あなたの隣で初めての恋を知る

３０年前の事件

３０年前の事件

ドアを開けたら彼にぎゅっと抱き締められた。
｢なかなか帰ってこないから心配したんだよ」
｢ごめんなさい和真さん」
心地いい温もりが全身をふわりと包み込んだ。ここが一番安心する場所だ。
｢電話でも説明したが、早水さんから色々と話しを聞いていたんだ。遅くなってすまん」
｢ヤスさんまで謝らないでください。四季やお腹の子に何かあったんじゃないか、そう思うと心配で何も手に付かなくなるんです。こんなのおかしいですよね？」
｢おかしくない。普通だ。オヤジもそうだし、鞠家も鳥飼も似たようなもんぞ」
そこへ心春がバタバタと走ってきた。
名残惜しそうに彼の腕がすっと離れていった。
｢パパ、まーちゃんおっきした。あ、ママだ」
｢ただいま」
心春がよいしょよいしょと膝の上によじ登ってきた。
｢心春、ママのお腹には赤ちゃんがいるんだよ。下りなさい」
｢やだ」
僕の体にしがみつくとぶんぶんと首を横に振った。最近の心春は変だ。こんな風に甘えん坊さんじゃなかったのに。
「赤ちゃん返りだ」
「赤ちゃん返り？」
「もっとパパとママに愛情を注いで欲しい。自分を見て欲しい、構って欲しい、可愛がって欲しい、心春はそう思っているんだよ。今までできていたことをやらなくなったり、激しいワガママや自己主張をして、和真さんと四季を困らせると思う。うちのオヤジがいい例だ。でっかい子どもと小さい子どもと赤ん坊がいる、そう割り切って面倒をみるしかない。でも、四季にとっては初めての妊娠だ。悪阻が酷くなることも考えなきゃならない。オヤジも言っていたが四季が安定期に入るまで菱沼ビルディングで暮らさないか？四季は真面目だから、何もかも全部自分でやろうとする。無理がたたって過労でぶっ倒れたらもともこうもないだろう。うちには育児のプロ、ままたんとぱぱたんがいる。姐さんも、大姐さんもいる。心春と円花の面倒はみんなでみればいい。うちの子もよその子も関係ない」