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16話 急転
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伯爵はそう言ったきり、ソレイユの顔を見つめたまま、黙り込んでしまう。
あまりにも熱心に見つめられ、ソレイユは伯爵の視線に耐えられなくなり… 赤くなった顔をふせた。
「……っ」
伯爵様の瞳の色は、綺麗なグリーンだった…! それに王冠の形をした、金の輪が瞳の中心に浮かんでいた! 端整な顔立ちに見合う、美しい瞳をした男性だわ…?! 身体が健康なだけが取りえの私のような田舎娘とは、まるでつりあわない……
結婚して伯爵の隣に立つのが、ソレイユは急に怖くなった。
目の前にいる伯爵に気付かれないよう、気持ちをととのえようと… ソレイユはフゥ―… と深呼吸をする。
「……」
今まで一度も思ったことは無かったけれど… 初めて義妹のリュンヌがうらやましく思えるわ? 私も小さな顔に、夢見るような青い瞳だったら良かったのに?
姉のソレイユの金の瞳はとても美しいが… 人の心を射抜くようにジッ… と相手を見つめるくせがある。
亡くなった母親にも『そんなに強く相手を見つめてはダメよ』 …とソレイユは何度も注意されたが、いまだにそのくせを直すことが出来ない。
「……っ」
髪もリュンヌのような、羽毛のように軽やかでふわふわの金髪だったら…? 伯爵様は私を気に入ってくれるかしら…? それに結婚前に純潔を失った田舎娘を、どう思っているのか、とても気になるわ…?
ソレイユの髪は、リュンヌとは正反対の印象を他人にあたえる、いかにも気が強そうな赤い巻き毛である。
今まで母親譲りの自分の容姿に、ソレイユはじゅうぶん満足していたが… 義妹に婚約者を奪われたことで、プライドがボロボロに傷つき、自信を失ってしまっていた。
悶々と考え込み、自分の劣等感に押しつぶされそうになっていたソレイユの手に… 伯爵が不意に触れ、親指でなでた。
「私の世話をさせて済まなかった…」
伯爵は申し訳なさそうな表情で、ソレイユに謝罪する。
「え?!」
あわてて顔を上げたソレイユと目が合うと… 伯爵はサッ… と視線を外してしまう。
「とても不快なモノを見せてしまった…」
「い… いえ! おケガのことでしたら… 仕方の無いことだと思います… 伯爵様が私に謝ることではありませんわ? それに私の母も長い間、病で臥せっていたので、看病は慣れておりますし…」
ああっ! 伯爵様はご自分の顔の傷痕を気にしているのね?! もう、私ったら…! なんて気がきかないの?! 私のドジ…! バカ…!
「君は… ジャルダン子爵家のソレイユ嬢… だね?」
「はい」
「なぜ君がこの部屋にいたのか、理由が知りたいのだが…?」
「あっ… あの… 結婚前にはしたないとは思いましたが… 伯爵様の辛そうなお声が、隣の部屋にまで聞こえて来まして… それでどうしても気になり、のぞいてみたら…」
もじもじと言い訳をしながら、ソレイユは説明した。
「そして、私が君を引きとめた?」
「はい…」
「隣の部屋に、なぜ君がいたのかも… 疑問なのだが?」
「ええっ!? 伯爵様がそう指示されたと… 執事のジェランに聞きましたが?」
私が『伯爵夫人』の部屋に泊まることを… 伯爵様は知らなかったの?! どういうこと?!
「何だって、ジェランが?!」
「は… はい、違うのですか? あの、伯爵様と結婚するまでは、隠し扉を開けてはいけないとジェランに言われていたのですが… あまりにも苦しそうなお声が、聞こえたので…」
「待ってくれ! 私と結婚?! 私と君がか?!」
「…はい? 違うのですか?」
「……」
伯爵はそのまま絶句してしまった。
どう見ても伯爵は、ソレイユとの結婚について、何も知らされていない様子だ。
「ああっ、まさか…?! そんなこと… どうしよう…!」
たった今、恐ろしい可能性について、気づいてしまったわ?! もしかしてお義母様が用意した、この結婚の話自体が、全部うそだったとしたら…?! 私はお義母様にだまされて… ここまで来てしまったの?!
貴族の常識どころか… 人としての常識からも外れた義母なら、ありえることだと、ソレイユはゾッ… とする。
顔色を真っ青にして、今にもさけび出してしまいそうな自分の唇を、手のひらで塞いだ。
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