記憶の中に僕は居ますか

遭綺

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掌に込めた感謝の気持ち

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無事、新しい年を迎えた二人は今まで以上に互いを思いやり、時間が合う時は時間の許す限り一緒に過ごしていた。
そんな中、季節は春を迎え4月となった。

日付が変わろうとしている頃。
お風呂を済ませた勇緋は、束の間の休息をリビングで取る。
明日も仕事だが、風呂上がりの缶ビールで喉を潤していた。
そんな中、夬皇はと言うと早々にお風呂を済ませ、ゴールデンウィークフェアの準備があるのか、自室でレイアウトのイメージを思案しているようだ。
相変わらず仕事熱心だ。

だけど、一人で過ごすリビングはやっぱり寂しい。
本当は一緒に最近の漫画の事や推しのバンドの事など、話したい事は山ほどあるのに。
ああ、もうすぐ日付が変わる。
「さてと。そろそろ寝ないとな」
そう言って彼は缶ビールを飲み干し、簡単なストレッチをしてから自室へと足を向ける。
夬皇の部屋の前を過ぎる前、勇緋は足を止める。
作業をしているであろう彼の部屋の扉をノックする。
「はーい」
彼の声が聴こえた。
「夬皇、ちょっと良いか?」
「いいよー」
彼の声を受け、勇緋は部屋へと足を踏み入れる。

そこには真剣な顔で、PCとにらめっこをしている夬皇が居た。
液タブを使って、何やら綺麗なレイアウトを描いていた。
家ではあまり見せない顔に、ちょっとドキッとする。
「フェアの準備は順調?」
「お陰様で。もうすぐ完成かな」
「あんまり根詰めるなよ?」
「心配してくれてありがとう。大丈夫、好きでやってるから」
「なら良いんだ。元々、イラスト描くの、得意だもんな」
「うん。それと、今回は目玉として大きなPOPを付けようと思うんだ」
そう言って、夬皇は手招きをして勇緋を自分の近くへ呼ぶ。
「ほら、ここ。入口から見える様に、天井からマネキンを吊るしてみようかなって。今回のブースはインパクト重視」
「大掛かりだな」
「そうなんだよねぇ。予算とかは気にしなくて良いって言われたから、思いっきりやるだけなんだけど」
そう言いつつも、何か不満げな顔をしている夬皇。
「少しでもコストを抑えたいって顔、してるな」
「何で分かるのさ」
「何年一緒に居ると思っているんだ?」
勇緋の言葉に、夬皇はフッと笑う。
「そうなんだよ。折角なら、そこも考えたいんだ」
「気持ちは痛い程わかるよ。俺も日々、その戦いだからさ」
「まだこれと言った対策が練れてないけど。幾つか作戦はあるんだ」
「そこまで思い描いているなら、あとは実践あるのみだよ。夬皇なら、大丈夫」
勇緋はそう言って、後ろから彼を静かに抱き締めた。
「ありがとう。まだ、漠然としているけどね」
夬皇も勇緋の手に自分の手を重ね、温もりを感じていた。

それから少し沈黙があった。

「もうそろそろ寝た方が良いよ。朝、早いんだからさ」
「うん。そうするよ」
夬皇はそう言いながら、大きく欠伸をしたのだった。
「あとさ、重要な事、言い忘れてた」
勇緋がそう言うと、夬皇は首を傾げた。

「夬皇、28歳の誕生日おめでとう。誰よりも早く、お前に言いたかった」
そう、日付が変わった4月2日は彼の生誕の日だった。

当の夬皇は自分の誕生日を忘れていたのか、驚いた顔をしていた。
「そっか。もう日付変わったのか。時計見てなかったから気が付かなかった」
だんだんと照れくさくなってきたのか、頭を掻き出した。
「それで、コレ。大したものじゃないんだけど」
勇緋はずっとポケットに忍ばせていたプレゼントを彼に差し出した。
それは手のひらサイズの黒い箱に、真っ赤なリボンが施されたものだった。
「マジ? いつの間に、用意してくれてたの?」
夬皇は立ち上がってそれを受け取る。
「な、内緒…」
「すっげぇ、嬉しい。開けて良い?」
「ああ。勿論」
リボンを解き、箱の中身を空ける。
そこにはメタリックタイプのワイヤレスイヤホンが納められていた。
「こ、コレ…」
夬皇の箱を持つ手が震え始める。
「勇緋、まさか抽選、当たってたの?」
このワイヤレスイヤホンは特別なものだった。
二人が好きな推しのバンドのグッズで、抽選で当たらないとゲット出来ない代物だったからだ。
箱にはバンドメンバーのサインが書かれており、ファンには堪らない一品である。
「お前への誕生日プレゼントにしたいと思って、念じながら応募したんだ。そうしたら、応えてくれたんだ」
「勇緋…」
夬皇はそっとテーブルにその箱を置くと、すぐさま彼を強く抱き締めた。
「嬉し過ぎて爆発するわ。勇緋、大好き過ぎる!」
「喜んでくれて、俺も嬉しい」
予想以上の反応に、勇緋も満更ではない様子である。
「今日は、帰ったら一緒にパーティしような」
「ホント? めっちゃ楽しみ。早く仕事、終わらせてくる!」
「ああ。だから、今日はもう休んで下さいな」
「わかりましたよー」
夬皇はそう言って、彼と目を合わせると、いつもの優しい笑みを見せた。
「それじゃあ、おやすみ!」
勇緋は小さく手を振って、彼の部屋を後にしようとした。
すると、

「待って、ユウ!」

久し振りにその名で呼ばれたので、思わず動きを止めた勇緋。

「いつも俺の為にありがとう。これからも大好きだよ」

夬皇は扉を閉めようとする勇緋の頬に軽くキスをし、少し恥ずかしそうな顔をしながら、自ら部屋のドアを閉めたのだった。

一人、廊下に取り残された勇緋。
熱を帯びる頬を押さえながら、フラフラと自分の部屋へと歩いていく。
ベッドに身体を投げ出し、ぼんやりと天井を見つめる。
「全く。俺の方が寝れなくなったじゃんかよ」
いつまでもジンジンと熱い頬。
プレゼントのお返しにしては、刺激が強いものであった。
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