エイプリルフールの彼女(連載版)

日本語わかりま銑十郎

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2話「新年度がはじまる」

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  1.

「新入生のみなひゃんっ!」

 噛んだ。
 ステージの下で、小さく笑いが起きる。

 僕のとなりで加奈ちゃんが顔を赤く染め、
「新入生のみなさん、入学おめでとうございますっ」

 こんどは噛まなかった。
 僕たち二人の前には百人以上の幼い顔があった。

 新入生だ。
 春休みが明けて、クラス替えがあって、僕と加奈ちゃんはおなじクラスになった。

 そして、今は体育館にて例年おなじみの行事、すなわち『部活動紹介』の真っ最中だった。

「あたしたち卓球部は男子十五人、女子八人の合計二十三人で、日々活動しています。今日は、そんな卓球部の日常の風景をひとつとして、ラリーの実演をしたいと思います」

 加奈ちゃんが丹念にいい終えるのと同時、ステージ袖にあらかじめ用意しておいた卓球台を控えていた卓球部員たちがすばやく移動させる。

 準備が終わると、僕と加奈ちゃんはそれぞれ台の反対側についた。
 加奈ちゃんがポケットからピン球を取りだし、

 新入生が笑った。
 加奈ちゃんの手からピン球がこぼれ、ステージの上をこつこつと跳ね転げたのだ。

「あわわ」

 加奈ちゃんは大慌てでピン球を追いかけ、

 新入生が大笑いした。
 加奈ちゃんのシューズがピン球を踏みつけ、潰してしまったのだ。

「ど、ど……」
 加奈ちゃんはパニックになりながら、きょろきょろと視線を動かす。

「加奈ちゃん!」
 僕は叫んだ。

「まだ、ピン球あるから!」

 僕がポケットからピン球を取りだすと、加奈ちゃんは、はっ、と気づいた様子で、こくこく頷きながら、ぎこちなく戻ってきた。

 加奈ちゃんの準備ができるのを待って、僕はサーブを打つ。
 加奈ちゃんはフォアに構えてピン球を打ち、

 新入生が爆笑した。
 ピン球が加奈ちゃんのラケットの側面にあたり、かん高い音とともに真上に飛ぶと、再び落ちてきたピン球が加奈ちゃんの頭頂部にぶつかったのである。

 これには新入生だけでなく僕も笑ってしまった。偶然にしても奇跡だ。
 ある意味、おいしい。

 だが、加奈ちゃんは完全に冷静さを欠いてしまっており、そう思うだけの余裕がなかったみたいだ。僕のほうに転がってきているピン球を拾おうと焦るあまり足をひっかけ、

 新入生が笑い死んだ。
 加奈ちゃんは盛大にずっこけ、近くにいた僕を押し倒したのだ。

 僕は床にうちつけた尻の痛みとともに、顔面になにやらやわらかいものを感じた。
 加奈ちゃんの胸だ。特別大きいわけでもないが、第二次性徴をしっかりと感じ取れるだけのふくらみが……。

「いてて……」
 加奈ちゃんはそう呟き。

「~~~~っ!」
 ばっ、と勢いよく僕の上から飛びのいた。

 加奈ちゃんはまっ赤な顔で僕を見たあと、ステージ下で笑い転げる新入生たちを呆然と眺めると、涙目になって僕を見つめた。

「大丈夫、大丈夫、だから」
 僕は加奈ちゃんにそういって、ポケットのなかに手をつっこむ。

「あちゃ……」

 僕は苦笑した。ポケットのなかに入れておいた予備のピン球は、さっき加奈ちゃんの下敷きになったときに潰れてしまったみたいだ。

 僕はステージ袖を見て、控えていた土居に「ピン球」というと、土居は「ちょっと待て」と残しどたどたと階段を降りていった。土居は体育館の奥に向かうと、周りの新入生の視線も気にせず用具入れをガラガラと開け、しばらく中でガサゴソやったあと走ってこっちに戻ってくる。

 土居がピン球を取りに行って戻るあいだに、僕は緊張で平静を失っている加奈ちゃんをどうにかしなくてはならなかった。

「加奈ちゃん」
 僕は加奈ちゃんの手を握る。ひんやりとした。つめたい。

「賭けをしよう」
 とっさに思いついた。

「ふぇ?」
 加奈ちゃんが口を半開きにして僕をまじまじと見つめる。

「次のラリー、ミスったほうが負け。バツとして帰り、荷物持ち」

 僕がそういうと、加奈ちゃんは呆けたような表情をしたが、やがていつものニンマリとした笑みを浮かべると、小さく頷いた。

「負けないからね」

 加奈ちゃんの手に温かさが戻った。
 ちょうど、土居もピン球を持って戻ってきた。

「ほらよ」
 土居が投げ渡したピン球を、

「サンキュ」
 受け取る。

 僕と加奈ちゃんは再び卓球台を挟んで向かいあう。

 僕がサーブを打ち、加奈ちゃんが返し、僕が返し、加奈ちゃんが……。僕との賭けに集中できているのか、加奈ちゃんは緊張を忘れていた。僕だって、負けるつもりはなかった。

「おいケイ!」
 舞台袖から土居の声がした。

「おっと」
 僕はピン球を左手で捕球し、ラリーを途中でやめる。

 各部活に与えられた時間は五分。もう時間だ。
 他の部員たちが卓球台の撤収にかかり、僕と加奈ちゃんはスタンドマイクの前に並ぶ。

「諸事情あって予定よりラリーの時間が短くなってしまいましたが、」

 僕がそう前置きすると、新入生たちがどっ、と笑った。加奈ちゃんに肘で小突かれた。むぅ、と恨めしそうな唸り声が聞こえた。

「卓球部は毎日楽しく活動しています。興味のある人はぜひ、足を運んでみてください。ありがとうございました」

 そう一礼すると、思っていたより盛大な拍手が僕たちを包んだ。

「おう、ケイ。なかなかよかったぞ」
 舞台袖にもどると、土居がそう笑いかけてきた。

「冗談だろ」
 僕は苦笑する。あれでなかなかいいなんて、どんだけハードル低いんだ。

「ケイくん……」

 ふと、背後から声がした。
 振りかえると、加奈ちゃんが俯いて震えていた。

「なに?」
 僕が問うと、加奈ちゃんは、がばっ、と顔をあげ、

「どうしよぉ~っ!」

 泣きそうだった。

「あたしのせいで、新入部員こないかも~っ!」
「そんなこと、気にしなくても」

 どうせ卓球部なんて、最初っから入部するやつはだいたい決まっていて、それ以外のやつは何やったって来やしないのだ。

「そーそー、むしろ良かったと思うぜ」
 土居が僕に同意する。

「良かったって、どういうこと?」
「まー、今にわかるわい」

 土居の言葉に、加奈ちゃんは首を傾げた。僕も真意をわかりかねていた。

  2.

 体育館は大盛況だった(当部比)。

 例年、卓球部の新入部員は男女あわせて十人前後なのだが、今年はその倍だ。

 男子十人、女子十一人、合計二十一人の新入生が卓球部の仮入部にやって来ていた。仮入部に来た部員はそのままなし崩し的に部員になることがほとんどなので、これはまれに見る大収穫といえる。

「な、いったとーりやったろ?」

 土居がドヤ顔をこっちに向ける。
 僕は首を傾げる。

「でも、どうして?」
「新入生が部活に求めるんは一に青春、二に青春。男子はモテたくてサッカー部に、女子は調理部にってね」
「なら、どうして卓球部なんか、」

 卓球部なんて地味でダサいイメージしかない。青春とかモテるとかとは真逆に位置する影の存在だ。
 土居は呆れたようにため息をつき、

「ケイってやっぱりアホやな」
「なにを、成績ならお前だって変わったもんじゃないだろ」
「そーじゃなくてさー、もっと他人の心情とか読み取る能力をさ、」
「ぐ」

 確かに、僕は国語が苦手だった。とくに登場人物の気持ちを推し量るタイプの問題。あれ意味不明。解読不能。存在価値皆無。南無阿弥陀仏。

「ったく、なんで加奈さんはお前みたいなやつと付きあってんだか」
「ちょっと待て」

 聞き捨てならなかった。

「ん?」
「なんでお前、僕と加奈ちゃんのこと知ってるんだ?」
「んなもん、見たらわかるわい」
「まじで?」
「卓球部員はみんな知っとるわ。たぶん、一週間後には学年中に知れ渡っとるだろーな」

 僕は愕然とした。二人だけの秘密のはずだったのだ。

「……そんなにわかりやすい?」
「めちゃくちゃ。つーか、新入生がはいってきたのもそれが理由だろーに」
「え?」
「婚活サイトとかによく載っとんだろ、成功談。幸せそうなカップルがサイトをべた褒めするやつ。まさにケイと加奈さんの部紹介だろがい。『わたしたちは卓球部にはいって素敵なパートナーを見つけましたー』ゆーて」
「……」

 僕は遠目に加奈ちゃんを見る。加奈ちゃんはそんなことつゆ知らず、楽しそうに新入生と絡んでいる。

「じゃあ、新入生たちは……」
「おおかた、合コンかなんかのつもりで来とんちゃうかい?」
「はあ」

 確かに、ここに集まっている新入生たちは「らしく」ない。
 卓球部なんかより、サッカー部とか、テニス部とか、そういう明るい場所にいるべき人間のようにも思える。

「これ、いいのかな?」
「なにが?」
「だって、こんな騙すような感じになっちゃって。本当はそんなことないのに」
「知ったこっちゃねーよ。どーせ俺らあと二ヶ月ちょっとで引退だぜ」
「そりゃ、そうだけど」

 なんか無責任な気がする。
 土居は投げやりに、

「それに、俺たちがいなくなったら一年が部の七割を占めるだろ。そのころにゃ卓球部の雰囲気も今とはぜんぜん変わって、それこそリア充の社交場にでもなっとるだろ?」
「そういうもんかな」
「そーゆーもんだって。俺らはただ、先輩風吹かせられる相手が増えたとでも思ってりゃいーの」
「先輩風って……」

 僕はそんなタイプじゃない。
 僕は結局、土井のいい分にいまいち納得できなかったが、その理由が自分でもわからなかった。

「ん?」

 僕はふと、新入生の一人が気になった。
 どこかで見たことがある気がする。

 彼はほかの新入生たちとは距離をおき、自前のラケットをくるくると回しながら、不機嫌そうな表情を浮かべていた。

  3.

 卓球部はまじめな運動部だが、体育会系にありがちな厳しい上下関係というやつとは無縁だった。一年だからといって雑用をやらされることはないし、実際に台について練習もできる。

 もちろん、大会が近い上級生の練習が優先されるため、一年生に与えられた卓球台は二台と少ないのだが。

「ほう」

 僕は転がったピン球を拾いにいくついでに、一年生のほうをチラッと見て驚く。

 経験者がいる。
 それも、ものすごく上手い。

 フットワークは軽やかだし、スピンのタッチは滑らかかつ鋭い。サーブなんてフェイクが巧みで回転の方向すらわからない。

 正直、ほかの一年生では相手にならなかった。

 確か、さっき見たときはほかの生徒から離れて不機嫌そうにしていたやつだ。
 名前はたしか……

「上杉くん、上手だよね」

 ふいに、加奈ちゃんに話しかけられた。
 そうだ、上杉だ。

「去年のカデット、県大会に出たんだって」
「ああ」

 どうりで、見たことがあると思った。
 カデットとは、中学二年生以下が出場できる大会のことだ。

 もちろん僕も出場した。
 結果はベスト十六位。県大会進出まであと一勝足りなかった。

 いっぽう、上杉はおなじカデットの部で県大会進出。

 つまり、去年の時点ですでに、上杉は僕より強かったのだ。

 きっと、クラブかなんかで昔からやっているのだろう。
 現時点でどちらが上か、なんて比べるまでもない。

 比べるわけにはいかなかった。

 僕はこの卓球部で一番上手い。僅かな差だが、それでも一番勝率がいいのは僕だ。
 だから、僕が上杉に負けてしまったら、上級生としてのメンツが立たなくなるのだ。

 総体が終わって三年生が引退したあとは卓球部の中心に上杉が立つのだろうが、それまでは僕が一番でなくてはならなかった。
 なぜなら、『一年生は総体に出られない』のだから。

「どうしたの、ケイくん。なんか怖い顔してるよ?」
「ん、ああ。ちょっと考えごとしてて、」

 僕がいうと、加奈ちゃんは「ふふ」とほほ笑む。

「あたしたちも、負けてられないね」

 そう残して、加奈ちゃんは練習に戻った。

「負けてられない、か」
 僕は思わずつぶやいた。

 戦うことなんて考えたくもなかった。

  4.

「納得できません!」

 新入部員が入ってきて一ヶ月が経った。

 初心者ばかりだった一年生も、自分のラケットを購入し、おぼろげながら自分のスタイルを見つけてくる頃だった。

 そして上級生は、総体に向けて追い込みをかけている頃だった。

 そんななか、不満が溜まっていたのは上杉だった。
 練習メニューを告げる飯塚武蔵に対し、上杉が声を大にした。

「どうして俺もほかの一年とおなじメニューなんですか」
「お前も一年だろう」
「俺は初心者じゃありません。いい加減、先輩たちと打たせてくれたっていいじゃないですか!」
「上級生は総体に向けて練習しとるんだ。邪魔をするな」
「だったら俺も総体に出してください!」
「一年は出さん」

 それは、不文律のようなものだった。

 どの学校もそうだ。
 たとえ経験者でも、総体には出場させない。一年生は夏のカデット市予選、あるいは秋の新人大会から。そういう習わしだった。

 なぜなら、総体は一年間の集大成だから。そして、三年生にとっては最後の大会でもある。そこに、入学してきたばかりの一年生が土足で立ち入るのをよしとしないのだ。

 だが、一年生にとってはそんなこと関係ない。

「どうして! 俺は先輩たちより……ケイ先輩より強い自身があります!」
「そういう話をしとるんじゃないっ! それがこの部のルールだ! 嫌なら部活をやめろ!」
「……っ。すみま……した」

 しぶしぶ、といった形で、上杉は引きさがった。

 このひと悶着をきっかけに、上杉は完全に孤立した。

 そもそも、真剣に卓球がしたい上杉と、ただ楽しみたいほかの一年はソリがあわなかった。
 そのうえ、「先輩より強い」発言で上級生の反感をかってしまったのだ。

「ねえ、ケイくん。どう思う?」

 部活の終わった帰り道、加奈ちゃんが自転車を押しながら、僕に問いかけた。

「どう思うって?」
「上杉くんのこと。あれから、部の雰囲気も悪くなっちゃったし」

 加奈ちゃんが眉を八の字にする。

 たしかに、今の雰囲気はよくない。みんなギスギスしている。
 だけど、

「僕は、上杉のいうことも正しいと思うんだ」
「え?」

 意外そうに、加奈ちゃんが僕を見る。

「昔はよかった、なんていうと老害みたいだけどさ。なんていうか、ちょっと違うんだよ。今年の一年は。部活っていうより、仲良しサークルみたいな。勝っても負けても笑ってるし、ミスしたって反省しない。もちろん、そういう部活もありだと思うんだけど、それは僕の卓球部とは違う。真剣さが足りないっていうか、たぶん、上杉がほかの一年に感じてる不満もそういうことなんだと思う。卓球って、一人じゃできないからさ」

 真剣に練習する相手がいない。だから、上級生と打ちたい。
 その気持ちは痛いほど伝わってきた。

「たぶん、タケゾーも僕たちに遠慮してるんだと思う。本当は上杉の実力を認めて上級生と一緒に練習させたほうがいいってことぐらい、タケゾーだってわかってるさ。でも、そうしてしまうと嫌でも優劣がわかってしまう。そうしたら、僕たち三年のメンツが潰れちゃうんじゃないかって、心配してるんだよきっと」

 三年には二年以上のあいだ、部活を続けてきたという自負がある。
 にもかかわらず、入ったばかりの一年生に負けてしまえば、その努力すら否定してしまいかねない。

 最後の大会を前に、そんな屈辱を味あわせたくないのだろう。

「ケイくんは、どうしたい?」

 加奈ちゃんは僕の目をじっと見つめる。
 僕は……

「僕は、よくわからないかな。戦ってみたい気もするし、でも、僕が負けちゃったらほかの三年はいやな思いをするだろうし」
「じゃあ、勝てばいいんだよ」
「そんな、簡単に……」
「じゃあね、また明日!」
「え」

 気がつくと、僕の家の前についていた。
 しかし……

「最後の加奈ちゃんの笑顔。変なこと考えてなけりゃいいんだけど」

  5.

 考えていた。

「賭けを、しよう」

 加奈ちゃんが上杉に話しかけた。

 顧問の飯塚武蔵は教職員会議により不在。
 突然の加奈ちゃんの行動に、部内はざわついた。

「賭け、ですか?」
「あたし、このままじゃいけないと思うの。だから、はっきりさせようと思って」

 そう前置きすると、加奈ちゃんはビシっと僕に指をさし、

「今から、ケイくんと五セットの試合をしてもらいます!」

 はい?
 寝耳に水である。
 とばっちりだ。

 呆然とする僕をよそに、加奈ちゃんと上杉は話を進める。

「俺が勝ったらなにかいいことあるんですか?」
「そうだなー、上杉くんがケイくんに勝てるくらい強いんだったら、三年生と一緒に練習したほうがいいと思うの。お互いにとってね」
「顧問を説得してくれると?」
「うん」
「やりましょう」
「負けたときのこと、きいておかなくていいの?」
「必要ないでしょ?」

 上杉は不敵に笑う。

「おい、ケイ! そんな勝負ぜったいすんな! する必要ねーからな!」

 土井が僕に詰め寄る。

「逃げるんですか? いいですよ、不戦敗でも」
「なーにが不戦敗だ! そんな勝負、俺たちは認めてねーんだよ! 加奈さんもなに考えてるんだ!」
「む」

 土井に怒鳴られて、加奈ちゃんはほほを膨らませる。リスみたいで可愛い、なんて場違いな感想を僕は抱いた。

「じゃあ、総体までこの変な空気のまま続けるの? ぎくしゃくしたまま引退するの!?」
「だから、それは上杉が悪いんであって、」
「やろう、上杉」

 僕はいった。
 土井が信じられないとばかりに口をぽかんと開ける。

「なにいってんだ、三年がわざわざ一年なんかと打ってやる必要ねーだろ?」
「いいじゃん」
「は、」
「僕が打ちたいんだ」

 僕は床からピン球を拾い、ラケットにななめの角度でぶつける。ピン球は回転しながら真上に跳ねる。落下点にてのひらを添えると手相の上をきゅるきゅるとピン球が暴れ、やがてとまった。

「打とう、上杉」

「……はい」
 上杉が、睨むような眼で僕を見た。

「僕が勝ったら、総体まで僕の奴隷になってもらう」
 僕も上杉を見据えた。

  6.

 試合の前に、まずは軽くラリーをする。

 これは体をほぐす準備体操的なものだが、それだけでなく相手の打球感などに慣らしておくという意味あいもある。時間はだいたい二、三分ぐらいだが、とくに決まりがあるわけでもない。どちらかが「ラスト」と声をかけるまでやるのが基本で、短ければ一分くらいで終わることもある。まあ、なんとなくの雰囲気だ。空気を読まずにはやく声をかけすぎると、「いや、もうちょっと打ちましょう」といわれて気まずくなることもあるので注意。

 部内試合ではラリーを省略することもおおいが、今回ははじめての相手ということもあり、念いりにおこなう。

 ラリーが終わると、ラケット交換だ。
 これは、相手のラケットやラバーを確認するためのものだ。

 卓球は道具によって球質がまったく変わる。
 だから、試合前のラケット交換は重要だ。最低でも相手のラバーの種類ぐらいは把握しておかないと勝負にならない。

 僕のラケットは日本式ペンで、ラバーはスポンジが薄めの表ソフト。日本式ペンは裏面を使えないのでバックサイドの処理が難しいが、繊細な感覚は優れている(と僕は思っている)。そして表ソフトは相手の回転の影響を受けにくく、角度打ちで強打することができる攻撃的なラバー。しかし、その分こちらも回転をかけにくいというデメリットもある。

 一方の上杉のラケットはシェイクハンド。ラバーはどちらもハイテンション系の裏ソフト。スポンジは厚めだ。ハイテンションラバーはバランスの良い裏ソフトのなかでも威力に優れ、人気が高い。

 ラケットの交換が終わり、じゃんけんでサーブ権を決めると、いよいよ試合が始まる。

「よし」

 僕はちいさく呟き、左手の上にピン球をのせる。そして、まっすぐにトスすると、ラケットを巻きこむように素早く押しだし、素早く引きもどしながら右にずらす。軽いフェイクもまじえた横回転サービスだ。

「しっ!」

 上杉がするどく息をはきながら、フォアにまわり込む。そして、大振りながらシャープなスイングでこすりあげると、

「なっ!」
 逆を突かれた。

 上杉のパワードライブが、フォアで構えていた僕のバックサイドを貫いたのだ。

「……回転が足りなかったか」
 僕はつぶやく。

 僕の場合、横回転サーブは相手の返球ミスを誘うためではなく、相手のリターンを誘導するために使っている。
 相手の返球は回転の影響を受けるので、回転方向に球が曲がりやすくなるのだ。

 だから、僕はラケットを引く際にピン球に反時計回転を加え、上杉の返球が僕のフォアサイドに返ってくるようにしたのだが……上杉はその回転を読んだうえで僕のバックに返球したのだ。

「……く」

 それからは一方的だった。

 僕のサーブは完璧に返され、逆に上杉のサーブはろくに返せず、仮に返せたとしても三球目攻撃の餌食になるだけだった。

 第一セット3‐11。第二セット6‐11。

 そうして迎えた第三セット。これを取られたら僕の負けだ。

「なにやってんだよ、ケイ~っ!」
 土井が恨めしそうに僕を見る。

 そんなこといったって、仕方ないじゃないか。
 上杉が強すぎるのが悪いんだ。
 これなら、今年は県どころか。もっと上にだっていけるんじゃないか。

「ああ、そうか……」

 だから、『やめろ』と土井はいったのか。
 なのに、僕は戦ってしまったのか。

 これではっきりしてしまった。
 三年生は上杉よりも……、一年生よりも弱い。

「早くサーブ打ってくださいよ、ケイ先輩」
 上杉がにやけた表情でいう。

「ぐぬぬ……」
 土井が悔しそうに唸る。

 僕があっさりと上杉に追い詰められたせいで、三年生はなまいきな下級生をたしなめるだけの威厳を失ってしまっていた。

 僕のせいだ。

 僕が上杉と試合をしてしまったから。
 僕が上杉よりも弱かったから。

 周りの目が冷たい。
 卓球部の恥さらしだ。

 きっと、加奈ちゃんだって僕のことを。

 僕は周囲の部員のなかから、加奈ちゃんを探した。

「……なんで、」
 僕の口から声が漏れた。

 加奈ちゃんは僕を見つめていた。

 僕の勝利を微塵も疑わないような表情で。まっすぐに僕を信じて。ただ見守るように。

 加奈ちゃんは僕の視線に気づくと、力強く頷く。

「なんでだよ」

 とっくに諦めていたのに。
 もう諦めてしまいたかったのに。

 これじゃあ最後まで足掻かなくちゃいけないじゃないか。

 どんなに苦しくても。どんなにみっともなくても。

「やってやる」

 僕は小さく、しかしはっきりと。つぶやく。

 第三セット、僕のサーブだ。
 上、右、左、下。どんなにフェイントをかけても、僕の中途半端な回転じゃあ、上杉は崩せない。

「まだ、あれがある」

 実戦で試すのは初めて。

 スピンをかけるのが苦手でフェイントもあまりうまくない僕が、密かに練習していた最終兵器。

 ピン球をトスし、ラケットの後ろ側にあたるようにして思い切り振り切る。
 一見なんの変哲もない下回転。

 短くはいった僕のサーブを上杉はツッツキで返そうとするが、

「あっ!」

 その返球は高めに浮き、
 僕はそれを全力でスマッシュする。

 ナックルサーブ。つまり、無回転サーブ。

 回転がきかないなら、回転をかけないという発想。

 回転がものをいう卓球という競技において、ナックルはわかっていれば簡単に返されてしまう。
 だが、ナックルサーブの利点は、それを見破るのがとても難しいということだ。

 フォームは通常の下回転とまったくおなじ。ただ、ピン球をあてるラケットの位置が違うだけ。

 ラケットの後ろ側にピン球をあてることで、ボールに面が接触する時間が短くなり、スピンがかかりづらくなる。その結果、無回転のサーブを放てるのだ。

 無回転と下回転のギャップ。これによって、回転量の少ない僕のサーブでも、相手は対応が難しくなる。
 だが……、

「くっ」

 続けざまにナックルサーブを放とうとするが、ピン球はラケットの端っこにあたり僕の手前で小さくバウンドする。サーブミスだ。

 僕はナックルサーブをまだ完全に習得することができていなかった。ナックルを放つのにはラケットの後方にピン球をヒットさせる正確な感覚が必要になる。すこしでもタイミングが狂えば致命的なミスとなる。

 テニスと違って卓球にはセカンドサービスがない。サーブミスはそのまま失点となってしまうのだ。

 僕はピン球を拾い、上杉に渡す。卓球のサーブ権は基本的に二球ごとに交代する。だから、次は上杉のサーブだ。

「く……!」

 上杉のサーブは相変わらず凄まじかった。間違いなくうちの卓球部で一番だろう。あっけなく連取され、1‐3。再びサーブ権は僕に移る。

 さて、どうしようか。

 先ほど僕はナックルサーブを失敗した。練習での成功率はおよそ七十パーセント。試合ならもうすこし下がるだろう。

 これ以上、点差を広げられるのはマズい。
 だから、安全に行くならほぼ確実な下回転だ。だが、そんなこと上杉だって予想しているはず。
 下回転を待ち構えているだろう。

 なら、ここはナックルだ。
 リスクを取ってでも、ここは攻めるべきだ。

 トスをあげ、サーブを。

「しま……っ!」

 フォアサイドに球が浮いてしまった。これだと、下回転だろうが無回転だろうが関係なく強打されてしまう。

 僕は腕を伸ばす。
 がむしゃらに。あてっずぽうに。無茶苦茶に。
 とにかく必死でラケットを伸ばした先に、ピン球があった。

 すぱん、と気持ちいい音がして、上杉のスマッシュを僕はリターンした。
 球は上杉のバックミドルに深く突き刺さり、上杉はそれに反応できなかった。

 それはマグレだった。偶然だった。奇跡だった。

 だけど、僕の得点だった。まぎれもなく僕の得点だった。絶対的に僕の得点だった。

「おおしっ!」
 思わず、叫ぶ。

 からだ中に溜まった熱を堪え切れなかった。堪える必要もないと思った。とにかく叫びたい気分だった。

「おおし、おおし、おおおおおしっ!」

 己を鼓舞するように、相手を威圧するように、僕は何度も声を張り上げる。

 一年相手に、年下相手に本気になるなんて馬鹿げているかもしれない。でも、僕はどうしても上杉に勝ちたかった。理由は自分でもよくわからない。

 ただ一つ確実なのは、この気持ちが「卓球部のため」だとか「三年生のプライドのため」だとかいう立派なものではなく、もっと自己中心的な理由だということだ。

 とにかく、『僕』が『上杉』に勝ちたかったのだ。
 それ以外の何もかも、一切合切、邪魔だった。

「ふしゅー」

 僕は体内の熱を冷ますように深呼吸しながら、まっすぐに上杉を見つめる。

 僕の視界には、上杉と、卓球台と、ピン球しかなかった。

 しずかな聴覚のなかで、シューズの底が体育館の床に擦れる音がした。
 すこし、汗のにおいがする。

 のぼせるような熱気の中で、思考だけは冷静だった。

 上杉はおそらく、下回転か無回転かのどちらかだと思い込んでいるはずだ。

「サッ」

 途中までは下回転サーブと同様のフォームで。しかし、インパクトは擦るのではなく弾く。

 高速ロングナックル。

 それは、卓球を始めたばかりの初心者でもコツさえつかめば簡単に習得できるような、ごく単純なサーブ。
 ただ打点を低くして、思い切りピン球を叩くだけ。

 それだけで、低い弾道で深く抉りこむように貫く。

 もちろん、連発はできない。無回転で、さらにロングサーブだということは、相手に悟られたら簡単に強打されるということだ。

 だから、不意をうつときだけ。だが、うまく嵌れば効果は絶大だ。

 そして、効果は絶大だった。

 遅い回転系サーブがくるとばかり思っていた上杉は、僕の高速サーブに反応できなかった。とっさにラケットをバックに構えるが、指にあたって床に転げる。

 3‐3。

 とりあえず追いついた。
 だが、ここからが勝負だ。

 これから上杉のサーブ。せめて上杉のサーブから一点でも得点できなければ、サービスで全部得点したとしても、デュースにすら持ち込めないまま僕は負けてしまう。

 だから、リターンでなんとかしないといけない。

 策がない訳ではない。だが、あまりにも乱暴。一年相手にそんな手を使うかと笑われるかもしれない。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 上杉は僕より強い。そんなことはいくらでも認めてやる。
 でも、いや、だからこそ。

 僕は勝ちたい。なにがなんでも勝ちたい。絶対に勝つ。

 上杉のサーブ。おそらく斜めに回転がかかっている。見ただけでわかる、えげつない回転量。
 僕はそれを。

 ぱちん、と激しい音がする。
 ピン球が卓球台を飛び越す。

 強打。

 僕は上杉のサーブを強打して、それは台を越えてアウトになった。

 3‐4。

 関係ない。
 まず一発、決める。
 そうしないと活路は開けない。

 上杉のサーブ。たぶん斜めの回転。よくわからない。

 ぱちん、

 僕の返球は上杉のフォアサイドに強烈に斬りこむ。

 上杉は返せなかった。

 リターンをとにかく強打。僕はそれ以外考えないことにした。

 回転の影響を殺しやすいという表ラバーの利点を生かし、サーブがすこしでも甘く入ったらリターンエースをとられるという恐怖を与える。

 イチかバチかのゴリ押し戦法。とても先輩が後輩に対して行うとは思えない不格好な力技。

 だが。

「おおしっ! おおしっ!」

 4‐4。

 同点。道は拓けた。

 それから、僕は必死で、死にもの狂いで戦った。
 吠えまくって、喉がガラガラになった。そんなことどうでもいいぐらい、全力で戦った。

 たぶん、これが僕の本気だ。
 今まで出し切れなかった、本当の僕の実力が、今の僕だ。

 気づいたら、11‐9。一セット奪還。

 また気づいたら、13‐11。二セット連取。

 上杉は焦りからかイージーミスを頻発。勢いは僕にあった。

 下回転を軸に、無回転、横回転、高速サーブを使い分けてゲームの主導権を握り、リターンはとにかく無理やり強打して相手のペースにのまれない。

 そうして、フルセットで迎えたマッチポイント。

 10‐9。

 あと一点で、僕の勝ち。だが、上杉も最後まで譲らない。

 お互いに大声で己を鼓舞しあい、しかし、不思議なことにとても静かに感じられた。

 上杉が高く、高く。ピン球をトスする。
 ゆっくり、ゆっくり、ピン球が落ちる。

 スローモーションに、しかしとてつもなく素早く、上杉がサーブを放つ。

 僕は今日はじめて、上杉のサーブが完全に見えた。
 やや斜めにはいった上回転のアップサーブ。

 いける、と僕は思った。

 強打した瞬間、ラケットを通してピン球の跳ねる感触が伝わってきた。僕のスマッシュは相手のフォアミドルに突き刺さり、そこには上杉が構えていた。上杉の返球は鋭く僕のバックを突く。だが、そんなことはわかり切っていた。僕はペンラケットを深く構え、そのままバックにはじき返す。上杉は素早く後ろに下がりながら、鋭いパワードライブで僕のミドルを攻める。僕は回り込んで上杉のフォアに強打、上杉は飛びつくように返球し、ループ状のドライブが激しく墜落する。

 僕にはそのとき、上杉の小さな目の動きまで見えていた。フォアかバックか。PKを守るゴールキーパーのように球を見極めようとしている。僕は第三の答えを打ち込んだ。

 ミドル。上杉の正面。

 上杉は最初フォアだと思ったのかラケットを構えたあと、とっさにバックに構えなおした。しかし、ピン球が貫いたのはそれよりややフォア側だった。上杉はあわててラケットをスライドさせるが、間に合わない。

 静寂の中、ピン球が体育館の床を転がる。

 ああ。

 僕の勝ちだ。

 僕はガッツポーズしようとして、腕に力が入らなかった。

 肉体的な疲労と、精神的な消耗と、そしてなにより成し遂げた後の達成感。

 やった、と僕は心の中でつぶやいた。

 やった、やった、やった、

 何度もつぶやいた。

 不意に背中になにかが勢いよくぶつかってきた。

「おいケイなんだよスゲーじゃねーかい!」

 音が聞こえた。土井だ。
 土井が僕に後ろから乱暴に肩を組んできた。

 気づくと、周りが歓声でうるさかった。
 周りを見渡して、なんだかチカチカまぶしくてよくわからなかった。

 だけどふと、視線が止まった。
 加奈ちゃんだけは、くっきりと見えた。

「ケイくん、おめでとう」

 加奈ちゃんの唇が動いた。

「かっこよかったよ」

 その笑顔が見たかったから、あんなにも勝ちたかったのだと、いまさらながら僕は思った。

  7.

「さて、賭けの履行をしようか」

 ひとしきり勝利の余韻にひたったあと、僕は上杉にいった。

 上杉は小さくため息をついた後、

「はいはい。奴隷でしたよね。雑用ですか、パシリですか。それとも宿題でも手伝いましょうか」
「僕と練習してくれ」
「はいはい。……はい?」
「だから、僕と練習するんだ」

 上杉は目をぱちくりさせ、

「それじゃあ、俺が望んだ通りじゃないですか」
「僕が望んだことでもある」
「……え」
「でも、一年生より自分のほうが弱いと実感するのが怖かった。僕たちの二年間がまるまる無駄だったみたいで。でも、そんな心配はもうない。だって、僕のほうが強いんだから」

 僕は笑ってみせた。
 上杉は口をもごもごさせた後、小さく笑うと、唇をへの字にまげて嫌味ったらしくいった。

「あんな無茶苦茶な勝ち方しといてよくそんなしたり顔できますね」
「うるさいな、勝ちは勝ちだ!」
「それと、先輩たちは俺に負けたら二年が無駄になるとかいってましたけど、俺なんて卓球歴五年ですから。寧ろ、たった二年で俺を一瞬でも追い越せたことを自慢に思ったほうがいいですよ」
「なにを、生意気な」

 僕の抗議も無視して、上杉はまくし立てる。

「だいたい先輩はフェイントが下手すぎるんです。角度打ちは上手いけどツッツキは浮きまくりですし、表使うならもっと低く鋭く打たないとダメです。フットワークも無茶苦茶ですし、あんなんじゃトーナメントは体力持ちませんよ。基本はこうやってスムーズに三歩動で!」

 上杉がすばやく左右に動いてみせる。

「三歩動はなあ、なんか試合になるとうまくできないんだよね」
「練習が足りないんですよ! 運動神経の細胞の奥深くまでしっかり刷り込ませて、無意識でもできるようにしなくちゃ! あとそれと、」

 まだあるのか。
 いい加減うんざりしていると、

「ナックルサーブのコツ、教えてください。俺、どうも苦手で」

 上杉が恥ずかしそうに、ちょこんと頭を下げた。

「ああ、いいよ! どんどん教えてやる! まず大事なのはタイミングで……」

 僕は珍しく、先輩風を吹かせたくなった。
 あんまりこういうのはタイプじゃないんだけど。たまにはいいだろ、なんて自分で自分にいい訳しながら。
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