5 / 23
4話 父の婚約者
しおりを挟むお父様は自分の隣に立つ若い女性に、愛し気な視線をむけながら私に宣言した。
「マリオン… 喪が明けたから、私たちは結婚する」
「何ですって?! 結婚…?!」
隣に立つその若い女性と? でもその人… 私とあまり年齢が変わらないように見えるわ?! 2,3歳ぐらい年上かしら?
不躾にジロジロと私が見ていると、若い女性と目が合いニコリとほほ笑まれた。 私の目から見ても、とても綺麗な女性で… お父様が惹かれた理由がわかる。
「初めまして、ローザと申します」
「あ… 初めまして、ローザ様。 娘のマリオンです」
「お会い出来て嬉しいですわ。 子爵様からあなたのお話をたくさんお聞きして、早く会いたいと思っていましたの」
「そ… そうですか…?」
お父様は友人の誕生日パーティーでローザ様と知り合い、付き合うようになったらしい。
「ローザの献身が、私を妻の死から立ち直らせくれた。 …マリオン、私はローザ無しでは生きて行けない」
お父様は自分たちの仲の良さを、娘の私に見せつけるように、ローザ様の腰をグイッ… と引きよせた。
「ふふふっ 子爵様ったら… マリオンさんが困ってしまうわ?」
「そんなことは無いさ。私の娘は優しい子だから」
「うふふっ…」
初恋を知ったばかりの少年のように、ウキウキとはしゃくお父様の胸を… ローザ様は興奮をなだめるようになでた。 なでる手の華奢な薬指には、ルビーの婚約指輪がはめられている。
「そ… そう。 おめでとう、お父様… ローザ様……?」
お… お父様、本気ですか?! まだお母様が亡くなって1年しか過ぎていないのに。
あんなに激しく落ち込んでいた人が… こんなにも変わるなんて? お母様の死から立ち直ってくれたのは嬉しいけれど。 でも自分の目が信じられないわ!
「とにかく、私たちは早く結婚しないと…」
「ええ、子爵様… うふふっ…」
お父様はなぜか、ローザ様のお腹をなでて嬉しそうに笑う。 ローザ様はニコリと笑い、隣に立つお父様の唇にキスをした。
「…っ!」
私は思わずお父様とローザ様の破廉恥な行動にハッ… と息をのんだ。
「マリオンさんが戸惑われる気持ちは良くわかります。 でも、これからは家族になるのですから、どうか仲よくして下さいね」
「は… はい……」
「それに私のお腹の中には、マリオンさんの弟か妹がいるのですよ」
「ええっ! 妊娠しているのですか?!」
「はい」
嬉しそうにローザ様は自分のお腹を、お父様と一緒になでた。
ローザ様がすでに妊娠していると聞かされ、私は再び言葉を失い息をのんだ。
「……っ」
お父様は未婚の若い女性を、妊娠させるような恥知らずなことを、田舎の領地でしていたの?!
私に労いの言葉の1つもかけず、自分の幸せに酔うお父様は… 王都で暮らす私と婚約者のノエル様が、当主不在の子爵家を守るため、なれない仕事で苦労していたことなど、少しも気にもしていないのだろう。
「マリオンも嬉しいだろう? お前に弟か妹ができるのだから… これで、さびしくなくなる。 それに、年が近いローザは頼れる継母になるはずだ」
年が近いから頼れる継母になる? …それはいったい、どういう理屈なのか意味不明だ。
「と… とにかく、お父様が元気を取り戻して嬉しいわ…」
そうよ。 いきなり婚約者を連れて来たのは驚いたけれど… でもお父様が幸せになるのなら、私はローザ様を歓迎しないといけない。
産まれてくる弟か、妹のことも……
お父様に口では『嬉しい』と言ったけれど、本当は少しも嬉しくない。
……私はふと、最初の婚約者アルフレッド様が婚約解消の成立と同時に、次の女性とすぐに婚約したことを思い出し、苦い気持ちになった。
「……」
お母様の死を乗り越えて、これからは父娘で助けあい、生きて行こうと思っていたのに。 お母様の喪が明けてすぐに、若い婚約者をつれて来たお父様。
そんなお父様に、私はアルフレッド様の時と同じく、裏切られたと感じるのはおかしいかしら?
私はお父様に失望したが、そのことは口に出さず… 黙ってのみ込むことにした。
89
あなたにおすすめの小説
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
旦那様に「君を愛する気はない」と言い放たれたので、「逃げるのですね?」と言い返したら甘い溺愛が始まりました。
海咲雪
恋愛
結婚式当日、私レシール・リディーアとその夫となるセルト・クルーシアは初めて顔を合わせた。
「君を愛する気はない」
そう旦那様に言い放たれても涙もこぼれなければ、悲しくもなかった。
だからハッキリと私は述べた。たった一文を。
「逃げるのですね?」
誰がどう見ても不敬だが、今は夫と二人きり。
「レシールと向き合って私に何の得がある?」
「可愛い妻がなびくかもしれませんわよ?」
「レシール・リディーア、覚悟していろ」
それは甘い溺愛生活の始まりの言葉。
[登場人物]
レシール・リディーア・・・リディーア公爵家長女。
×
セルト・クルーシア・・・クルーシア公爵家長男。
帰ってきた兄の結婚、そして私、の話
鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と
侯爵家の跡継ぎの兄 の話
短いのでサクッと読んでいただけると思います。
読みやすいように、5話に分けました。
毎日2回、予約投稿します。
初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました
3333(トリささみ)
恋愛
「あなたのことが、あの時からずっと好きでした。よろしければわたくしと、お付き合いしていただけませんか?」
男爵令嬢だが何不自由なく平和に暮らしていたアリサの日常は、その告白により崩れ去った。
初恋の相手であるレオナルドは、彼女の告白を陰湿になじるだけでなく、通っていた貴族学園に言いふらした。
その結果、全校生徒の笑い者にされたアリサは悲嘆し、絶望の底に突き落とされた。
しかしそれからすぐ『本物のつまはじき』を知ることになる。
社会的な孤立をメインに書いているので読む人によっては抵抗があるかもしれません。
一人称視点と三人称視点が交じっていて読みにくいところがあります。
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
再会の約束の場所に彼は現れなかった
四折 柊
恋愛
ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。
そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる