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53話 王太子クリストフの来訪
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数日間におよぶ、情熱的な初夜を終えたペイサージュ伯爵夫妻が、元気そうな姿で朝食室にあらわれるまで… 婚姻の儀から1週間も過ぎていた。
「旦那様、奥様は旦那様のような屈強な騎士ではありませんよ? このように毎日、旦那様の猛る情熱をぶつけてしまっては、奥様の寿命が縮んでしまいます」
アンバレのことを、子供の頃から知る執事のジェランは… 主に向かってチクチクッ… と説教をした。
「そ… それはだな… ジェラン! いや、私もそのことは反省している…」
「/////////っ…」
ううっ…! 確かにアンバレ様は… とても情熱的で、いつの間にか何日もベッドで過ごしてしまったけれど…? 恥ずかしいわ?!
アンバレはジェランに何も言い返すことができず、もごもごと口ごもり… 真赤に染まったソレイユは、ひたすら食後に出されたお茶を飲み、何も聞いてないふりをする。
「旦那様が奥様を娶られて、とてもお喜びなのは私も存じておりますが… 何事もほどほどがよろしいかと、思われます!」
冷ややかな目でチラリッ… とジェランはアンバレを見る。
「私もそう思う… これからは、ほどほどに気を付けることにする」
「/////////…ぅぅ…」
ああ、恥かしさで死にそうだわ!
…それから、さらに数日後。
アンバレが恐れていたその時が、突然やって来た。
のんびりと家族用の居間で寛いでいた、ソレイユとアンバレに… 珍しく緊張した面持ちで、高貴な客人の来訪を執事のジェランが伝える。
「旦那様、王太子殿下がいらっしゃいました、奥様が同席されることを望まれておられます」
「…殿下が?!」
「……っ!」
アンバレ様の予想通りだわ?! オルドナンスの神殿の神官長様が、約束を破って『聖なる試み』について誰かに話してしまったのね?
ソレイユとアンバレは顔を見合わせ、うなずき合うと一緒にソファから立ち上がり、ギュッ… と手をつないだ。
書斎の前に立つ、顔見知りの近衛騎士と軽く挨拶を交わしてから、アンバレは扉を開く。
近衛騎士を背後に2人立たせ、威圧的な空気を作り王太子クリストフは書斎のソファセットに、横柄な態度で座りお茶を飲んでいた。
「これは王太子殿下! お久しぶりです」
ほがらかに微笑みながら、アンバレは書斎へと入った。
「……」
ううっ… 緊張で胸がドキドキして、心臓が口から飛び出そうだわ?!
アンバレに紹介され、ソレイユは丁寧にお辞儀をすると、おどおどと怯えるふりをして… 王太子の向かいがわに夫とならんで腰を下ろす。
「結婚したそうだな? ペイサージュ伯爵… ずいぶん大急ぎで婚姻の儀を済ませたと聞いたが?」
不機嫌そうな態度を隠そうともせず、王太子クリストフは、アンバレをジッ… と見つめた。
傲慢な態度とは裏腹に、アンバレやカルムよりも、かなり小柄で華奢な印象を受ける細身の男性である。
「これはお恥ずかしい、さすが王太子殿下は何でもご存知ですね? 若く美しい婚約者に、また逃げられるのが恐ろしくて、一刻も早く妻にしたいと思いまして、儀式を早めたのです」
アンバレがケガを負ってすぐに、元婚約者の公爵令嬢にすてられた話は、社交界では有名なのだ。
「まぁ… 旦那様…」
チラリとアンバレを見あげ、すぐに視線を外し内気そうにソレイユは顔をふせた。
「なるほど、そういうことか…」
王太子も一応、アンバレの話に納得したようすだ。
「妻とは友人のカルムに、引き合わせられまして、私は一目で気に入り、その日のうちに結婚を申し込んだのです」
隣に座り、おどおどと怯えるふりをする、ソレイユの手をギュッ… とつかみ、アンバレはその手にキスをして… 怯える妻をなだめるために、指をからめて手をつなぐ。
「……」
うまく王太子殿下が、だまされてくれれば良いけれど?
もちろんソレイユは怯えてなどいなかったが… 王太子の前では気弱な女性を演じる方が、良いのではないかと、前もってアンバレと話し合っていた。
魔獣退治の現場は、騎士でも恐怖におののく場所である。
そのような場所に聖女として気弱な女性が行けば、邪魔者でしかなく、その様な印象を王太子に植え付けることで… 聖女になれとソレイユが強要されても、使い物にならないと、思わせる作戦だ。
「それよりも伯爵、以前私が見た時よりも、ケガが治癒しているように見えるな? それは奥方の力だという情報があるのだが…?」
王太子クリストフは本題に入った。
「はい、殿下」
アンバレは黒布で覆っていた左目を隠さず、完治したグリーンの両目で王太子クリストフを見つめる。
すでに王太子は、オルドナンスの神官長から、『聖なる試み』の話を聞いていて… その事実を確認しにアンバレに会いに来ているのだ。
そんな相手に対し、無理に隠そうと白々しい嘘をつけば、不敬罪とみなされるだけである。
「……!」
さぁ! いよいよだわ?!
ギュッ… とアンバレの手をにぎりしめ、ソレイユは顔をふせたまま身構えた。
「旦那様、奥様は旦那様のような屈強な騎士ではありませんよ? このように毎日、旦那様の猛る情熱をぶつけてしまっては、奥様の寿命が縮んでしまいます」
アンバレのことを、子供の頃から知る執事のジェランは… 主に向かってチクチクッ… と説教をした。
「そ… それはだな… ジェラン! いや、私もそのことは反省している…」
「/////////っ…」
ううっ…! 確かにアンバレ様は… とても情熱的で、いつの間にか何日もベッドで過ごしてしまったけれど…? 恥ずかしいわ?!
アンバレはジェランに何も言い返すことができず、もごもごと口ごもり… 真赤に染まったソレイユは、ひたすら食後に出されたお茶を飲み、何も聞いてないふりをする。
「旦那様が奥様を娶られて、とてもお喜びなのは私も存じておりますが… 何事もほどほどがよろしいかと、思われます!」
冷ややかな目でチラリッ… とジェランはアンバレを見る。
「私もそう思う… これからは、ほどほどに気を付けることにする」
「/////////…ぅぅ…」
ああ、恥かしさで死にそうだわ!
…それから、さらに数日後。
アンバレが恐れていたその時が、突然やって来た。
のんびりと家族用の居間で寛いでいた、ソレイユとアンバレに… 珍しく緊張した面持ちで、高貴な客人の来訪を執事のジェランが伝える。
「旦那様、王太子殿下がいらっしゃいました、奥様が同席されることを望まれておられます」
「…殿下が?!」
「……っ!」
アンバレ様の予想通りだわ?! オルドナンスの神殿の神官長様が、約束を破って『聖なる試み』について誰かに話してしまったのね?
ソレイユとアンバレは顔を見合わせ、うなずき合うと一緒にソファから立ち上がり、ギュッ… と手をつないだ。
書斎の前に立つ、顔見知りの近衛騎士と軽く挨拶を交わしてから、アンバレは扉を開く。
近衛騎士を背後に2人立たせ、威圧的な空気を作り王太子クリストフは書斎のソファセットに、横柄な態度で座りお茶を飲んでいた。
「これは王太子殿下! お久しぶりです」
ほがらかに微笑みながら、アンバレは書斎へと入った。
「……」
ううっ… 緊張で胸がドキドキして、心臓が口から飛び出そうだわ?!
アンバレに紹介され、ソレイユは丁寧にお辞儀をすると、おどおどと怯えるふりをして… 王太子の向かいがわに夫とならんで腰を下ろす。
「結婚したそうだな? ペイサージュ伯爵… ずいぶん大急ぎで婚姻の儀を済ませたと聞いたが?」
不機嫌そうな態度を隠そうともせず、王太子クリストフは、アンバレをジッ… と見つめた。
傲慢な態度とは裏腹に、アンバレやカルムよりも、かなり小柄で華奢な印象を受ける細身の男性である。
「これはお恥ずかしい、さすが王太子殿下は何でもご存知ですね? 若く美しい婚約者に、また逃げられるのが恐ろしくて、一刻も早く妻にしたいと思いまして、儀式を早めたのです」
アンバレがケガを負ってすぐに、元婚約者の公爵令嬢にすてられた話は、社交界では有名なのだ。
「まぁ… 旦那様…」
チラリとアンバレを見あげ、すぐに視線を外し内気そうにソレイユは顔をふせた。
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「妻とは友人のカルムに、引き合わせられまして、私は一目で気に入り、その日のうちに結婚を申し込んだのです」
隣に座り、おどおどと怯えるふりをする、ソレイユの手をギュッ… とつかみ、アンバレはその手にキスをして… 怯える妻をなだめるために、指をからめて手をつなぐ。
「……」
うまく王太子殿下が、だまされてくれれば良いけれど?
もちろんソレイユは怯えてなどいなかったが… 王太子の前では気弱な女性を演じる方が、良いのではないかと、前もってアンバレと話し合っていた。
魔獣退治の現場は、騎士でも恐怖におののく場所である。
そのような場所に聖女として気弱な女性が行けば、邪魔者でしかなく、その様な印象を王太子に植え付けることで… 聖女になれとソレイユが強要されても、使い物にならないと、思わせる作戦だ。
「それよりも伯爵、以前私が見た時よりも、ケガが治癒しているように見えるな? それは奥方の力だという情報があるのだが…?」
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「はい、殿下」
アンバレは黒布で覆っていた左目を隠さず、完治したグリーンの両目で王太子クリストフを見つめる。
すでに王太子は、オルドナンスの神官長から、『聖なる試み』の話を聞いていて… その事実を確認しにアンバレに会いに来ているのだ。
そんな相手に対し、無理に隠そうと白々しい嘘をつけば、不敬罪とみなされるだけである。
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