妹にだまされ、私を無視する婚約者をすてることにした。

みみぢあん

文字の大きさ
11 / 65

10話 モンパトワル子爵



 従兄のシリルお兄様は、ふいにモンパトワル子爵様に声をかけられた。


「シリルきょう、お子様が誕生されたと聞きました。 おめでとうございます」

「ええ、モンパトワル子爵… ありがとうございます」

 子爵様の視線が、シリルお兄様のとなりに立つ私にチラリとむく。
 私を『紹介してくれ』 …と子爵様は視線で、シリルお兄様にサインを送ったのだ。

「ああ、子爵… この子は僕の従妹で、ロンスヴォー伯爵家のデルフィーヌです」

「お会い出来て光栄です。 デルフィーヌと申します… 以後、お見知りおきを」

 私はシリルお兄様の紹介で、子爵様にお辞儀じぎをすると… お兄様は続けて子爵様を私に紹介する。

「デルフィーヌ、モンパトワル子爵のユベールきょうだよ、君のお父上とも仕事で何度か交流があるんだ」

「初めましてデルフィーヌ嬢。 ロンスヴォー伯爵のお嬢さんでしたか… あなたのお父上には、とてもお世話になったのですよ」

「まぁ、そうでしたの?」
(お顔だけでなく、子爵様はお声も良いわ! 低いのに甘くひびいてウットリするような声だわ…)

 私の婚約者候補にとシリルお兄様から、何人も紹介されたけれど、これほど興味をそそられる人はいなかった。

 シリルお兄様のいうとおり、私は自分で思うよりも美形イケメン好きなのかもしれない。

「お父上はお元気ですか?」

「はい。 驚くほど元気ですわ」
(まぁ~… 子爵様は笑顔もステキ!!)

 私はニヤけてしまう唇をおおぎでかくした。

「デルフィーヌ嬢、よろしければ踊っていただけませんか?」

 モンパトワル子爵様が私に手を差し出した。

「!!」
 従兄にモンパトワル子爵様は男色家だんしょくかのウワサがあると聞き、さっきは紹介してもらうのをあきらめたのに。 その本人から誘われ、私は少し動揺したけど…

 チラリとシリルお兄様をうかがうと、小さくコクリとうなずいたから、私は子爵様と踊ることにした。

「はい。 私で良ければ…」

 まぢかで見るモンパトワル子爵様は、クラクラとめまいがするほど美形で、私は何度も盗み見た。

「……っ」
(本当に美しい男性だわ!)

 歩く姿にまで大人の色気があふれていて、言葉だけでは言い表せないつやがある。



 舞踏室のまん中でむかいあって立つと、私の目の高さが子爵様の広い胸のあたりだと気づき、2人の身長差に感動をおぼえた。

「……っ!」 
(あらあらあら!)

 学園の親睦しんぼく会でセルジュと踊った時は、私の視線はちょうどセルジュの鼻あたりだったから… 見上げなくても顔が見える身長差だったのに。

 長い腕と手のひらが、私の背中をつつむようにえられる。

 ワルツが始まり、この身長差だから振り回されるかもしれないと、覚悟したけれど… むしろその逆だった。

 おたがいなれないパートナーだから、最初の踊り出しはオズオズとだったけれど… ダンスが大好きな私はついつい暴れてしまい……

「お上手ですねデルフィーヌ嬢」

「子爵様こそ! うふふっ… 嬉しい驚きですわ」
(…子爵様はピッタリと私に寄りそうように合わせてくれる。 初めてのダンスパートナーとこんなに楽しめるとは思わなかったわ!)

「すでにとついでいますが、昔から妹の練習に付き合わされていたので」
「まぁ… では、妹さんもダンスの名手なのですね?」
「ええ、自分ではそう思っているようでした」
「ふふふっ…」

 楽しい時間はアッというまにすぎ、私は『もう少し踊りたいのに』 …と思いながら、しぶしぶダンスフロアから子爵様のエスコートで、シリルお兄様が立つ場所まで送りとどけれらる。

 その短いあいだに…

「……ステキな時間でした」
(子爵様が私の婚約者なら、続けてもう1度踊れたのに… 本当に名残なごしいわ!)

 残念だけど、今夜知り合ったばかりの未婚の男女では、そんな望みはかなわない。

「デルフィーヌ嬢… また誘っても良いですか?」
「はい、ぜひ!」

 私は嬉しくておおぎで顔をかくすことなく、満面の笑みでこたえた。

「3日後のジョルヴィル伯爵家で開かれる、舞踏会に出席されますか?」
「はい。 招待状をいただきましたから」
「では、その時にもう1度…」
「ええ… 子爵様、楽しみにしていますわ」

 踊った直後だから子爵様の浅黒あさぐろほほが、うっすらと赤くなっていた。
 さっきまできつい印象を受けていた切れ長の瞳は、嬉しそうに細められている。

「……あっ」
 私の心臓が、目に見えない何かにギュッ… とつかまれた気がした。


 それが… モンパトワル子爵ユベール卿に、私が恋をした瞬間だった。




 少し前まで婚約解消の痛手いたでで、胸の中がヂクヂクとうずいていたのがウソのように… 綺麗さっぱりセルジュへの複雑な思いが消えた。 


「不思議だわ… 私はセルジュのことがあんなに好きだったのに、セルジュとの過去が抜け落ちたように、モンパトワル子爵様と知り合ってからどうでも良くなった」

 裏切られて失望しセルジュを憎らしいと思う、ドロドロとしたの感情までも、新しい恋が浄化したのだ。

「気持ちがこんなに変わるなんてね…」

 失恋の痛手いたでを忘れることは、次の恋のためには必要な準備だけど。 我ながらなんて計算高いのだろうと、思わず苦笑した。




あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】病弱な妹に魔力を分け続け死ぬ寸前の私を、宮廷魔術師になった旧友が攫ってくれました。家族を捨てて幸せになっていいんですか?

未知香
恋愛
「あなたはもう十分楽しんだでしょう? 今度はミアーラの番よ」 膨大な魔力と知識を持ち、聖女候補とまで言われた、天才魔術師エリアーナ。 彼女は、病弱な妹ミアーラの為、家族に言われるまま自らの膨大な魔力を差し出すことにした。 「そうだ。私は健康で、今まで十分に楽しんできた。だから、あげるのは当然だ」 魔力を与え続けた結果、彼女は魔力を失い、容姿も衰え、社交界から姿を消してしまう事となった。 一方、妹ミアーラは姉から与えられた魔力を使い、聖女候補として称賛されるように。 家族の呪縛に縛られ、「今まで多くを貰いすぎていたのだ」と信じ、利用され続けるエリアーナ。 そんな彼女の前に現れたのは、かつての旧友であり宮廷魔術師となった青年だった。 ハッピーエンドです!

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」 新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。 それもそのはず。 2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。 でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。 美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。 だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。 どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。 すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?  焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!