君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん

文字の大きさ
22 / 23

21話 衝撃2

しおりを挟む
 晩餐ばんさんの席から自室にもどり、アルフレッド様が用意させた温かいお茶を飲みながら、私は心を落ち着けようとした。
 …だが、どうしても私の弟ティエリーが『お父様の子ではない』 …という衝撃的な事実を受け止めきれずにいた。


「ティエリーは… 天使だわ。 可愛くて素直で… あの子といるだけで心がいやされて… 私の弟ではないなんて、信じられない」

「マリオンは愛していたんだな」
「ええ… だって、スリンドン子爵家であの子だけが、私を愛してくれたから」
「…そうか」
 
「こんなに大切なことを… なぜ教えてくれなかったの?! 私に配慮してくれたのはわかります。 でも、私のことを知らないうちに決められるのは、嫌だわ!」

 2人っきりになった気安さから、私は癇癪かんしゃくを爆発させた。

 アルフレッド様はハッ… と息をのみ、後悔の表情を浮かべる。
 10年前、一方的に婚約を解消したことを思い出したのだろう。
  
「すまない、オレも今はそう思う。 もっと早く言うべきだった」
「もう2度としないで下さい」
「約束する」

 アルフレッド様は私の手を取りキスを落とし… 私の顔をジッ… と見つめた。

「実はマリオン… まだ君に話していないことがある」
「…何ですか?」
「スリンドン子爵は君をつれもどして、婿養子むこようしをとらせようと考えているらしい」

「あの人は、そんなバカなこと考えていたの?!」
 私がお父様のせいで、醜聞しゅうぶんまみれになっていたことを忘れているのね。

「それと… 君の弟ティエリーは母親のローザ嬢に引き取りを拒否されて… スリンドン子爵は怒りのままに孤児院に入れたそうだ」

 私は言葉を失った。

「……っ!」
 いくら血がつながっていなくても… お父様がそこまで恥知らずだとは思わなかった。 あんなに溺愛していたティエリーを、お父様はすてたの?! 何の罪もない小さな子を!!

 自分の父親がそこまで薄情な人間だったと知り… 涙が出た。  

「マリオン」
「…アルフレッド様… 私は…っ…」 
「弟をむかえに行くか?」

「…え?!」
 アルフレッド様… それは?

「ティエリーを引き取ってオレたちの養子にすればいい」
「本当に…?」
「ああ、ティエリーは君の家族だろう? だったらオレの家族だ」

 何も心配はいらないとアルフレッド様は笑う。 …私は立ちあがり、アルフレッド様の前でひざまずき手を取った。

「アルフレッド様…… アルフレッド様、心から感謝します。 ありがとうございます!」
「やめてくれ、マリオン! オレの前にひざまずくなんて…」

 あわてたアルフレッド様はひざまずく私を抱きあげ、自分のひざにのせて、そのまま絨毯じゅうたんの上に座る。 

「でも本当に… 本当に… 嬉しくて… 私… 何てお礼を言えば良いかわからないわ」
「マリオンはオレの妻になるから… 君が喜ぶことをするのは当然だよ」
「アルフレッド様…!」

 感謝の気持ちを込めて、私は何度もアルフレッド様の男らしいほほひたいにキスをした。
 顔をうっすらと染めたアルフレッド様は、嬉しそうに笑いながら私の唇にキスを返してくれる。
 
「ああああ―――… 本当にオレはバカだったよ。 君と婚約を解消するなんて… 10年前のオレの尻をり飛ばしてやりたい」

「……ふふっ…」

 10年も放置されたすえに、私の前に突然あらわれたアルフレッド様に… 心のどこかでモヤモヤと不信感を持っていた。

 …でも、ようやく私の心は綺麗に晴れた気がする。




※次回で最終話です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました

er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?

〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…

藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。 契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。 そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。 設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全9話で完結になります。

帰ってきた兄の結婚、そして私、の話

鳴哉
恋愛
侯爵家の養女である妹 と 侯爵家の跡継ぎの兄 の話 短いのでサクッと読んでいただけると思います。 読みやすいように、5話に分けました。 毎日2回、予約投稿します。

初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました

3333(トリささみ)
恋愛
「あなたのことが、あの時からずっと好きでした。よろしければわたくしと、お付き合いしていただけませんか?」 男爵令嬢だが何不自由なく平和に暮らしていたアリサの日常は、その告白により崩れ去った。 初恋の相手であるレオナルドは、彼女の告白を陰湿になじるだけでなく、通っていた貴族学園に言いふらした。 その結果、全校生徒の笑い者にされたアリサは悲嘆し、絶望の底に突き落とされた。 しかしそれからすぐ『本物のつまはじき』を知ることになる。 社会的な孤立をメインに書いているので読む人によっては抵抗があるかもしれません。 一人称視点と三人称視点が交じっていて読みにくいところがあります。

再会の約束の場所に彼は現れなかった

四折 柊
恋愛
 ロジェはジゼルに言った。「ジゼル。三年後にここに来てほしい。僕は君に正式に婚約を申し込みたい」と。平民のロジェは男爵令嬢であるジゼルにプロポーズするために博士号を得たいと考えていた。彼は能力を見込まれ、隣国の研究室に招待されたのだ。  そして三年後、ジゼルは約束の場所でロジェを待った。ところが彼は現れない。代わりにそこに来たのは見知らぬ美しい女性だった。彼女はジゼルに残酷な言葉を放つ。「彼は私と結婚することになりました」とーーーー。(全5話)

処理中です...