侍女と愛しの魔法使い【旧題:幼馴染の最強魔法使いは、「運命の番」を見つけたようです。邪魔者の私は消え去るとしましょう。】

きなこもち

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私と幼馴染の最強魔法使い~幼馴染に運命の恋人が現れた!?~

別れ

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 翌朝、ナタリーが目を覚ますと、隣にアッシュの姿はなかった。

 飲み過ぎたせいで、少し頭が痛い。早朝から用事でもあったのだろうと思い、自室へ戻って着替えた。

 部屋にいると、ノックの音が聞こえた。こんな時間に誰だろう?

「はい、どなたですか?」

「ナタリー、僕だ。ウィルだよ。」

「ウィル!?」

 急いでドアを開けると、ウィルが立っていた。

「ウィル!一体どうしたの!?」

 こんな早朝に、しかもウィルが訪ねてくるなんてただ事じゃない予感がした。

「ナタリー聞いて。急いでここを離れよう。人間が大軍を率いてこちらに向かってる。魔法使い達は、みんな事前に散り散りになって逃げた。魔法使いは、一旦全員解散だ。」

 ナタリーは、ウィルが何を言っているのか思考が追い付かなかった。

「····え!?みんないなくなったってこと?でも····!アッシュは!?昨日まで、一緒にいたのよ!?」

 ナタリーが信じられない気持ちで聞くと、ウィルは一呼吸置いて答えた。

「アッシュはもういない。僕は、アッシュから君を託されたんだ。」


 ◇


 アッシュがウィルの部屋を訪れた日、ウィルはアッシュからある頼まれ事をしていた。

「じきに、人間達がここへ軍を率いて攻めてくるだろう。そこで、お前に頼みがある。お前は、ナタリーを連れて逃げろ。」

 アッシュの言葉を聞いたウィルは、目を見開いてアッシュを見た。

「僕がナタリーを?····あなたではなく?」

「ああそうだ。俺は、人間達の間では最も顔が知られ、憎まれている。真っ先に殺したいと思われているのが俺だ。ナタリーを連れていけば、普通の生活は送らせてやれないし、危険な目に遭うだろう。俺はナタリーと一緒にはいられない。」

 ウィルにとってみれば願ってもない話だが、アッシュが自分からナタリーと離れる選択をするのはかなり意外だった。彼もまた、本当の意味でナタリーを愛していたのだろう。

「·····事情は分かりました。必ず無事に、ナタリーを連れて逃げます。」

 ウィルがそういうと、アッシュはウィルの目を見て強い口調でこう言った。

「逃げるだけじゃない。必ず幸せにしろ。できなければ、俺はお前を許さない。」

 ◇

 ウィルが、アッシュからナタリーと逃げるよう言われたことを話すと、ナタリーは胸が締め付けられるような思いがした。

 昨日のあれは、アッシュなりの最後の別れだったのだ。もう生きては会えないかもしれない。一度目はナタリーから離れ、二度目はアッシュから離れた。一言では言い表すことができない感情が渦巻き、ナタリーは涙が止まらなかった。

「急ごうナタリー。僕たちの家へ帰るんだ。」

 ウィルはナタリーの肩を抱き、移動魔法で2人のあの場所へ、飛んだ。


 ◇


 フィガロにある2人の家は、数ヵ月前、家を出たときのままの状態になっていた。まるで、ただ数ヵ月遠出をして、家に帰ってきたような感覚に襲われた。

 ナタリーは、ウィルとこの家に帰ってこれた嬉しさと同時に、味方のいないアッシュを一人きりで行かせてしまったことへの後悔が押し寄せてきた。ナタリーが悲痛な表情を浮かべて立っていると、ウィルはナタリーの肩を抱き、穏やかな声で話しかけた。

「ナタリー、聞いて。今は辛いかもしれない。でも、逃げた皆も必死で生きてる。この先どうなるか分からないけど、僕たちは僕たちの生活を守ろう。それが、今ナタリーとウィルに残された唯一の道だ。アッシュも君が幸せになることを望んだから、何も言わずに離れたんだ。」

「····ええ、分かってる。」

 ナタリーは、アッシュの気持ちが痛いほど分かった。自分が逆の立場であれば、ウィルやアッシュを守る為ならきっと同じ行動をするだろう。しかし、ナタリーはあまりにも力がなかった。自分の不甲斐なさにやりきれなくなった。

 ナタリーは、床に膝を付き、声を出して泣いた。ウィルはただ黙って、ナタリーの側に寄り添っていた。
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