君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん

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4話 父の婚約者 

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 お父様は自分の隣に立つ若い女性に、愛し気な視線をむけながら私に宣言した。

「マリオン… が明けたから、私たちは結婚する」

「何ですって?! 結婚…?!」
 隣に立つその若い女性と? でもその人… 私とあまり年齢が変わらないように見えるわ?! 2,3歳ぐらい年上かしら? 

 不躾ぶしつけにジロジロと私が見ていると、若い女性と目が合いニコリとほほ笑まれた。 私の目から見ても、とても綺麗な女性で… お父様がかれた理由がわかる。


「初めまして、ローザと申します」
「あ… 初めまして、ローザ様。 娘のマリオンです」
「お会い出来て嬉しいですわ。 子爵様からあなたのお話をたくさんお聞きして、早く会いたいと思っていましたの」
「そ… そうですか…?」

 お父様は友人の誕生日パーティーでローザ様と知り合い、付き合うようになったらしい。

「ローザの献身けんしんが、私を妻の死から立ち直らせくれた。 …マリオン、私はローザ無しでは生きて行けない」
 お父様は自分たちの仲の良さを、娘の私に見せつけるように、ローザ様の腰をグイッ… と引きよせた。 
 
「ふふふっ 子爵様ったら… マリオンさんが困ってしまうわ?」
「そんなことは無いさ。私の娘は優しい子だから」
「うふふっ…」

 初恋を知ったばかりの少年のように、ウキウキとはしゃくお父様の胸を… ローザ様は興奮をなだめるようになでた。 なでる手の華奢きゃしゃな薬指には、ルビーの婚約指輪がはめられている。

「そ… そう。 おめでとう、お父様… ローザ様……?」
 お… お父様、本気ですか?! まだお母様が亡くなって1年しか過ぎていないのに。   
 あんなに激しく落ち込んでいた人が… こんなにも変わるなんて? お母様の死から立ち直ってくれたのは嬉しいけれど。 でも自分の目が信じられないわ!

「とにかく、私たちは早く結婚しないと…」
「ええ、子爵様… うふふっ…」

 お父様はなぜか、ローザ様のお腹をなでて嬉しそうに笑う。 ローザ様はニコリと笑い、隣に立つお父様の唇にキスをした。

「…っ!」
 私は思わずお父様とローザ様の破廉恥はれんちな行動にハッ… と息をのんだ。

「マリオンさんが戸惑とまどわれる気持ちは良くわかります。 でも、これからは家族になるのですから、どうか仲よくして下さいね」
「は… はい……」
「それに私のお腹の中には、マリオンさんの弟か妹がいるのですよ」
「ええっ! 妊娠しているのですか?!」

「はい」
 嬉しそうにローザ様は自分のお腹を、お父様と一緒になでた。

 ローザ様がすでに妊娠していると聞かされ、私は再び言葉を失い息をのんだ。

「……っ」
 お父様は未婚の若い女性を、妊娠させるような恥知らずなことを、田舎の領地でしていたの?!

 私にねぎらいの言葉の1つもかけず、自分の幸せに酔うお父様は… 王都で暮らす私と婚約者のノエル様が、当主不在の子爵家を守るため、なれない仕事で苦労していたことなど、少しも気にもしていないのだろう。

「マリオンも嬉しいだろう? お前に弟か妹ができるのだから… これで、さびしくなくなる。 それに、年が近いローザは頼れる継母になるはずだ」

 年が近いから頼れる継母になる? …それはいったい、どういう理屈りくつなのか意味不明だ。
 
「と… とにかく、お父様が元気を取り戻して嬉しいわ…」
 そうよ。 いきなり婚約者を連れて来たのは驚いたけれど… でもお父様が幸せになるのなら、私はローザ様を歓迎しないといけない。
 産まれてくる弟か、妹のことも……


 お父様に口では『嬉しい』と言ったけれど、本当は少しも嬉しくない。 

 ……私はふと、最初の婚約者アルフレッド様が婚約解消の成立と同時に、次の女性とすぐに婚約したことを思い出し、苦い気持ちになった。

「……」
 お母様の死を乗り越えて、これからは父娘で助けあい、生きて行こうと思っていたのに。 お母様のが明けてすぐに、若い婚約者をつれて来たお父様。
 そんなお父様に、私はアルフレッド様の時と同じく、裏切られたと感じるのはおかしいかしら?


 私はお父様に失望したが、そのことは口に出さず… 黙ってのみ込むことにした。


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