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疑惑
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最近、弘人の様子がヘンだ。
ヘンということもないが、今まで、平日休みを2人で合わせて映画を見に行ったり、日帰りで遠出したりしていたのに、最近はその回数がめっきり減っていた。
いつも弘人から誘っていたのに、最近はしびれを切らして奈緒子から誘うようになっていた。
「ひろくん、この映画前に見たいって言ってたよね?今度の休み、行こうよ。」
奈緒子が映画のチラシを見せながら誘うと、弘人から、その日は急遽仕事が休めなくなったと言われた。
「なーんか最近怪しいなぁ。ひろくん、変なことしてないよね?ギャンブルとか、闇金に手を出したり、浮気なんかしたら絶対許さないからね。」
奈緒子は冗談で言ったのだが、思いの外、弘人が焦っていた。
「そんなことするわけないだろ!!職場の上司が変わったんだよ。休み変えられたり、飲みに行こうって誘われたりさ。別の日に埋め合わせするから、なおちゃん許して!」
弘人は謝りながら、奈緒子に抱きついてきた。奈緒子は、「もーそれならしょうがないかぁ」と言って笑ったが、なんとなくごまかされたような気がした。
◇
今日は、奈緒子は親友のはるかとカフェで待ち合わせしていた。
はるかとは高校卒業後、離ればなれになっていた。はるかは、高校を卒業した後、海外へ留学し、去年日本に戻ってきたということだった。英語はもちろんペラペラで、外資系企業に勤めているバリバリのキャリアウーマンだった。
十数年振りに会ったはるかのあまりの変わりように、奈緒子は正直驚いた。おかっぱだった髪は、背中まで伸ばした艶のあるロングヘアーになり、メガネもやめ、顔に似合う化粧と服に身を包み、高いヒールを履いたはるかは、どこからどう見ても洗練された美女だった。
「私、はるかと友達で鼻が高いわ。見て!みーんな、はるかを二度見してる。」
奈緒子はうっとりとした目ではるかを見て言った。
「何言ってんのよ!奈緒子だってきれいじゃない。昔とあんまり変わってないけど、奈緒子は化粧とか服とか頑張らなくても元々きれいだもん。」
奈緒子は昔から目立つタイプではなかったが、顔自体はそこそこキレイな方であった。ただ、化粧をしたり、着飾ったりすることはなく、いつもカジュアルでラフな服装をしていた。
「えー!私の服がダサいってこと!?失礼じゃない??」
「そういう意味じゃないってば!!」
2人で軽口を言い合い、お互いの近況を話し始めた。
「最近さぁ、弘人の様子が変なんだよねぇ。浮気でもしてるのかな?」
「まさか!奈緒子と弘人君みたいに気が合って、仲が良い夫婦なんてそうそういないよ?そもそも、今までが時間を共有しすぎてたんだよ。夫婦だけど、それぞれの時間って大事じゃない?これを機に、奈緒子も1人でもできる趣味とか見つけなよ。」
奈緒子ははるかにそう言われ、それもそうかと思った。私たちは一緒にいすぎたから、少し別の時間を持っただけでそう感じるのかもしれない。
「私のことはいいとして、はるかはどうなの?彼氏ができたって聞いたけど!」
奈緒子は話を変えるように、はるかの恋愛事情について聞いてみた。結婚すると、人の恋愛話を聞くのが一つの楽しみになっていた。
「うん、毎週会ってるよ。ずっと好きだった人だから、会えるとすごく嬉しい。」
はるかがすごく幸せそうに笑ったので、奈緒子まで嬉しくなってしまった。
「はるか~良かったじゃん!!それで···その人はどうなの?結婚願望とかあるの?」
結婚しない人も多い中で、このようなことを聞くのは野暮かと思ったが、前にはるかが、結婚願望があると言っていた為、奈緒子は思い切って聞いてみた。
「その人はねぇ、なんていうか、訳ありなの。だからすぐには無理かなぁ。」
それを聞いて、奈緒子はショックを受けた。
「え····それって、既婚者ってこと??」
「うん。でも、奥さんとどうなるか分かんないし。奈緒子、私のこと軽蔑する?」
奈緒子は、はるかがそんな辛い恋をしているとは夢にも思わず、なんと声を掛ければ良いか分からなかった。結婚している身からすれば、もし不倫されたとしたら、浮気相手のことも夫のことも許せないだろう。しかし、はるかにははるかの人生があり、奈緒子が一方的に非難することはためらわれた。
「····はるか辛くない?はるかには、もっとはるかを幸せにしてくれる人いると思うよ。」
奈緒子がそう言うと、はるかは薄く笑って、
「奈緒子、心配してくれてありがとう。でも、私にはその人しかいないの。私もずっと2番手でいる気はないしね。奥さんと上手くいってないみたい。」
と言った。浮気する人の気持ちは奈緒子には分からないが、既婚者であっても色んな事情があるのだろうか。別れた後に再婚することまではるかの計画に入っているとしたら、奈緒子とはるかは、結婚に対する考え方が根本的に違う気がした。
2人はその後別れ、奈緒子は帰宅後、風呂に入って、ソファに座ってゆっくりしていた。
風呂から上がった弘人がリビングに来て、奈緒子に話しかけた。
「今日、山内さんに会ってきたの?」
弘人は、はるかのことを『山内さん』と呼ぶ。クラスは同じだったが、はるかと弘人はほとんど関わりがなかった。
「うん。弘人、はるかにあったら美人過ぎてビックリすると思うよ。」
「へーそうなんだ。それで、元気だった?」
「うん。元気だったよ。大好きな彼氏がいるんだって。」
弘人は顔色をかえず、「彼氏ってどんな人?」と聞いてきた。
奈緒子は、人の恋愛事情をペラペラと話すタイプではないが、はるかと弘人は今までも今後も、会う機会もなければ共通の友人もいない。奈緒子もモヤモヤしている気持ちがあり、弘人に話を聞いて欲しかった。家族内の会話であるし、話しても問題ないと思い、はるかから聞いた話を正直に話してしまった。
「それがさぁ、はるか、既婚者の人と付き合ってるんだって。幸せになれないよって言ったら、その人奥さんと上手くいってないから自分もチャンスあるかもって。私、なんとも言えなくてさぁ。相手の奥さんの立場になって考えちゃうんだよね。」
奈緒子がそこまで言うと、弘人は少し顔を強張らせたように見えた。
「へぇ。山内さんも色々あるんだね。」
聞いてきた割に、弘人があまり話しに乗ってこなかったので、奈緒子は肩透かしを食らった気分になった。
「私、そろそろ寝るね。」
弘人の隣を通って寝室に行こうとすると、弘人が奈緒子を後ろから抱き締めてきた。
「なおちゃん、今日いい?」
久しぶりの弘人の夜の誘いに、奈緒子は嬉しくなった。付き合っていた頃は会うたびに求め合っていたが、結婚5年目ともなると、弘人からのそういった誘いは減り、奈緒子は少し寂しく思っていた。
その日の弘人はいつもより情熱的で、奈緒子は久しぶりに体が熱くなった。弘人に心も体も満たされる日々が、奈緒子は堪らなく愛しかった。
ヘンということもないが、今まで、平日休みを2人で合わせて映画を見に行ったり、日帰りで遠出したりしていたのに、最近はその回数がめっきり減っていた。
いつも弘人から誘っていたのに、最近はしびれを切らして奈緒子から誘うようになっていた。
「ひろくん、この映画前に見たいって言ってたよね?今度の休み、行こうよ。」
奈緒子が映画のチラシを見せながら誘うと、弘人から、その日は急遽仕事が休めなくなったと言われた。
「なーんか最近怪しいなぁ。ひろくん、変なことしてないよね?ギャンブルとか、闇金に手を出したり、浮気なんかしたら絶対許さないからね。」
奈緒子は冗談で言ったのだが、思いの外、弘人が焦っていた。
「そんなことするわけないだろ!!職場の上司が変わったんだよ。休み変えられたり、飲みに行こうって誘われたりさ。別の日に埋め合わせするから、なおちゃん許して!」
弘人は謝りながら、奈緒子に抱きついてきた。奈緒子は、「もーそれならしょうがないかぁ」と言って笑ったが、なんとなくごまかされたような気がした。
◇
今日は、奈緒子は親友のはるかとカフェで待ち合わせしていた。
はるかとは高校卒業後、離ればなれになっていた。はるかは、高校を卒業した後、海外へ留学し、去年日本に戻ってきたということだった。英語はもちろんペラペラで、外資系企業に勤めているバリバリのキャリアウーマンだった。
十数年振りに会ったはるかのあまりの変わりように、奈緒子は正直驚いた。おかっぱだった髪は、背中まで伸ばした艶のあるロングヘアーになり、メガネもやめ、顔に似合う化粧と服に身を包み、高いヒールを履いたはるかは、どこからどう見ても洗練された美女だった。
「私、はるかと友達で鼻が高いわ。見て!みーんな、はるかを二度見してる。」
奈緒子はうっとりとした目ではるかを見て言った。
「何言ってんのよ!奈緒子だってきれいじゃない。昔とあんまり変わってないけど、奈緒子は化粧とか服とか頑張らなくても元々きれいだもん。」
奈緒子は昔から目立つタイプではなかったが、顔自体はそこそこキレイな方であった。ただ、化粧をしたり、着飾ったりすることはなく、いつもカジュアルでラフな服装をしていた。
「えー!私の服がダサいってこと!?失礼じゃない??」
「そういう意味じゃないってば!!」
2人で軽口を言い合い、お互いの近況を話し始めた。
「最近さぁ、弘人の様子が変なんだよねぇ。浮気でもしてるのかな?」
「まさか!奈緒子と弘人君みたいに気が合って、仲が良い夫婦なんてそうそういないよ?そもそも、今までが時間を共有しすぎてたんだよ。夫婦だけど、それぞれの時間って大事じゃない?これを機に、奈緒子も1人でもできる趣味とか見つけなよ。」
奈緒子ははるかにそう言われ、それもそうかと思った。私たちは一緒にいすぎたから、少し別の時間を持っただけでそう感じるのかもしれない。
「私のことはいいとして、はるかはどうなの?彼氏ができたって聞いたけど!」
奈緒子は話を変えるように、はるかの恋愛事情について聞いてみた。結婚すると、人の恋愛話を聞くのが一つの楽しみになっていた。
「うん、毎週会ってるよ。ずっと好きだった人だから、会えるとすごく嬉しい。」
はるかがすごく幸せそうに笑ったので、奈緒子まで嬉しくなってしまった。
「はるか~良かったじゃん!!それで···その人はどうなの?結婚願望とかあるの?」
結婚しない人も多い中で、このようなことを聞くのは野暮かと思ったが、前にはるかが、結婚願望があると言っていた為、奈緒子は思い切って聞いてみた。
「その人はねぇ、なんていうか、訳ありなの。だからすぐには無理かなぁ。」
それを聞いて、奈緒子はショックを受けた。
「え····それって、既婚者ってこと??」
「うん。でも、奥さんとどうなるか分かんないし。奈緒子、私のこと軽蔑する?」
奈緒子は、はるかがそんな辛い恋をしているとは夢にも思わず、なんと声を掛ければ良いか分からなかった。結婚している身からすれば、もし不倫されたとしたら、浮気相手のことも夫のことも許せないだろう。しかし、はるかにははるかの人生があり、奈緒子が一方的に非難することはためらわれた。
「····はるか辛くない?はるかには、もっとはるかを幸せにしてくれる人いると思うよ。」
奈緒子がそう言うと、はるかは薄く笑って、
「奈緒子、心配してくれてありがとう。でも、私にはその人しかいないの。私もずっと2番手でいる気はないしね。奥さんと上手くいってないみたい。」
と言った。浮気する人の気持ちは奈緒子には分からないが、既婚者であっても色んな事情があるのだろうか。別れた後に再婚することまではるかの計画に入っているとしたら、奈緒子とはるかは、結婚に対する考え方が根本的に違う気がした。
2人はその後別れ、奈緒子は帰宅後、風呂に入って、ソファに座ってゆっくりしていた。
風呂から上がった弘人がリビングに来て、奈緒子に話しかけた。
「今日、山内さんに会ってきたの?」
弘人は、はるかのことを『山内さん』と呼ぶ。クラスは同じだったが、はるかと弘人はほとんど関わりがなかった。
「うん。弘人、はるかにあったら美人過ぎてビックリすると思うよ。」
「へーそうなんだ。それで、元気だった?」
「うん。元気だったよ。大好きな彼氏がいるんだって。」
弘人は顔色をかえず、「彼氏ってどんな人?」と聞いてきた。
奈緒子は、人の恋愛事情をペラペラと話すタイプではないが、はるかと弘人は今までも今後も、会う機会もなければ共通の友人もいない。奈緒子もモヤモヤしている気持ちがあり、弘人に話を聞いて欲しかった。家族内の会話であるし、話しても問題ないと思い、はるかから聞いた話を正直に話してしまった。
「それがさぁ、はるか、既婚者の人と付き合ってるんだって。幸せになれないよって言ったら、その人奥さんと上手くいってないから自分もチャンスあるかもって。私、なんとも言えなくてさぁ。相手の奥さんの立場になって考えちゃうんだよね。」
奈緒子がそこまで言うと、弘人は少し顔を強張らせたように見えた。
「へぇ。山内さんも色々あるんだね。」
聞いてきた割に、弘人があまり話しに乗ってこなかったので、奈緒子は肩透かしを食らった気分になった。
「私、そろそろ寝るね。」
弘人の隣を通って寝室に行こうとすると、弘人が奈緒子を後ろから抱き締めてきた。
「なおちゃん、今日いい?」
久しぶりの弘人の夜の誘いに、奈緒子は嬉しくなった。付き合っていた頃は会うたびに求め合っていたが、結婚5年目ともなると、弘人からのそういった誘いは減り、奈緒子は少し寂しく思っていた。
その日の弘人はいつもより情熱的で、奈緒子は久しぶりに体が熱くなった。弘人に心も体も満たされる日々が、奈緒子は堪らなく愛しかった。
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ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
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