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16話 苦い薬湯茶4
疲労回復に効くからと侍女のロッティが淹れた、独特な苦味のある薬湯茶を… 何年も前からベアトリスは、マクシミリアンの情熱を受け入れた日の翌朝に、必ずと言ってよいほど飲んでいた。
「そんな… ファゼリー伯爵、この苦い薬湯茶が、避妊に効く… ですって?! 何かの間違いではありませんか?」
だってこのお茶は… ロッティが私の身体を気づかって、淹れてくれる薬湯茶よ? 避妊?! そんな、バカな…!
ファゼリー伯爵の言葉は、あまりにも突然でベアトリスとって予想外すぎて、簡単には信じられなかった。
「エドガー、なぜ男のお前が女性の避妊薬のことなど、知っているのだ?」
「殿下もご存知の通り、私の妻は田舎の男爵家から我がファゼリー伯爵家に嫁いで来て… この王都で暮らすようになりました」
「ああ、それがどうしたというのだ?」
田舎で行われた、ファゼリー伯爵の婚姻の儀式に、マクシミリアンもお忍びで参列した。
「のびのびと田舎で暮らしていた妻は、王都での暮らしが始まると… ひどく落ち込むようになり、気鬱に悩まされ体調を壊してしまいました… その時、医師に処方されたのが避妊の薬湯茶です」
「そんなことがあったのか?!」
「はい、妊娠すると体調の変化で、女性は落ち込みやすくなると… ただでさえ妻は慣れない王都の暮らしに、苦しんでいたので… ただの落ち込みが、大きな災いを引きよせかねないと医師の判断で…」
「それでファゼリー伯爵は、奥方の避妊用の薬湯茶を口にしたから知っていると… そう言いたいのですね?」
なるほど、奥方の避妊で……
「はい、妃殿下… 妻が薬湯茶を飲む時、とても不快そうにしていたので… 少しでも苦痛を分かち合えればと思いまして、私も…」
『妻の避妊に関しては、自分の方に原因があるから』 …と口には出さなくても、ファゼリー伯爵がそう思っていることは、ベアトリスもマクシミリアンもすぐに気が付いた。
なぜなら、ファゼリー伯爵の頬がほんのりと赤く染まったからだ。
「……」
まじめなファゼリー伯爵らしいと言えば… らしいけれど。
それよりも伯爵は愛妻家だったのね? 前に奥方を紹介された時に、伯爵の幼馴染だと聞いた覚えがあるわ…
「そういう理由で薬湯茶を飲んだというのなら… この薬湯茶をファゼリー伯爵家の医師に見せれば、茶葉の正体が簡単にわかるな?」
マクシミリアンは険しい表情で、薬湯茶が入っていたポットの蓋をあけて、中をのぞく。
「ええ、王宮内の医師には何も知らせない方が、良いかもしれませんね… 誰がこの薬湯茶の茶葉を、ロッティに渡したのかが判明するまでは」
上着から出した白いハンカチに、ファゼリー伯爵はポットから薬湯茶の茶葉を半分取って包むと、茶葉入りのハンカチをポケットにしまった。
「この件は、お前が秘密裏に調査してくれ」
「お任せ下さい、殿下」
ファゼリー伯爵が朝食室を出て行くと… マクシミリアンは席を立ち、ベアトリスの背後に来て抱きしめた。
「本当にこの薬湯茶が避妊用だとしたら… 侍女のロッティが使われるなんて、盲点でした」
普段、王族が口に入れる、食べ物や飲み物は厳重に管理され、厨房には毒見役の者までおき、警戒している。
でも侍女のロッティは、私自身が彼女を信頼しているから… ロッティが淹れたお茶を今まで、毒見役を通すことは無かった。
だから私はこうして何年も… 騙されていると知らずに飲み続けた。
「ベアトリス… あまり気に病むな」
マクシミリアンは落ち込むベアトリスをなだめようと… 何度も頬にキスをする。
「ええ、マクシミリアン様… 私には落ち込んでいる暇なんて、少しもありませんから!」
マクシミリアン様の子を妊娠したくて、していたことが、すべて逆効果だったなんて?! こんなバカみたいな話があるの? 私の考えが甘くて愚かだったから、マクシミリアン様の子が!
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