17 / 34
16話 フラッドリー公爵の訪問
驚くべきことに、エヴァから契約結婚の話を聞いてから数日後にアルベールの叔父のフラッドリー公爵が、ペルサル伯爵家をおとずれた。
リアンナとアルベールの縁談を申し込みに来たのだ。
「フラッドリー公爵様 リアンナでございます…」
驚いたわ! エヴァ様から公爵様が私のことを、アルベール様の婚約者候補として興味を持っていると聞いたけれど…? 正直、エヴァ様の思い込みではないかと思っていたのに…?!
優雅におじぎをすると… 内心では戦々恐々とおびえつつ、リアンナはうっすらとひかえめな笑みを顔にはりつけて公爵に見せた。
ほんの一ヶ月ほど前、ローンヘッド男爵と対面した時と同じように、リアンナは父親にペルサル伯爵邸の執務室に呼ばれ、アルベールとの縁談について聞かされる。
ペルサル伯爵はローンヘッド男爵との縁談など、まるで無かったようにふるまっていた。
「リアンナ嬢、君の話はエヴァから聞いている… 学園ではとても優秀だそうだね?」
「学園で学ぶ教養はどれも、興味深いことばかりなので、つい夢中になってしまうのです… 私の好奇心が成績にいかされたことを嬉しく思っております」
一つずつ言葉を選びながら良く考えて丁寧に答えないと… ああ、エヴァ様! 失敗したらごめんなさい! ああ、怖いわ! 本当にこんなことになるなんて…
ローンヘッド男爵のように、公爵にも冷たい軽蔑の眼差しで見られるのではないかと、リアンナは身体を強張らせた。
「なるほど… 君は学ぶことが、好きなようだ」
「…はい、公爵様」
今まで私は、何が何でも学ばなければいけない立場だったから… でも学園で学んでいるときは、他のことを考えなくてすんだのがありがたかった。
私が婚外子でも使用人の子供でも関係なく、他の貴族令嬢たちと平等に努力しただけ評価されるのが嬉しかったわ…
「学園で何を学ぶのが1番好きかね?」
「1番は、領地の運営についてです… 殿方が学ばれる教養にくらべると、ほんの初歩的なことばかりですが」
私が産まれたのは伯爵領の小さな村で、領地民の1人だったから… やっぱり自分たちがどうあつかわれていたのか、気になっていた。
本当はもっとたくさん学びたかったけれど、女性が身につける教養は、もっと別のことが重要視される。
それが残念だわ… 確かに夜会やお茶会を開くための知識も、重要なのはわかるけれど…?
「ふむ… もしかしてリアンナ嬢は、算術も好きなのかな?」
「はい、答えが曖昧ではなく… ハッキリと数字で出るので好んでいます」
自分が来ているドレスが、全部合わせていくらぐらいになるかは知っておきたいもの。
リアンナは当然のように公爵にうなずくと… 公爵はニコリッ… とほほ笑む。
「なるほど…」
「……」
どうやら公爵様は、私の答えを気に入ったようね?
公爵の表情に軽蔑の影はなく、むしろエヴァのような好意を感じ、リアンナはほんの少し身体の力をぬき強張りをといた。
リアンナがホッ… としたのも束の間。
公爵は視線をリアンナから父親のペルサル伯爵へうつすと、ほほ笑みを消して厳かに言いはなつ。
「リアンナ嬢がただの養子ではなく、伯爵の婚外子だということは私も知っている」
「なっ…?! フラッドリー公爵、いきなり何を言い出すのですか?! 私の娘は遠縁から引き取った養女で…」
あわててリアンナの父親は反論しようとするが… サッ… と公爵が手をあげて話をさえぎる。
「伯爵、私はリアンナ嬢を気に入ったからアルベールの妻に欲しい… だが、これからはヘタな隠しごとはしないよう、肝に銘じてくれ」
「そ… それは…!」
「それとリアンナ嬢が公爵家に嫁いでくるまで、大切にあつかうように! 使用人のように働かせるなど論外だ」
公爵は懇意にしているローンヘッド男爵から、リアンナが伯爵家でどうあつかわれているか… その内情を聞いて把握し、警告しているのだ。
元平民で商人あがりのローンヘッド男爵は、2つの家を天秤にかけ… ペルサル伯爵よりもフラッドリー公爵家に恩を売った方が、より利益が出ると判断したのだろう。
ペルサル伯爵家も名家だが… フラッドリー公爵家ほど貴族社会に影響力があるわけではない。
何より領地や資産の多さなどは、王家から公爵家に嫁いだ王女たちの持参金のおかげで、伯爵家とはくらべ物にならないほど裕福なのだ。
リアンナは公爵と父親のそんなやり取りを、ぼうぜんと見ていた。
婚外子だとしてもペルサル伯爵はリアンナを養女にむかえ、実際のあつかいはともかく… 表向きでは伯爵家の娘としてあつかっている。
婚外子問題は貴族には良くあり、養子にして嫁や婿養子に出すという方法は、この王国では良く使われる逃げ道だった。
思惑はなんであれ、ペルサル伯爵の判断は正しく… 法律上、リアンナに何の問題もない。
伯爵はリアンナを幼子のころに引き取り、伯爵家で養女として育て学園で正式に教育を受けさせた。
ここまで完璧な擬装なら、正々堂々と伯爵家から嫁げば、醜聞にもならないはずである。
あなたにおすすめの小説
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。
朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。
【完結】溺愛される意味が分かりません!?
もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢
ルルーシュア=メライーブス
王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。
学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。
趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。
有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。
正直、意味が分からない。
さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか?
☆カダール王国シリーズ 短編☆
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
恋をし恋ひば~今更な新婚生活の顛末記~
川上桃園
恋愛
【本編完結】結婚した途端に半年放置の夫(何考えているのかわからない)×放置の末に開き直った妻(いじっぱり)=今更な新婚生活に愛は芽生える?
西洋風ファンタジーです。
社交界三年目を迎え、目新しい出会いも無いし、婚約者もできなかったから親のすすめで結婚した。相手は顔見知りだけれども、互いに結婚相手として考えたことはなかった。
その彼は結婚早々に外国へ。半年放っておかれたころに帰ってきたけれど、接し方がわからない。しかも本人は私の知らないうちに二週間の休暇をもらってきた。いろいろ言いたいことはあるけれど、せっかくだからと新婚旅行(ハネムーン)の計画を立てることにした。行き先は保養地で有名なハウニーコート。数多くのロマンス小説の舞台にもなった恋の生まれる地で、私たちは一人の女性と関わることになる(【ハウニーコートの恋】)。
結婚してはじめての社交界。昼間のパーティーで昔好きだった人と再会した(【昔、好きだった人】)。
夫の提案で我が家でパーティーを開くことになったが、いろいろやらなくてはいけないことも多い上に、信頼していた執事の様子もおかしくなって……(【サルマン家のパーティー】)。
あの夜で夫との絆がいっそう深まったかと言えばそうでもなかった。不満を溜めこんでいたところに夫が友人を家に招くと言い出した。突然すぎる! しかもその友人はかなり恐れ多い身分の人で……(【釣った魚には餌をやれ】)。
ある夜会で「春の女神」に出会ったが、彼女はなかなか風変わりの女性だった。彼女の名前はマティルダという(【春の女神】)。
夫が忘れ物をした。届けにいかなくては。(最終章【橋の上のふたり】)