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6話 醜聞
しおりを挟むアッ… という間にマリオンが2度目の婚約を解消したことが、社交界で醜聞となって広がってしまう。
醜聞にまみれたスリンドン子爵家が非難される中、ノエル様は… 『あれだけ献身的に子爵家につくしたのに裏切られた』と人々から同情を誘った。
スリンドン子爵家の醜聞を利用し、自分の誠実さを社交界でじょうずにアピールすることができたノエル様は、すぐに次の婿入り先を見つけて婚約したそうだ。
私もノエル様にすてられたショックに耐えて、継母のローザ様に付き添い役となってもらい、お母様が亡くなってから中断していた社交活動を再開したが……
『ほら見て、あの令嬢… ノエル卿と婚約解消をしたスリンドン子爵家のお嬢さん』
『隣にいるかたは誰? もしかして、新しいスリンドン子爵夫人かしら…』
『まぁ…… 本当に令嬢と年がかわらないわ。 よく顔を出せたわね。 私なら恥ずかしくて、神殿で毎日お祈りを捧げていたでしょうね』
『子爵夫人だけではないわ。 あの令嬢はノエル卿が、2度目の婚約解消だったそうよ』
『あら嫌だ! なんて惨めな令嬢なの? あの令嬢は夜会に出るよりも、神殿で女神様に仕える道へ、今すぐ進むべきよ』
どこへ行っても、私と継母のローザ様はヒソヒソと陰口をたたかれ… 嘲笑でむかえられた。
適齢期の男性は1人も私に寄りつこうとしない。 予想通り、子爵家の相続人ではなくなった私に魅力を感じなくなったからだ。
それどころか学園で友人だった人たちまで、私と目を合わせようともしない。
一応、義理で招待状は来るけれど、私は社交界で孤立してしまった。
「マリオンならすぐに次の婚約者が見つかるさ。 そんなに暗い顔をしないでくれ」
お父様は腕の中に愛らしい息子を抱きながら、陽気な声で私を慰めた。
「…でもお父様、私は社交界で2度も婚約を解消された、惨めな娘だと言われているのよ? 3人目の婚約者なんて… 見つからないわ」
若く美しい妻のローザ様と、産まれたばかりの可愛い息子ティエリーに囲まれて、お父様は幸せの絶頂にいる。 …だから私の苦悩なんて、何も理解できないのね。
醜聞だけじゃないわ… 私は子爵家の財産を継ぐ、女相続人という魅力まで失ったから… 誰も私を見ようとしない。
私の価値は地に落ちてしまったのよ。
「それならハンケロウ伯爵に、もう1度お前の婚約者候補を紹介してくれるよう、頼んでみよう」
「お父様…」
1人目の婚約者アルフレッド様のお父様に、またお願いするの? そんなずうずうしいお願いを、ハンケロウ伯爵様が聞いてくれるとは思えないけれど……
お父様がハンケロウ伯爵に、私の婚約者候補を紹介して欲しいと頼みに行くと… 私の予想よりも、はるかに状況は悪くなった。
「スリンドン子爵、君は私の面目をつぶしたと… わかっているのか?」
「伯爵は何をそんなに怒っておられるのですか?」
「君が子爵家の後を継ぐ後継者が欲しいと言うから、それに相応しい有能な男を説得して、私は君に紹介したのだ。 それを息子のが可愛いからと、簡単に切りすてるとは… 君はもう少し、恥を知り誠意を持つべきだ!」
婚約契約を破ったお父様がノエル様から継承者の座を奪い、私と婚約を解消する原因となったことに、ハンケロウ伯爵は激しく怒っていた。
「ですが伯爵… 実の息子が産まれたら、いくら優秀でも他人を後継者にするなんて…」
「そういう問題で迷わないよう、はじめに婚約契約で決めたのではないか!」
「そ… それはそうですが…」
「信用できない君に、これ以上、有能な男を紹介する気は無い。 2度と私のところに来ないでくれ!」
その後、スリンドン子爵がハンケロウ伯爵の怒りを買ったという話題が、社交界の醜聞に加わった。
ハンケロウ伯爵家は武門に秀でた家系で、歴代の当主は全員、近衛騎士団に所属して王族の身辺警護を担当するような血筋である。
ハンケロウ伯爵自身も、国王陛下が王太子時代に身辺警護をつとめ… 能力を認められて最終的には、近衛騎士団の騎士団長にまでのぼりつめた人物だ。
名誉と誠実さを重んじることで有名な、ハンケロウ伯爵に嫌われたのなら、社交界でスリンドン子爵家が嫌われ者になるのも当然だった。
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