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6話 旅立ち
しおりを挟むブルイヤール夫妻に会いに行った2日後には、先方の要望だからと義母に言いつけられ、ソレイユは王都へ旅立つこととなった。
「2日後だなんて… お義母様、あまりにも急過ぎます! お世話になった人たちに、この地を去る挨拶をするひまさえ無いではありませんか!」
さすがにそれでは、あまりにも不義理だと、ソレイユは義母に抗議したが…
「だってソレイユ、先方の要望にこちらが応えれば、持参金は無くて良いと言って下さっているのよ? あなたも子爵家にお金があまり無いことは、知っているでしょう?」
「でも、お義母様!」
「かわいそうに… リュンヌはお金が無いせいで、他のデビュタントたちと比べて、見劣りのするドレスしか仕立てられず、王都でとても苦労していたのよ? あなたと違ってあの子はとても美しいから、なんとか乗り切れたけれど! かわいそうなリュンヌ! あの子は不満があっても愚痴一つもこぼさずに耐えていると言うのに!! 持参金を出さなくて良くなるのだから、姉なら可愛い妹のためにそうしてちょうだい!!」
高価な外国産のレースで飾られたハンカチを出すと、涙をぬぐうふりをして、大袈裟になげいて見せる義母のうそに、ソレイユはうんざりする。
「…ああ」
こんなうそ、聞くのも面倒だわ? でも反論すれば、もっと長くだらだらと白々しいうそを聞くことになる。
お義母様がかわいそうだと言っているリュンヌは、昨夜は王都で一番人気のドレスメーカーで仕立てた、ビーズが胸いっぱいに縫い付けられた、高価なドレスを私に見せつけて自慢していたわよ?
これはもう、義母と義妹が主演女優の喜劇である。
「……」
お義母様はお金が無い子爵家から、私が早く嫁げば持参金を払わずに済むなどと、情けない理由をつけたが… そんなおかしな条件を出す伯爵様が、どの世界にいると言うのか?
きっと、始めからペイサージュ伯爵からは、持参金などは求められていなくて… ただ単に義母がソレイユを疎ましく思い、一刻でも早くジャルダン子爵家から、追い出したいだけなのは明らかである。
義妹や義母が王都へ行った時とは比べ物にならない程、少ないソレイユの荷物を馬車にのせ終わると、ジャルダン子爵邸を旅立つには丁度良い時間となった。
「ああ、ソレイユ! 本当に行ってしまうのね?!」
見送りに来てくれたブルイヤール夫人が、ソレイユを悲し気に抱きしめる。
「まぁ! おば様… 来てくださったの?!」
急な出発でどこにも、お別れの挨拶に行けなかったソレイユだが… ブルイヤール夫妻は、偶然、町で会ったジャルダン子爵家の領地管理人に、ソレイユが旅立つと聞き、あわてて駆けつけてくれたのだ。
「会えてよかった、ソレイユ… 君の結婚相手のことを騎士の友人たち(地元の騎士団員)にたずねてみたら、ペイサージュ伯爵アンバレ殿は、なかなか高潔な人物だという話だ」
「おじ様… ありがとうございます」
ペイサージュ伯爵は高潔な人?! わざわざおじ様は、私のために嫁ぎ先のことを調べてくれたのね? おじ様が言うのなら、きっと間違いないわ…
ソレイユがホッ… と胸をなでおろしていると、キルデリク・ブルイヤール卿はニヤリと笑って付け加えた。
「それに… とても美男子だと聞いたよ?」
「あら!」
キルデリク卿につられ、ソレイユも泣いて赤くなった目で、笑ってしまった。
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