侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

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私と幼馴染の最強魔法使い~幼馴染に運命の恋人が現れた!?~

ウィルの事情

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 ウィル・アンダーソンは、水属性の魔法使いを輩出している名門貴族の家に生まれた。

 兄のフィリップは、幼い頃魔力に目覚め、両親からの期待を一心に背負った。

 通常、それぞれの属性から、50年に一度は天才的な上級魔法使いが出てくると言われていたが、水属性の魔法使いは、ここ60年、上級魔法使いを輩出できていなかった。

 その為、フィリップは水属性魔法使いの期待のホープとして、大切に育てられた。

 弟のウィルも同時期に魔力に目覚めたが、目覚めたばかりの頃は、魔力が微力だった為、兄と比べると大した期待もされなかった。

『落ちこぼれの魔法使いウィル』

 それが、彼についたあだ名だった。兄もウィルを厄介者扱いし、アンダーソン家の恥さらしと罵った。

 だが、ウィルは気付いたことがあった。

 魔力に目覚めてから一年後くらいだろうか。魔術本に載っていた水属性の魔法を、見よう見まねでやってみたところ、いとも簡単にできてしまった。

 魔法の難易度は、高等部1年目あたりで学ぶ内容であり、魔力に目覚めて1年目のウィルに扱えるものではなかった。

 まぐれかと思い、他の魔法もいくつか試したが、かなり上級の水属性魔法も、何度か練習すれば、習得することができた。

 ウィルは魔力のコントロールが上手く、技の会得スピードが異常に早かった。

 ウィルは『落ちこぼれ』ではなく『天才』であった。

 だが、ウィルは、自分の魔法使いとしての実力を表に出すつもりはなかった。

 両親や、水属性の貴族たちから期待され、権力争いの道具にされるのはまっぴらだったし、好きでもない女性と政略結婚させられるのも嫌だった。

 自分は、落ちこぼれとして、期待も注目もされず、生きていこうと思った。

 ◇

 そうして、『雑用係のウィル』として定着し始めた頃、4つ年上の、魔力無しのナタリーという女の子に出会った。

 ナタリーは、あの扱いが難しい大魔法使い様にくっついている、魔力無しの人間ということで、魔法使いの中ではかなり注目の人物だった。

 女性できれいな見た目をしていたので、きっと魔法界の女性によくいる、取っつきにくいか、気が強いだろうなと思ったが、ナタリーは優しげな性格で、『雑用係のウィル』と弟のように親しげに接してくれた。

 魔法使いの世界は、序列が厳しく、魔力の弱い者はまるでゴミのような扱いをされるし、女性からも全く相手にされないのが普通である。

 ナタリーにそのような常識は当てはまっておらず、「ウィルは、この魔法界でできた唯一の友達よ。」と言ってくれた。

 ナタリーがウィルのことを親しみを込めて「ウィリー」と呼ぶのも好きだった。

 ◇

 ある時、ナタリーが何かに悩み、

「ここを追い出されるかも」

 と泣いていた。ウィルはナタリーを元気づけようと、ウィルが何度も思い描いた、

『ナタリーと人間界で暮らす』

 という夢物語を話してみた。ナタリーは笑っていたが、数日後、何かを振りきったような顔をして、『セントラルを出る』と言ってきた。

 ウィルの語った夢物語を、本気で行動にうつすというのだ。

 ウィルは、これは自分に舞い降りた、人生の転機だと思った。ここでチャンスを掴まなければ、一生後悔しながら、この面白味のない魔法界で、腐っていくのだろうと思った。

 大魔法使いアッシュの、ナタリーへの執着を見ると、仮に逃亡が失敗すれば、最愛の侍女をさらった不届き者として、ウィルは消されるだろう。

 かなり危ない橋を渡ることになるが、それでもウィルにやらないという選択肢はなかった。

 相手があのアッシュといえど、そう簡単には捕まるわけにはいかない。その為に、やらなければならないことが山のようにあった。

 ウィルは、ナタリーには黙って着々と準備を進めていた。
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