友達夫婦~夫の浮気相手は私の親友でした~

きなこもち

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奈緒子と弘人

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 親友のマンションの前で、最愛の夫と親友がじゃれあっているのを目にしたとき、奈緒子はどこか他人事のような気がしていた。

 あの人たちは誰だ?

 自分の知っている彼らではない気がして、奈緒子はただ呆然と、2人が幸せそうに笑い合っている光景を見ていた。

 ◇

「いただきまーす!やった。今日は俺の好きなシチューだ。なおちゃんいつもありがと。」
 嬉しそうな弘人を見るのが、奈緒子の日々の疲れが吹っ飛ぶ瞬間だ。

 秋月 奈緒子と秋月 弘人は、結婚5年目だ。今年、2人は30歳になる。高校2年生の時同じクラスになり、その年に付き合った。弘人は、奈緒子の初めての彼氏であり、10年付き合った後、25歳の時結婚した。

 奈緒子は図書館で司書として働いており、弘人はスポーツジムのインストラクターとして働いている。
 2人の趣味は、漫画、ゲーム、映画。休みの日は、同性の友人と遊びもせず、夫婦で外出し、何時間もカフェで話し、趣味も一緒に楽しむ。誰が見ても仲良しの言わば、『友達夫婦』であった。

 その日、仕事から帰宅した奈緒子と弘人は、夕食を一緒にとっていた。
「ねーひろくん。今度の休みさ、『ピグモン4』の発売日じゃん?人多いだろうし、早めに行って並ぼ!!交代で並べばきつくないし。」
 奈緒子がそう言うと、弘人は珍しく、ゲームの発売日を忘れていたようで、
「・・・え?あ~発売日今週だっけ??ほんとごめん!うっかり忘れてて予定入れちゃった。なおちゃん、俺の為に並んできて。」
 奈緒子は、「もー!」と文句を言いながらも、なんだかんだで弘人のお願いを聞いてしまうのだ。

 弘人は、学生の時から男女から人気があるタイプだ。目立って何かをする生徒ではなかったが、背が高く顔は整っているし、人に威圧感を与えない柔らかい雰囲気からか、常に人に囲まれていた。
 一方、奈緒子はというと、相手が男子だというだけで緊張し、いつも大人しい女子とばかり、教室の隅の方でひっそりと固まっているような生徒だった。
 奈緒子と弘人が話すきっかけとなったのは、高校1年生の時の、通学のバスの中だった。奈緒子は、帰りのバスに時々、同じクラスの秋月弘人がいることは知っていたが、奈緒子の性格上、男子に、それも人気のあるような男子に話しかけることはできなかった。

 その日、奈緒子は駅で買い物をして、バスに乗った。そのバス停から乗車する客が多かった為、座席は座れないだろうと思っていた時だった。前のバス停から乗っていた弘人が、座席に座ったまま、隣の席をポンポンと叩き、奈緒子に話しかけてきた。
「冴木さん!ここ空いてるよ。」
 弘人に初めて声をかけられ、奈緒子は緊張し固まってしまったが、疲れていたので、「ありがとう」と言い、弘人の隣に腰を下ろした。
 弘人はにこやかに話しかけてきた。
「同じクラスだけど、話すの初めてだね。いつもこのバス?」
「うん。今日は買い物してたんだけど、大体この時間が多いかな。」
「そうなんだ。俺は帰宅部だからいつもこの時間。」
 弘人は、前はサッカー部に入っていてレギュラーだったが、大きな怪我をし、サッカー部を辞めたと同じクラスの女子が話しているのを聞いたことがある。
 奈緒子は「へぇ」と相づちを打ったが、その後の会話が続かなかった。女子の友達となら普通に話せるのだが、相手が話したこともないちょっとかっこいい男子だと、余計緊張し、何を言えば良いか分からなくなった。
 弘人は特に気にする様子もなく、しばらく窓の外を見ていたが、ふと、奈緒子のカバンについているピグモンのストラップに目をやった。
「あ!これ、ピグモンだよね!?俺も家でやってる~!」
 奈緒子も好きなゲームを弘人も知っていると分かり、奈緒子は嬉しくなった。その後、弘人はゲームだけでなく、漫画や映画も好きだと言うことが分かり、奈緒子と似通った趣味があることが分かった。
 意外にも話が盛り上がり、あっという間に弘人が降りるバス停に着いてしまった。
「あっもう着いちゃった・・・冴木さんと話すのすごい面白くて時間足りなかった!またバス同じだったら話そう。」
 奈緒子も同じ気持ちだったので、弘人にそう言われすごく嬉しいような、照れ臭いような気持ちになった。

 奈緒子と弘人が仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。帰りのバスが一緒になると、必ず隣に座り、共通の話題で盛り上がった。学校では直接はほとんど話さないが、同じ教室にいるので時折目が合い、周囲には気付かれないように微笑むのが、なんだか秘密めいていて、奈緒子はドキドキした。

 ある日、奈緒子は教室の中で、親友のはるかと話していた。はるかは、おかっぱ頭でメガネの真面目な生徒で、奈緒子とは中学生の時から親友だった。
「ねー、奈緒子、最近さ、弘人くんよくこっち見てない?」
 はるかから弘人の名前が出た為、奈緒子はドキッとした。
「そうかな?気のせいじゃない?」
 奈緒子はそういったが、はるかは納得いかないような顔をし、「うーん、絶対こっち見てる気がするんだよなぁ」と言った。
 奈緒子は、この時既に弘人のことが好きになっていた。仲良く男子と帰り、ましてや好きな人ができたなど、どちらかというと地味な奈緒子やはるかからしたら大事件だった。親友のはるかにずっと黙っておくのも後ろめたい気がして、奈緒子は白状してしまった。
「実は、私最近、弘人くんと同じバスなんだ。一緒に帰ってる。」
 奈緒子がそう言うと、はるかは、「へ?」とでもいいそうな顔をした。
「意外と好きなものとかが一緒でね、バスが同じになる時は、隣に座って話して帰ってるの。」
「えー!そうなんだ。奈緒子すごいじゃん。」
 はるかが笑ってくれたので、奈緒子はほっとした。しかし、はるかはその後、
「でもさぁ、奈緒子、あんまり浮かれない方がいいと思う。」
 と言った。奈緒子は、はるかの言った意味が分からず、「どういうこと?」と聞き返した。
「弘人君って、女子に人気あるじゃん。周りもかわいい子多いし、狙ってる子も多いんだよ。私とか奈緒子はさ、なんていうか、ああいう人たちからしたら、『オタク』とか『地味女子』って見られてると思うんだよね。」
 はるかの言葉に、浮き足立っていた奈緒子の心が沈んでいくのが分かった。
「うん。それは、私も分かってる。」
 奈緒子が暗い表情でそう答えると、はるかはフォローするようにあわてて言葉を付け足した。
「弘人君って、誰とでも楽しそうに話すじゃん!好きとかじゃなくても、女子友達として話してるんじゃないのかなって。意地悪で言ってるんじゃないの!ただ、奈緒子って男子に免疫ないし、傷ついて欲しくなくて・・・」
 はるかは、奈緒子のことを思って言ってくれているのが伝わってきた。
「うん。はるかありがとう。私勘違いしないよ。」
 内心少し強がって笑った。はるかの言う通りだ。浮かれて舞い上がって、傷つくのは怖かった。奈緒子はその日から、バスの時間をずらすようになり、一週間程、弘人と話さなかった。

 週明けの月曜日、帰りに雨が降っていたので、奈緒子は下駄箱で靴を履き、傘を差して帰ろうとしていた。その時、後ろから弘人に呼び止められた。
「冴木さん!」
 奈緒子が振り向くと、弘人は少し焦ったような、緊張しているような顔をした。
「えっと・・・最近バスで会わないね。もしかして、俺避けられてる?なんか俺が嫌なこと言ったんだったら、謝るよ。」
 恐る恐る聞いてきた弘人に対し、奈緒子は何と答えればいいか分からなくなってしまった。
「・・・違うの!秋月君は悪くないの!ただ、私がなんていうか、特別だって勘違いしないようにしようと思って!」
「勘違い?」
「私は秋月君と話しててすごく楽しいけど、秋月君は、他の人に話してるように私にも接してくれてるだけであって、私が特別仲良しだって勘違いしてたら迷惑かけるでしょ?」
 奈緒子が一気に言い放つと、弘人はしばらく黙って、こう呟いた。
「迷惑じゃないし。」
「え?」
「迷惑じゃないって!なんなら、勘違いでもないし!」
 奈緒子は、弘人が言った意味を理解しようとしていた。勘違いではないということは、私は特別だと思っていいのだろうか?
 弘人は顔を赤くしながら、奈緒子に告白した。
「俺、冴木さんのこと好きなんだ。付き合ってください。」
 その時から、奈緒子と弘人は付き合うようになった。はるかに付き合ったことを報告すると、
「・・・へー!!やるじゃん奈緒子!弘人君と仲良くね。」
 と応援してくれた。
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