夢幻 望みかなえるもの

はぎの

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第四話 死と日常

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(頭が酷く痛い)

 殴る、蹴る。子供は母親からの暴力に耐えている。

「ギ…… ギ…… ギギ」

 子供はうめき声を上げ耐える。そんな子供に母親は罵詈雑言を浴びせ続けた。

―――<第五話 日常の死>

 人里には満腹屋という飲食店がある。内装は和風居酒屋の様で、木でできたカウンターとテーブル席があり、店内は広い。出す料理は和食がメインである。味も良く評判だった。管理所に所属してる者も通っている。炭火で焼き、皮がパリッとした焼き魚定食が人気で、柑橘類をかけて食べるのがおすすめ。

 昼頃の満腹屋(飲食店)には仕事休憩などの人達が多く居た。しかし店の中心に余りにも大きな声で話す者達がいて、周りに迷惑をかけ居心地の悪い空間にしていた。騒がしくしているのは、大柄な男とその女であった。男の体格を見て注意する者はいず、余りの煩さからその周りに人は少ない

 それを見かねた年老いた男の店長が、暗い雰囲気を纏い、薄緑色の洋服にエプロンをつけた女店員を呼ぶ。呼ばれた女店員の名はしみという。髪色は茶髪で肩までの長さで、体格は小柄。歳は15歳であるが大人びた雰囲気と儚さを纏っていた。しみは静かな声色で店長に尋ねる。
「何でしょうか」

「しみちゃんあの大きな声のお客さんたちに注意してくんない?」

「わかりました」

 店長の頼みを受けたしみは臆することなく、騒ぎ立てる男たちの席に近づく。

「お客さん他にも人がいるんです。少し声を小さくしてくれませんか」

「何だァ、テメー客にケチ付ける気かよ」

 男は注意されたことに腹が立ち喧嘩腰になっている。連れの女はそれを見て笑っていた。

「ですから…… 迷惑だと言っているですよ」

「殴られたいらしいな」

 今にも喧嘩が起きそうな空気であった。その時白いジャケットを着た黒髪の少女、了が、そばを食べながら割り込んだ。

「あんたたちの声の煩さにはみんな迷惑してんだ。そいつの言う通りな」

 そう言い目線をしみに向ける。その言葉に男はキレたのか、食ってかかる。

「テメェもやる気かッ」

 男は大声で威嚇する。周りの者たちは少し怯えた。しかし了は怯まない。

「いいぜ、お前が這いつくばるだけだがな」

 言葉と共に殺気を含めて返した。殺気を受けた事により、動揺する男。

「……チッ行くぞ」

 男は殺気に怯え代金を叩き付け、店を出ようとする。体はでかいが小心者だった。

「待ってよ~今日またいつ会えるの~」

「7時半だ。さっさと行くぞ」

 連れの女も立ち上がり男にくっつく、男はイライラをまき散らしながら店を出た。

「……そのありがとうございました」

 しみは了に礼を言う。

「気にするな。みんな迷惑してたしな」

 そう言って席に座りそばのおかわりを注文した。

―――

 夜、6時20分、夜の人里は静かでった。 ほぼ全ての店は日が暮れるのと同時に店を閉める。
 満腹堂で騒ぎを起こしかけた大柄な男は仕事が終わり、家に帰ろうとしていた。

「疲れたぜ」

 仕事疲れもあるだろうが飲食屋での出来事も疲れに含まれていた。

ギ…… ギギ…… ギ

 男は不可解な音を聞いたが疲れからあまり気に留めなかった。そして自身のあばら家に入ろうとした瞬間。

<ファイター>

 この音ははっきりと聞こえた。男が驚いたと同時に何者かに殴られた。何とか反撃しようにも、相手は強く再び殴られ、男はたまらず自分の家の奥に逃げる。相手も家の中に入り、明かりをつけて男を見据える。部屋は明るく照らされる。両者相手の顔が見えた。

「おお、おまえは」

「昼ぶりだな……」

 男は目の前の相手を知っていた。相手は昼に自分と言い争った女店員しみであった。

「大声出すなよ……」

 しみはナイフを取り出し男に近づく。男は殴られた痛みと目の前の相手に対する恐怖と混乱で動けない。
「てめえぇ何でおれにまさか恨みを晴らすために!」

 男はつい声を上げてしまい指を切断されてしまう。指が切られ苦悶の表情になった。

「大声出すな。昼のことは気にしてないさ、君を襲ったのはまあ偶然だよ誰でもよかった。そして今から殺す」

「なぜ…… 俺を殺すんだ…… なんで」

 男は相手の言葉にただ困惑した。しみは無感動に話す。

「それはまあ色々理由があるんだけど…… 君には関係ない」

「何かあるんだろう。わけを言えもしかしたら力になれるかもしれん」

「何それ新しい命乞い?」

「違う。こんな事するんだよっぽどの理由があるんだろう。もしかしたら力に……」

「そうかな、そうかな……」

 そう言われ少し考える。男は何度も力になると訴えた。男の言葉にしみは折れた。男は笑みを浮かべた。
 男は家に備え付けてある時計を会話の中で見たのだ。今現在の時刻は6時40分。連れの女が来るのは7時半だ。話を聞くことで、連れの女が来るまでの時間稼ぎを狙ったのだ。

 女が来ることでこの状況を周りに伝えられる。そうともしらず、しみは話始めた。

「私の家は貧困であり、なおかつ母は私によく暴力をふるっていた」

「どんなふうに」

 男は少しでも話を長引かせるため口を挟む。

「木の棒で頭を叩かれたり、寝ている時は頭をふまれたり、ゴミや虫を食わされた時もあるな。やっぱ私の母はいかれているな……」

 虐待の日々を思い返し、しみは乾いた笑顔を浮かべる。男は冷や冷やしながら尋ねる。

「なぜそんなことを?」

「たぶん、イライラやストレスでしたんじゃないかな。私を殴る時は楽しそうにしてたし」

「旦那は止めなかったのか」

「いないんだよ。母は売春婦で私はそれにより生まれたんだと」

 時計の音がカチコチと鳴っている。

「生んだ理由は分からないけどね。……もしかしたら母親になりたかったのかな。いやありえないか」

 しみの目は虚ろであった。男はチラリと時計を見る。時刻は7時丁度。

「私は毎日母からの暴力に耐えていた。人に言おうとしたが、もしかすると母が優しくなってくれると考えて言えなかった。……母は私のうめき声を聞いて、虫の鳴き声みたいだと言ったんだ」

 男は話を聞きながら早く時が過ぎるのを祈っていた。男の耳に時計の音と自分の心臓の音が聞こえる。

「ある日、私が暴力を受けて頭から血を流し倒れている所を母の客が見つけ、医者に連れて行ったらしい」

「その後はどうした」

「その後は今人里にいる教師の一人に預けられ、母から私を離した」

「良かったじゃないかそれで……」

「……母との生活から離れることで、私が知りえなかった常識や優しさを知った。親は子を傷つけない、そんなこともな。私は母に対して怒りを覚えた。そして行動に移った」

「母を殺そうとしたのか」

「ああ。だが少しでも私に謝ってくれれば、全てを許すつもりだった。私は少し大きくなり、再び母に会った。母は私を見て罵詈雑言を浴びせた」

しみは深くため息をつく。
「……昔から何も変わらなかった。だから首を絞めて殺した。その時こう思ったよ、ようやく私の人生が始まると。……しかし違った」

「違った?」

「次の日、私は教師の下から離れ、一人暮らしを始めた。しばらくして酷い頭痛と幻聴に襲われる様になった。しかも頭痛の箇所は母に酷く殴られた所だし、幻聴も母の声だった」

 そう言いながら頭をがしがしと乱暴にかく。
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