侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

文字の大きさ
54 / 121
私と幼馴染の最強魔法使い~幼馴染に運命の恋人が現れた!?~

懐古

しおりを挟む
 ナタリーはその日の夜、最近の日課であるかのように、アッシュの部屋を訪れた。

 ここ最近のアッシュは、日々疲れた様子であったが、その日は珍しく晴れやかな顔でナタリーを部屋へ迎え入れた。

「ナタリー、待ってた。久しぶりに、一緒に夕食を食べよう。そういえば、3年前、魔獣を倒した暁には一緒に祝おうと言ってた約束がまだだったな。シャンパンでも開けようか。」

 アッシュのいつもと違う様子に、ナタリーは胸騒ぎを覚えた。しかし、どこか楽しそうなアッシュを見るのは久しぶりで、ナタリーも嬉しくなってしまった。

「····ええ!いいわね。たまには羽目を外してもバチは当たらないでしょ。」

 ナタリーが笑顔で言うと、アッシュも二ッと笑って、ナタリーの手をとり2人きりの晩餐が始まった。

 シャンパンを数本開け、ほろ酔いになった2人は、上機嫌に昔のことを話し出した。

「あなたのお世話係に任命された私の苦労が分かる!?シスター達も、責務放棄よ!子どもに悪ガキの面倒を押し付けるなんて!!」

 ナタリーが怒って、グラスを荒々しくテーブルに置いた。

 アッシュは笑いながら、

「そういえばそうだったな。あの頃は、お前のこと、本当にうざいと思ってた。どこに行くにも『勝手に行動しないで!』とか『シスターを困らせないで!』とか言ってきてただろ。でも、俺にそんなことを言ってくる奴は始めてだったな。シスター達でさえ、俺と関わることすら嫌がってたのに、お前は俺に注意ばかりしてきて不思議だなと思ってた。」

 ナタリーは、「あなたのこと見捨てなかったのは私だけよ。」と自慢げに言った。

「そういえば、子どもの時、私たち一緒に寝てたじゃない?でも、ある日突然、アッシュが『もう一緒に寝ない』って言ってきたでしょ?あれってどうして?私、あなたが寝ているときだけは天使みたいで、寝顔を見るのけっこう好きだったのよ。」

 ナタリーが不思議そうに言うと、アッシュは思い出したように笑い始めた。

「あー····聞かなくていいと思うぞ。アレは何て言うか、男にしか分からないことだな。生理現象っていうのか?」

 アッシュがそこまで言うと、ナタリーもなんとなく意味が伝わり、聞かなくて良かったと顔を赤くした。

 2人の昔話は夜中まで続いた。

「アッシュ、そろそろ寝ましょう。明日もあるし。」

 アッシュは、ナタリーの手をとり、見つめながら言った。

「ナタリー、お願いがある。今日は一緒に寝ないか。」

 ナタリーは、アッシュの予想外の発言に驚き、言葉を選びながら答えた。

「アッシュ、それは私できないわ。その、私言わなかったんだけど、ウィルとその····そういうことをしたことがあるの。だから、あなたとはできない。」

 ナタリーがうつむきながら言うと、アッシュは穏やかな表情でナタリーに言った。

「分かってる。子どもの頃みたいに、一緒に寝たいだけだ。何もしない。」

 アッシュの切実な表情を見て、ナタリーは断れなくなってしまった。なんだかアッシュがどこか遠くへ行ってしまうような気がした。

「·····うん。分かった。」

 ナタリーはそういうと、アッシュと一緒にベッドに入った。最初はドキドキきて眠れなかったナタリーだったが、しばらくするとお酒のせいもあり、スゥスゥと寝てしまった。

 アッシュはまだ起きていて、ナタリーの寝顔を眺めていた。そして、ナタリーの顔にかかった髪をサラッと手で払い、ゆっくりと口付けをした。

「愛してるナタリー、側にいてくれてありがとう。」

 アッシュはそういうと、ナタリーの手を握り、眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

処理中です...