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恩返し
恩返し
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彼と斎藤さんが帰ってきたのはお昼過ぎ。パンケーキが食べたいと急に言われ、ワタワタしていたときだった。ベージュ色のスーツを着た女性と一緒だった。
児童相談所の中村と名乗った女性は、こはるちゃんを怖がらせないように優しく微笑みながら話し掛けた。
「心春、ママが退院するまでの辛抱だ。お友だちがたくさんいるから寂しくないぞ」
しゃがんでこはるちゃんと同じ目の高さになる彼。こはるちゃんは不安そうに彼と中村さんをじっと見つめた。
彼からあとで聞いた話しだけど、こはるちゃんの祖父母は、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。娘とは絶縁した。関り合いになりたくない。そうはっきり彼と斎藤さんに伝えた。いかにも胡散臭い男だと思ったのよ。だから反対したのに、娘は勝手に子どもを作って家を出ていったのよ。こはるちゃんの祖父母は白目も見えるほどに目を見開き、彼のお兄さんへ怒りをぶちまいた。
「おにいちゃんたちありがとう。バイバイ」
笑顔で手を振ると中村さんと手を繋ぎ、玄関の前に横付けされた車に向かうこはるちゃん。後部座席のドアを開けてもらったとたん、
「いやだ!いやだ!」
ぶんぶんと首を横に振り、火がついたように大きな声で泣き出した。
お向かいさんやお隣さんがその声にびっくりして様子を来たりと、ちょっとした騒動になってしまった。
「心春ちゃんはここにはいれないの」
中村さんがこはるちゃんの腕を引っ張り車に無理矢理乗せようとしたら、
「いやだ!」
こはるちゃんがするりと中村さんの腕をすり抜け、彼の後ろに隠れてしまった。
「親族なら引き取って面倒をみれるんだけどね。赤の他人だしね……あ、そうだ。和真くん、一宮さんに事情を話して相談をしてみたらどうかな?」
彼がお爺ちゃんとお婆ちゃんに電話で事情を話すとすぐに駆け付けてくれた。
「だぁ~~れ?」
「和真おじさんのじぃじとばぁばよ。はじめまして。えっと……」
「あたし、こはるちゃん」
「そうだった。こはるちゃんだったわね」
刑事として弱いものの味方だったお爺ちゃんと、看護師として長年子どもたちに接してきたお婆ちゃん。こはるちゃんに向ける眼差しは慈悲深く、とても優しかった。
児童相談所の中村と名乗った女性は、こはるちゃんを怖がらせないように優しく微笑みながら話し掛けた。
「心春、ママが退院するまでの辛抱だ。お友だちがたくさんいるから寂しくないぞ」
しゃがんでこはるちゃんと同じ目の高さになる彼。こはるちゃんは不安そうに彼と中村さんをじっと見つめた。
彼からあとで聞いた話しだけど、こはるちゃんの祖父母は、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。娘とは絶縁した。関り合いになりたくない。そうはっきり彼と斎藤さんに伝えた。いかにも胡散臭い男だと思ったのよ。だから反対したのに、娘は勝手に子どもを作って家を出ていったのよ。こはるちゃんの祖父母は白目も見えるほどに目を見開き、彼のお兄さんへ怒りをぶちまいた。
「おにいちゃんたちありがとう。バイバイ」
笑顔で手を振ると中村さんと手を繋ぎ、玄関の前に横付けされた車に向かうこはるちゃん。後部座席のドアを開けてもらったとたん、
「いやだ!いやだ!」
ぶんぶんと首を横に振り、火がついたように大きな声で泣き出した。
お向かいさんやお隣さんがその声にびっくりして様子を来たりと、ちょっとした騒動になってしまった。
「心春ちゃんはここにはいれないの」
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「いやだ!」
こはるちゃんがするりと中村さんの腕をすり抜け、彼の後ろに隠れてしまった。
「親族なら引き取って面倒をみれるんだけどね。赤の他人だしね……あ、そうだ。和真くん、一宮さんに事情を話して相談をしてみたらどうかな?」
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「だぁ~~れ?」
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