記憶の中に僕は居ますか

遭綺

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嚙み合う心の歯車

それから昼食を済ませた一行。
邪魔をしちゃ悪いからと言う理由で、夬皇の母親と凜はそそくさと帰ってしまった。
本当に秒で帰って行ったので、流石に戸惑いを見せた勇緋。

急に残された二人。

勇緋はとりあえず、夬皇を彼の部屋へ押し込んで様子を見る事にした。
沢山の彼の好きなモノがあるので、記憶が戻るきっかけが多いと踏んだからだ。
それにしてもさっきの彼の動向。
自分に向けられたあの目。

(やっぱり、アイツは巽と言う子が好きだったんだな)

あれは、ただの幼馴染として向けられた視線と熱量ではなかった。
このモヤモヤした気持ちは一体なんだ。
珈琲を淹れようとお湯を沸かしながら、一人キッチンで佇みながら考えていた。
すると、突如脳裏にある文字が浮かぶ。

【嫉妬】

以前夬皇が買ってきた恋愛漫画のヒロインが思い悩むシーンが何故か彼の脳裏にはっきり浮かんだ。
「まさか、俺が漫画みたいな事、するなんてな」
そんな感情を今まで抱いた事がなかったので、勇緋は何故か少し笑ってしまった。

勇緋は、珈琲淹れたマグカップを持って夬皇の部屋の扉をノックする。
「珈琲淹れたけど、飲むか?」
「…」
そこにはデスクにあるPC画面とにらめっこしている彼の姿があった。
「どうした?」
「えっと。これって、俺のPCなんだよね?」
「ああ。そうだよ」
「ログインのパスワードが分からなくて」
「パスワード?」
勇緋はマグカップをデスクに優しく置くと、二人でその画面を眺め始めた。
何度パスワードを入れてもダメらしい。
「うーんと。じゃあ、その下にある パスワードを忘れた時 と言う所、クリックしてみて」
「う、うん」
夬皇がマウスを動かして、その場所を押してみる。

【秘密のパスワード:俺達の一番の思い出の場所】

「一番の思い出の場所?」
夬皇は首を傾げたまま どこだろう と小さく呟いた。
勇緋は秘密のパスワードの文字を見ただけで胸が締め付けられた。
(夬皇。お前って奴は…)
本当に自分の事を好きで居てくれたのが良く分かる。
普通なら 実家で買っているペットの名前は? とかが一般的だ。
それを敢えて、その言葉にした。
しかも 俺達の と言う一文も添えて。
今すぐ目の前の彼に抱き付きたいと思った。
勇緋は無言のまま、キーボードに指を置く。
「えっ? わかるの?」
「わかるよ。お前の事なら、何でも」
しなやかな動きで文字を打ち込み、エンターキーを押す。
すると、画面のロックが外れてパスコードが出て来たのだ。
「えー。本当に当てたぁ、凄い凄い!」
子供のようにパチパチと何度も拍手を送る夬皇。
現れたパスコードは、8桁の数字だった。
「えーっと…なになに」
夬皇は必死に文字をメモ帳に書き写しているが、勇緋はそんな事をせずともその数字の羅列の意味を理解した。

次の瞬間、勇緋は彼の事をぎゅっと抱き締めていた。
自然と身体が動いてしまっていた。

「ちょ、ちょっといきなりどうしたのさ…」
「やっぱり大好きだよ、夬皇」

記憶が無くなっていても良い。
自分の事が分からなくても良い。
ただ、目の前にいるを好きになってくれたらそれだけで良いと思った。
心がちゃんと繋がっていると分かればあとは何も要らない。

「お前の記憶が戻るのなら、俺は何だってするから」
勇緋と夬皇の視線がぶつかる。勇緋の目が赤くなっているのを見た夬皇は驚いた表情を見せた。
「たつ…」
彼の名を呼ぶ前に、夬皇は動きを止めた。
何かその名に違和感が生まれたのか苦々しい顔をしている。
「俺。なんでお前の事、何も覚えていないんだよ。凄く好きだなって思うのに」
「大丈夫だよ。少しずつゆっくり思い出して行こう。焦らなくて良い。俺はずっとお前の味方だ」
そう言って二人はもう一度抱き合った。

「本当に俺、記憶が無くなっているの? 大切な事、いっぱい忘れているの?」

ずっと認めたくなかった事実が迫って来て夬皇は初めて声を震わせる。
今の状況がイレギュラーである事をだんだん理解してきたらしい。
「安心しろ。お前が思い出す記憶は全部、楽しい記憶しかないから」
「ホント?」
「だから、一歩ずつ辿って行こう。俺達なら、きっと大丈夫さ」
「うん。ありがとう」
勇緋は優しく夬皇の頭に優しく手を添えた。
「あ、あのさ…。君って本当は巽、じゃないんだよね?」
「ああ。そうだよ」
「申し訳ないんだけど、本当の名前、教えてくれない?」
「いいよ。俺は 神塚 勇緋 だ」
「かみつか、ゆうひ…」
聴いた覚えはないのだけれど、何故だかその名前を聴いた時、懐かしい感じがした。
急いで彼は、メモ帳にその名を描く。
漢字がわからなかったのか、平仮名で書いていた。
「えーと、そ、それじゃあ、かみ、つか君。改めてよろしく。俺の記憶の事で、かなり迷惑をかけていると思うけど…」
彼の口から久し振りに苗字で呼ばれた。
だが、それだけでもかなりの進歩と言えよう。

(なんか。俺まで出逢った頃に戻った気持ちになるな…)

でも、こんな気持ちも悪くない。
しばらくは土日しか会えなくなるけど、これからも俺と一緒に居て下さい。
勇緋は口にせずともそんな事を想っていた。
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