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3話 婚約者リベルテ
しおりを挟む大きなため息をつき、父はいかにも煩わしいと言いたげに、お茶を飲み終えたティーカップをカチャリッ… とテーブルに置き口を開いた。
「デゼール、無駄な話はそれぐらいにして、ソレイユに話してやりなさい」
「そうよお母様、早くお姉様にも話してあげて!」
義妹リュンヌの美しい顔がパッ… と嬉しそうに輝いた。
「……っ」
いよいよ嫌な予感が当たりそうだわ?!
義妹とは正反対に、ソレイユの表情がけわしくなる。
「ソレイユ、あなたに素晴らしい結婚相手を見つけてあげたの!!」
「結婚相手ですって?! お義母様、私にはリベルテという婚約者がいるのよ?!」
何を言い出すの?! 今までリベルテという婚約者がいたから、私にドレスを買ってくれなかったくせに?! 訳がわからないわ?
あまりのバカらしさに、ソレイユの声が甲高くひっくり返った。
「でもソレイユ… リベルテ様はリュンヌに結婚を申し込まれたのよ?」
義母デゼールは満面の笑みを浮かべ、自分の実の娘リュンヌを愛おし気に見つめる。
「リベルテがリュンヌにですって? そんなバカなこと…っ!」
「本当にごめんなさい、お姉様! 実はデビューして王都にいる間、ずっとリベルテ様ったら、私のそばから離れなくて… どのパーティーにも彼が付いて来てくれたのよ?」
「うそよ!!」
そんなバカなことが、ある訳ないわ?!
リュンヌの勝ち誇るような顔を見て… ソレイユの顔色が青ざめる。
「でもあなたたちの婚約は、母親同士が仲が良いから、口約束だけで決めたもので、正式に契約書を交わしてはいないでしょう?」
嬉しそうに義母は笑い、ソレイユにとどめを刺しにかかった。
「何を言っているの?! お父様とお母さまが、リベルテのご両親と… ブルイヤール家と話し合って決めたことよ?!」
「だから、それがただの口約束だと言うのよソレイユ… ねぇ、あなた?」
義母は隣に座る夫の太ももに、はしたなく触れながら、猫なで声でたずねた。
「書類は交わしていない… 面倒だからとブルイヤール家と話し合ってやめたのだ」
正式な書類を王都から取り寄せ、婚約する2人と立会人がサインし、再び王都へ書類を送り返し、専門家を何人か通さないと婚約は成立しない。
お金も手間もかかるため、ジャルダン子爵家のような王都から遠い地方で暮らす貴族は、婚約契約をはぶいてしまうのだ。
「そんなのうそよ!! 彼は… リベルテは少しだけ待てと… 私に…」
「あら、少しですって? ソレイユ、あなた… 何歳になったか自分の年齢を忘れたの?! 本当の婚約者は、普通はそんなに待たせたりしないわよ?」
「……っ!」
そんな話、信じないわ?!
ソレイユは現在19歳で… 同じ年の友人たちは、みんな結婚している。
つまり、ソレイユは行きおくれの年齢に突入しつつあるのだ。
「リベルテ様がとても困っていたわよ? だってお姉様ったら、あきらめ悪くずっと手紙を送り続けるから… 『なんて説得すれば良いのか分からない』 …と言っていたわ?」
「そんなのうそよ! リベルテは… リベルテはそんな人ではないわ…?!」
確かに何年も待たされているから、私も少し不安に思っているけど…でもリベルテと私は…!
ソレイユ自身も感じていた不安を言い当てられ、動揺を隠せなかった。
「でも仕方ないわよね? お姉様は押しつけがましく、彼が王都へ旅立つ時に、無理やり純潔を捧げたそうじゃない?」
リュンヌが嘲笑を浮かべて話した内容に… ソレイユはハッ… と息をのむ。
「…っ!」
なぜ、リュンヌが知っているの?! リベルテと私の秘密なのに?! なぜなの?! リベルテが秘密を話したの…?! …それに、私から捧げたのではなくて、リベルテ自身に求められて、私は純潔を捧げたのに?! リベルテは本当に私を裏切ったの?!
秘密が暴かれただけではなく、真実を捻じ曲げられていたが… ソレイユが『リベルテに求められた』 …と言えば、純潔を捧げていることを認めることになり、『純潔は捧げていない』と言えば、うそをつくことになる。
淑女として恥を知る、善良な性格のソレイユは何も言えなくなり、沈黙するしかなかった。
「ほらね! 言ったでしょうあなた? ソレイユは少しも躾がなっていないと、本当になんて、ふしだらなの?!」
娘と良く似た甲高い声で、義母は嬉しそうにソレイユをここぞとばかりに侮辱した。
「…信じないわ!!」
リベルテ本人の口から、聞くまでは!
ギチッ… と歯を食いしばり、ソレイユは義母の暴言に耐えた。
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