あなたの隣で初めての恋を知る

二つの顔を持つ殺し屋

二つの顔を持つ殺し屋

「あ、ママ。あのひとゆきうさぎのおじちゃんだ。ありがとうってしてくる」
「ちょっと待って」
母親が止めるのも聞かず男の子がニコニコしながらヤスさんに駆け寄ってきた。
「ゆきうさぎのおじちゃん、たすけてくれてありがと」
「いいってことよ。これからは知らない人に声を掛けられても付いていっちゃ駄目だぞ」
「うん、わかった」
「よし、偉いぞ」
ヤスさんが目を細め男の子の頭を撫でていると、
「その節は大変お世話になりました」
男の子の両親が深々と頭を下げた。もしかしてヤスさんの知っている人なのかな？ヤスさんは今まで見たことがないくらい怖い顔をしてほんの一瞬、父親を睨み付けたようなそんな気がした。
「さっきの男どう思った？思った通りに正直に答えていいぞ」
会計を済ませて病院を出るなりヤスさんに聞かれた。
「優しそうな人に見えたけど、スマホばかり見てて子どものことは見ないし、奥さんに声を掛けられても生返事で、ろくすっぽ話しを聞いてない。新しく家族が増えるのにどこか他人事のように思えたけど……気のせいかな？」
「気のせいじゃない。さすがは俺の娘だ」
くすっと笑うと写真を見せてくれた。
「あれ？さっきの男の人だ。別の女の人と手を繋いでいる。お腹、大きいですよね？」
「男の名前は瀧田。一太が通う小学校の目の前に住んでいる。昔の大地主で、とても大きい家に住んでいる資産家だ。さっき会ったのが本妻で、写真に写っているのが 何人かいる愛人のうちの一人だ。公にはなっていないが瀧田はこころやすらぎの幹部で、海堂のダンベイで懐刀だ。本妻や愛人たちにはそのことは隠している。四季、気をつけろ。彼も海堂と同じ。善人面してとんでもない悪党だ。女の敵だ」
「もしかして僕のことを監視するために本当は付き添いなんてしなくなかったのに奥さんに付いてきた。そんなのあり得ないか。たまたまですよね？偶然ですよね？」
「さぁ～～どうかな？」
ヤスさんの表情が一層険しくなった。