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22話 その後 ─END─
しおりを挟む戦勝の祝賀会からシプリアン卿につれ出されたジャコブは、王宮内で罪を犯した者を捕まえておく地下牢に入れられ…
重要な作戦中に戦場で味方を混乱させた罪で、毒杯を渡された。
本来ならロンヴィル侯爵家ごとつぶされてもおかしくない罪だったが、ジャコブ以外の者たちには、なんの落ち度もなかったと判断した皇帝陛下が、毒杯というカタチで温情をくれたのだ。
罪を犯したジャコブ1人の命で、ロンヴィル侯爵家への罪は、不問にするということだったが……
「とにかくジャコブは最後の最期まで愚かだった。 あれでロンヴィル侯爵家の当主だと、威張っていたのだから… まったく…」
疲れた顔でハァ───…… とシプリアン卿は大きなため息をつく。
フェルナンが苦笑しながら聞きかえした。
「ロンヴィルの騎士たちだけでなく、他家の騎士たちからもジャコブが土壇場で作戦を無視して、オレたちを見すてて裏切ったと証言を取っているのに… それでも罪を認めなかったのですか?」
ともに戦っていた他家の騎士や兵士たちが、ジャコブが作戦を無視して味方を見殺しにしたせいで戦場が混乱し、大きな不信感を持ったという話だ。
「ああ。 子供のころから利己的なのは知っていたが… ジャコブは自分さえ助かれば、ロンヴィル侯爵家がどうなっても良いようだ」
…そう語る師匠のシプリアン卿が気の毒になるほど、ジャコブはクズだった。
『オレは知らない! オレは作戦通りにした!! シプリアン卿、本当だ!!』
『バカな言いわけはやめろ、ジャコブ! お前は恥ずかしくないのか?!』
『違う! 一緒にいた副団長がそうしろと言ったんだ! アイツは騎士団長になりたくて、シプリアン卿を殺したがっていた! オレはだまされたんだ!!!』
『ジャコブ、潔く毒杯を飲め! お前はロンヴィルの当主だろう? 侯爵家を存続させるために、お前の罪をその命でつぐなえ!』
『当主なんて今すぐやめる! 平民になっても良い。 お願いだ師匠、助けてくれ───!!!』
『騎士なら毒杯を飲み干せ、ジャコブ』
『嫌だ!! 助けてくれるなら、何でもする!!』
シプリアン卿の話では、ジャコブは見苦しい言いわけをしたうえに、騎士たちに押さえつけられ無理矢理、毒杯を飲まされたらしい。
「師匠として情けない」
「でも、シプリアン卿… ジャコブらしいわ」
フェルナンがお父様のクルティゾル公爵様にいただいた家、アングランヌ公爵邸の居間で、私は優雅にお茶を飲みながらシプリアン卿と、夫のフェルナンの話を聞いていた。
3日前の祝賀会で褒賞を受けとったあと… 皇帝陛下の配慮でアスピラシオン宮殿内の神殿で、略式だが私たちの婚姻の儀式がおこなわれた。
式に参列したのは皇帝夫妻と後宮で一緒だった側妃候補の令嬢たち。 ロンヴィルから一緒だった、フェルナンの部下たちとシプリアン卿。
…そしてフェルナンのお父様、クルティゾル公爵様。
「…とにかく、ジャコブの件がこれで解決して良かった。 あの顔を2度と見なくてすむのがありがたい」
フェルナンはしみじみと言うと、隣に座る私を見下ろしてほほ笑んだ。
「シプリアン卿はこれからどうされるのですか?」
フェルナンは公爵になり陛下から、元ネスタン王国の土地をもらった。 できればシプリアン卿が、一緒にいて下さると心強いわ。
「そのことだが、私はロンヴィル侯爵家にもどるつもりだ」
「師匠、あなたにはオレと一緒に新しく賜った公爵領を守って欲しいのですが…」
「うん。 そうしてやりたいが… あんな愚か者でもジャコブは当主だったわけだし。 残された者たちに、できるだけ内密に真相のすべてを知らせなければならない」
「…確かに。 表向き、ジャコブは王宮で突然死したということになっていますからね…」
「この後の混乱をおさめて安定させるのが私の仕事だ」
『この後の混乱』 …とは、当主のジャコブが死んで、次の後継者問題が出てくるからだ。
「ジャコブの奥様が妊娠していると、エレーヌの手紙に書いてありましたから… その子が産まれて男子なら、次の当主になるのですか?」
「そうなるな。 女子なら婿養子をとることになるが… 子供が男女どちらでも、誰かが後見人となり見守る必要がある」
その後見人役をシプリアン卿がすると言っているのだ。
フェルナンを立派に育て上げたシプリアン卿なら、誰ももんくは言わないだろう。
フェルナンは残念そうにうなずいた。
「そうですか。 それでは仕方ありませんね… 今はあきらめますが、いつでもオレは師匠を歓迎しますよ。 気が変わるのをお待ちしてます」
「ふふふっ…」
シプリアン卿は嬉しそうに目を細め、自慢の弟子フェルナンを見つめた。
私の目から見ると2人は師弟というよりも、親子に近い関係だった。
──── その後。
ロンヴィル侯爵家に元気な男の子が誕生し、それを見とどけたエレーヌも無事に婚約者のもとへ嫁いだ。
そして私のお腹の中にはフェルナンの子が宿っている。
「もう、フェルナン… まだいたの?!」
「ずいぶん、薄情な言い方だな? オレは傷ついたぞ」
フェルナンは子供のように拗ねて、私を抱きしめ耳や首筋にキスをする。
「だって、あなた… 今日は領地の見回りに行くと言っていたでしょう?」
「いくさ。 ベレニスと別れのキスをしたくて待っていたんだ」
「別れ… って…… あなた、今日の夕方には帰って来るのでしょう?」
思わず苦笑した。
妊娠を機に私たちは、アングランヌ公爵領の田舎の本邸へ居を移した。
夫フェルナンの背後で、ロンヴィル侯爵家にいたころからの部下たちが、クスクスと笑っている。
「それでも… 何時間も身重のベレニスを置いてゆくのは不安なんだ」
「そんな可愛いことを言わないで。 私まであなたを行かせたくなくなるから!」
夫は私が好き過ぎて、いつもこんな調子で溺愛してくる。 嬉しいけれど… 少し恥ずかしいわ。 できれば誰もいないところでして欲しい。
「だったら、今日は行くのは中止しようかな…?」
「もう、フェルナンったら! あなたには良い領主となって、私たちの子供のお手本になって欲しいの。 だから、そんな我がまま言わないで! …ね?」
「……わかったよ、ベレニス」
唇に濃厚なキスをしてからフェルナンは渋々、私から離れた。
「愛しているわ、フェルナン… 待っているから、早く仕事を終わらせて帰ってきて!」
「ベレニス、愛しているよ。 行って来る」
「行ってらっしゃい!」
私は丸くなったお腹をなでながら幸せをかみしめ、仕事にでかける夫の大きな背中を見送った。
ー END ー
ここまで読んで下さりありがとうございます!
また、どこかでお会い出来れば幸いです(^^)/
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