すてられた令嬢は、傷心の魔法騎士に溺愛される

みみぢあん

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57話 聖女と王太子 王太子クリストフside

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 王宮にある私室のソファに座り、背中にたらした髪を、ふわふわと揺らしながら… 聖女ブリュイは憂鬱ゆううつそうにため息をつく。


「王太子殿下… 私はまだ身体に疲れが残っていて、とても午後からの魔獣退治には付いて行けませんと、先程から何度も申し上げていますでしょう…?」
 婚約者の王太子クリストフを、聖女ブリュイは上目づかいで見つめ、甘い声で言いわけをした。

「だが、ブリュイ! 君が魔獣の瘴気しょうきけがれた北部の地で、浄化の儀式をとり行ったのは、2週間も前のことでは無いか?! あれからずっと休んでいるのに、なぜ君はいまだに疲れているのだ?!」
 ブリュイの向かいがわに座るクリストフは、イライラと髪をかきあげながら、瞳を曇らせる。

「ですが、殿下も一緒に見ていたでしょう? とても強い瘴気しょうきがただよっていたのを… あんなにけがれた場所に、私を連れて行くからいけないのです!」

「君は聖女で、けがれているからこそ、あの地は聖女の浄化が必要だったのだから、君が行くのは当然ではないか?!」
 クリストフは眉間みけんにしわを寄せ、怒りをおさえてブリュイにたずねた。

「まぁ! なんて意地悪な言いかたですか? 私はこの国でたった一人しかいない聖女だから、こんなにも頑張っているのに…! 殿下は婚約者の私に、敬意も愛情も無く、冷たく叱責しっせきするばかりで、心が折れてしまいそう! 何てひどいの?! ひどすぎるわぁ―――っ…!!」
 瞳から涙をあふれさせ、聖女ブリュイは嗚咽おえつをもらし、ソファに突っぷして泣き出す。

「ブリュイ… あまり、我がままばかり言っていると、自由を奪われることになるぞ? これ以上はいくら私でも、かばいきれないからな?!」
 もう、うんざりだ!! いつまでこんな性悪聖女の、くだらない芝居に付き合わなければ、ならないのだ?!

 聖女でなければ、ブリュイなど首をねてやるのに! ヒザの上でこぶしをにぎり、ギリギリとクリストフは歯ぎしりをした。

「……っ」
 クソッ! こんなことばかりしていては、まだ子供の弟に王太子の座を奪われてしまう!! この女は本当にわかっていないのか?! 私が失脚しっきゃくすれば7歳の子供と結婚することになるのだぞ?! いや… もしかすると、父上が… 国王が聖女を側妃にすると、言い出すかも知れない! 

 我がまま放題の聖女を、王太子クリストフは上手くあつかえず、大臣たちに『無能な王太子』と陰口をたたかれ… 王太子クリストフの立場は、厳しくなりつつある。


 側妃を母に持つクリストフが王太子となった当時は… 王家にたった1人しか王子がいなかったため、クリストフが王太子となった。
(正妃の子は2人とも王女で、すでに他国へ嫁いでいる)
 
 だが、その後… 2人目の側妃(公爵家出身)に王子が生まれ、その時からクリストフの立場は微妙なものとなる。

 クリストフの母親は家柄ではなく、魔力の強さで側妃に選ばれた下級貴族出身で、そのため第1王子とはいえ、クリストフには強力な後ろだてが存在しない。
 そこで、第2王子をす公爵家(母親の実家)が、現在の王太子クリストフの『無能』を理由に、王太子から引きずり降ろそうとしているのだ。
 

「クソッ…!」
 このまま、『無能』 …だと不名誉ふめいよな理由で、王太子から引きずり降ろされれば、私は義務を果たせなかった罪で、廃嫡はいちゃく処分になり平民へと落とされてしまう!!

 初めから、王太子になど選ばれなければ… 廃嫡はいちゃく処分になどならず、国王と王太子を支える王族として、クリストフが生き残る道はあった。
 だが、クリストフ自身には、どうにもならない不運がいくつも重なり、追いつめられてしまっていた。


 王太子クリストフは、とても不運な王子である。




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