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8話 沈黙の裏側で2
その場をさることもできず、呆然と立ち尽くしていると…
不意にステファニー嬢がランベール殿下から顔をそらし、コチラを向いた。
ステファニー嬢の視線が、渡り廊下で立ちどまり2人を見ていた私で止まる。
「…あっ!」
ステファニー嬢と目が合い頭が真っ白になった私は、身体を強張らせた。
私の姿を見つけたステファニー嬢は一瞬だけ動揺するが… すぐに敵愾心で瞳をギラギラさせて私を睨みつけてくる。
「…ステファニー嬢?」
ランベール殿下は、急に黙り込んでしまったステファニー嬢の視線を追いかけ… その先に立っていた私を見つけ、ギョッとする。
「オ… オディリア嬢?!」
ランベール殿下は慌ててステファニー嬢を、自分から引き離そうとするが、ステファニー嬢は殿下の服をつかんで引き止めようとする。
「待って、ランベール殿下! 行かないで… オディリア様のところになんて行かないで下さい!」
「やめるんだ、ステファニー嬢! 度が過ぎるぞ!」
ステファニー嬢は殿下に怒鳴られ、ビクッ! と顔を強張らせた。
少し前までの和やかな空気が一変し、ランベール殿下は自分の服をにぎり締めるステファニー嬢の手を振り払う。
「殿下、お願いです! 私を見てぇ!」
追いすがるステファニー嬢を無視して、ランベール殿下は私の元に駆け寄って来た。
「今のは… その…っ… 違うんだ! 彼女が生徒会の仕事を遅くまで手伝ってくれたから、そのお礼を言っていただけで…」
「殿下…」
私は妃教育が忙しくて、その生徒会にさえ入ることができなかった。 本当に何のために学園に通っていたのかわからないわ。
今まで私が王宮で受けていた妃教育は、学園の講義内容と被っているし、より高度な知識を学ばされるから… 学園の講義を受けなくてもじゅうぶん王太子妃の教養は備わっていた。
それでも学園に通っていたのは、同世代の人たちの人脈を築くためだった。
…でもマルセル殿下の浮気のせいで、私は浮気相手の男爵令嬢に悪評を流され、人脈どころか嫌われてしまい王太子妃失格の悪女だと思われている。
「誤解しないで欲しい、オディリア嬢!」
恋人のように仲よくしていたステファニー嬢を置き去りにして、都合が悪くなったら日和見主義的に、婚約者の私に擦り寄ろうとする殿下の態度が不快だった。
政略的には婚約者を優先する殿下の態度は正解かもしれない。 だけど… 人として、女性としては不正解だと感じたから。
ピクンッ… と私の眉が痙攣した。
「アレを見せておいて誤解ですか?」
私とは必要最低限の言葉さえ、交そうとしないクセに。 …殿下はそういう寡黙な人なのかと思っていたら、話す相手が違えばあんなに明るい声で笑っている。
一目瞭然で、今さら誤解のしようがない。 また私の眉がピクンッ… と痙攣した。
「そうだ、誤解なんだよ!」
少しは恥じらいを感じているのか、殿下は顔を真っ赤にして私の両肩に手をのせた。 …そして真正面から私と視線を合わせる。
必要が無ければ私の顔さえまともに見ようとしなかった人が、自分の都合が悪くなったとたん、目を離さず私をジッ… と見つめてくるなんて。
「私の名前… 殿下は御存じでしたのね?」
「は?」
「殿下に私の名前を呼ばれたのが初めてなので、御存じないのかと思っていました」
嫌味の1つぐらいは言わせてもらわないと、気がすまないわ!
「なっ……!」
ランベール殿下は顔だけでなく、首や耳まで真っ赤に染めた。 私の嫌味が通じて侮辱されたと思ったのだろう。
私はチラリとステファニー嬢に視線を向けてから…
「そろそろ失礼します、殿下。 講義の前に予習しておきたいことがあるので」
「待ってくれ、オディリア嬢!」
私は自分の両肩ににせられた殿下の手を丁寧に引き離すと… 馬車を降りた時とは逆に、ランベール殿下を置き去りにした。
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