなおいしい」
「そうか良かったな、俺の食いかけだけど食べるか?」
「ん ありがと」
  
 丁度昼時と言うこともあり、マオと一緒に魚と野菜を串で刺して焼いたシンプルな屋台飯を食べながらコレからの予定を考える。
 
「(コレで最悪は裏に逃げれるから一安心だな......後はジンに顔見せでも)」
 
「おい! お前!」
「ちょっと辞めなよアヤト!」
「アヤトくん、ミサキちゃん......うぅどうしよう」
 
 最悪だ。
 
 グレイの顔から表情が消える。
 
「どうしたの? どこかいたい?」
 
 手を繋いで歩いていたマオが不安そうに覗き込んでくる。
 
 グレイは笑顔を浮かべてマオの頭を撫でて安心させる。
 
「何でもないよ。あそこの建物にハゲ頭のオジさんが居るからそこで遊んでおいで、俺はそこの人と話があるから」
「......」
「スグに行くから大丈夫さ、オジさんも顔は怖いけど良い人だから」
「ん」
 
 マオは時折振り返りながら冒険者ギルドへ走っていく。
 
 それを見届けたグレイは今度こそ表情を消し、青年達へ振り返り。
 
「どのような御用でしょうか」
 
 瞬間。
 
 周囲の街の人が全力で逃げた。
 
 コレぞアルティシア領民、恐るべき適応の速さだ。
 
 その異変に気付かない青年ははグレイへ近寄り睨みつけてきた。
 
「昨日は良くもやってくれたな!」
「申し訳ございません。昨日と申しますと......あぁ受付の方を襲って居た」
「違う! 俺たちは黒き森の解決に来てやったんだ! それをあの女が邪魔をしたから」 
「それで手を挙げたと......そりゃ野盗と変わりねぇよ」
 
 グレイの侮蔑の視線が青年へ突き刺さる。
 
 青年はたじろぐが、目を血張らせてグレイの服へ掴み掛かってきた。
 
「俺たちは最強なんだ! お前らモブは黙って言う事を聞いてれば良いんだよ!」
「あっアヤトくん! ダメ!」
 
 振り上げられた拳。
 
 力と魔力が込められた拳がグレイの腹部へ突き刺さる。
 
 鈍い音で響き、力の余韻が大気を揺らす。
 
 並大抵の打撃では傷一つ負わないグレイの筋肉の鎧。
 
 けれど青年の一撃は確かにグレイはダメージを与えた。

 それが意味する事はひとつ。
 
 もしグレイが常人であれば青年に殺されていたという事だ。
 
 青年は防がれるか避けられるかと考えて居たのだろう。
 
 手に残る鈍い感覚に戸惑っているようだった。
 
「なぁ知ってるか? その力を人に向けて使えば簡単に殺せるんだぜ?」 

 口の端から血を流すグレイだったが、それに構わずに言葉を重ねる。
 
「人ってさ死ぬんだよ。なにも考えねぇで力を振るえば簡単に殺せちまうんだ」
 
 テメェにその覚悟があんのかよ?。
 
 青年の力が抜けその場で座り込んでしまう。
 
 まるで自身のした事に気付いてしまったかのように。
 
 震える手を見つめ、うわ言ののように『違う』と連呼していた。
 
 グレイは青年達の状況を訝しんだ。
 
 てっきり力を持ち助長しだけか。
 
 とも思ったのだが青年は歪すぎた。
 
 まるで力を得たばかりの赤子のようで......。
 
「......あぁもう! 立て! そこの女の子達もギルドへ来い!」
 
 放って置けなかった。
 
 グレイは青年を担ぎ上げ、少女達に声をかけて冒険者ギルドへ駆け込んだ。
 
「サリアさん! ちょっと奥の休憩室借りるよ!」
「えっあっはい! どうぞ!」
 
 他の冒険者達からの視線を無視して部屋の中へ入り担いだ青年を適当に床に落とした。
 
「適当に座れ、説教の時間だ」

 
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