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08.6月23日のペリドット
内緒のプレゼント
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小一時間ほど経って目が覚めた。だいぶ身体が温まった。よし、これでもう大丈夫。
サイドテーブルにはコップに入った水と水差し、皿いっぱいのクッキー、そして、おにぎりが二個。良かった。お腹空いてたんだった。トモに教えてもらった食前のお祈りをする。
"Bless, O Father, Thy gifts to our use and us to Thy service; for Christ’s sake. Amen."
神様、日々の糧を感謝します。
それから、リャオさんを正気に戻してくれてありがとう。
いただきます! リャオさんのおにぎりは格別、うまい。来てよかった。
食べ終えた頃、彼が、彼女が部屋を覗きに来た。
「さっきはごめんね。今日は送ります。4時にテレワークあがるから、休んでて」
午後4時。あたしたちはリビングルームで向かい合わせに座った。
「ごめんなさい!」
リャオさんはすぐに椅子から立ち上がって床に土下座した。いや、そこまでしてもらわなくても。あたしは立ち上がってリャオさんのそばに回る。
「椅子に座って下さい」
「いや、これは犯罪だから。大切な人に刃物を向けた、簡単に片付けちゃいけない」
「でも、とりあえず、座ろうよ」
リャオさんは渋々椅子に座り直した。しばらく沈黙の後、口を開いた。
「でも、サーコは傷ついているよね?」
確かに、怖かった。リャオさんを友人とは思えなくなったかもしれない。
「そうだ」
リャオさんは両耳に両手をやってイヤリングを外すと、右手のてのひらに転がしてあたしに見せた。
ペリドットの十八金ノンホールイヤリング。リャオさんは八月生まれでペリドットは誕生石だ。石はとても小さくて、光らなかったらわからないくらい。
「これ、サーコにあげる」
「……いいの?」
リャオさんは頷いて、あたしの右手にイヤリングを転がし移した。
「私が東京で働いてた頃、初月給で買った物です。サーコがこれをいつも身につけてくれたら、私はそれを見るたびに、自分がしたことの重大さを思い知ることになる」
あたしはすぐに身につけた。リャオさんが手鏡を持ってきた。耳を写してみる。
「よく似合ってる」
「ありがとう」
あたしたちは立ち上がって握手を交わした。
あとでペリドットの石言葉が「平和」だと聞きました。慰霊の日にふさわしい石だと思った。
リャオさんは奥武山のアパートの駐車スペースに停めると、あたしを玄関まで連れて行った。
「今日はきちんとさつきさんに会って、謝罪します」
そこまでしなくていいのに、と思ったが、彼の意思は堅かった。あけみさんは出迎えたママににこやかに挨拶をし、いつものように揚げ春巻などを手渡した。
「今日はお嬢様を傷つけるような事をしてしまって。本当に申し訳なくって。すみませんでした」
玄関でぺこりと頭をさげるあけみさんに、ママは戸惑っていた。
「きっと、うちの麻子が無礼なことをしでかしたんですよね。いつも毎朝お弁当をいただいて、感謝しています」
「麻子さんは私の妹みたいなものです。どうか、今後も作らせて下さい」
リャオさんは再び頭を下げて、帰って行った。
翌日のお弁当は、一面になにやら敷き詰められていた。
「すごいサーコ、これ、ウナギじゃない?」
ナルミたちがあたしのお弁当箱を覗いて歓声をあげている。
「えー、ウナギ! いいなー、お金持ち!」
リャオさん、あのあと、わざわざウナギ買いに行ったんですか? 土用の丑の日はかなり先だよ?
でも、確かに美味しかったので全部食べた。ごちそうさま。
帰りに牧志の事務所へ寄る。ウナギのお礼を伝える。リャオさんがケタケタ笑う。
「サーコ、あれは、アナゴです」
アナゴって、何?
「ええ? サーコ、アナゴ知らないの?」
「聞いたことはあります。マスオさんの同僚のお名前」
リャオさんは頭を抱えている。
「あの、本当に、食べたことないの? マジで? 回転寿司とかよくあるけど?」
うーん、最近、お寿司は縁遠いですね。パパとママが離婚してから一回も食べてないよ。
「よし、わかった。明日の夜、寿司食べに行こう。トモにラインしとく」
翌日。ママにはあけみさんの家に寄って夜遅くなる件を伝えて学校へ登校した。六校時を終えてそのまま牧志の事務所へ。
トモが来ていた。みんなで寿司食べに行くと聞き二つ返事で承諾したらしい。そりゃそうだ。
「バイクなのでアルコールが飲めないのが残念です」
うーむ。飲める人ってそう考えてしまうのだろうか。
あたしはリャオさんにドレッサーを借りて、いただいたペリドットのイヤリングをする。トモが気づくかなーとしばらく見てましたが、やっぱり気づかないようです。高校の制服にはすぐ目が行くけど、イヤリングをチェックしないんだ。男性ってこれだから。
回転寿司屋に到着しトモがトイレに立った時、トモがイヤリングに全く気付いてない件をリャオさんに報告する。
「気づいてないので、水曜の件はトモに黙っておきます」
「ありがたい! だって、あの人に言ったら回し蹴り必至だから」
「なるほど。じゃあ、今後リャオさんが似たような事したらトモにティミョパンデトルリョチャギしてもらいますね」
「ええっ! それは勘弁して!」
あたしは寿司をつつきながらクスクス笑った。ちょうどトモが帰ってきた。
「何笑っているんですか?」
いや、別に。それよりほら、リャオさん見てごらん。
「うわっ、ちょっとこのエビ、わさび入れすぎ! くーっ」
鼻をつまんでツラそうにしているリャオさんを横目に、あたし達は寿司にパクついた。きっとすごい出費だったはずだ。リャオさん、本日はごちそうさまでした!
サイドテーブルにはコップに入った水と水差し、皿いっぱいのクッキー、そして、おにぎりが二個。良かった。お腹空いてたんだった。トモに教えてもらった食前のお祈りをする。
"Bless, O Father, Thy gifts to our use and us to Thy service; for Christ’s sake. Amen."
神様、日々の糧を感謝します。
それから、リャオさんを正気に戻してくれてありがとう。
いただきます! リャオさんのおにぎりは格別、うまい。来てよかった。
食べ終えた頃、彼が、彼女が部屋を覗きに来た。
「さっきはごめんね。今日は送ります。4時にテレワークあがるから、休んでて」
午後4時。あたしたちはリビングルームで向かい合わせに座った。
「ごめんなさい!」
リャオさんはすぐに椅子から立ち上がって床に土下座した。いや、そこまでしてもらわなくても。あたしは立ち上がってリャオさんのそばに回る。
「椅子に座って下さい」
「いや、これは犯罪だから。大切な人に刃物を向けた、簡単に片付けちゃいけない」
「でも、とりあえず、座ろうよ」
リャオさんは渋々椅子に座り直した。しばらく沈黙の後、口を開いた。
「でも、サーコは傷ついているよね?」
確かに、怖かった。リャオさんを友人とは思えなくなったかもしれない。
「そうだ」
リャオさんは両耳に両手をやってイヤリングを外すと、右手のてのひらに転がしてあたしに見せた。
ペリドットの十八金ノンホールイヤリング。リャオさんは八月生まれでペリドットは誕生石だ。石はとても小さくて、光らなかったらわからないくらい。
「これ、サーコにあげる」
「……いいの?」
リャオさんは頷いて、あたしの右手にイヤリングを転がし移した。
「私が東京で働いてた頃、初月給で買った物です。サーコがこれをいつも身につけてくれたら、私はそれを見るたびに、自分がしたことの重大さを思い知ることになる」
あたしはすぐに身につけた。リャオさんが手鏡を持ってきた。耳を写してみる。
「よく似合ってる」
「ありがとう」
あたしたちは立ち上がって握手を交わした。
あとでペリドットの石言葉が「平和」だと聞きました。慰霊の日にふさわしい石だと思った。
リャオさんは奥武山のアパートの駐車スペースに停めると、あたしを玄関まで連れて行った。
「今日はきちんとさつきさんに会って、謝罪します」
そこまでしなくていいのに、と思ったが、彼の意思は堅かった。あけみさんは出迎えたママににこやかに挨拶をし、いつものように揚げ春巻などを手渡した。
「今日はお嬢様を傷つけるような事をしてしまって。本当に申し訳なくって。すみませんでした」
玄関でぺこりと頭をさげるあけみさんに、ママは戸惑っていた。
「きっと、うちの麻子が無礼なことをしでかしたんですよね。いつも毎朝お弁当をいただいて、感謝しています」
「麻子さんは私の妹みたいなものです。どうか、今後も作らせて下さい」
リャオさんは再び頭を下げて、帰って行った。
翌日のお弁当は、一面になにやら敷き詰められていた。
「すごいサーコ、これ、ウナギじゃない?」
ナルミたちがあたしのお弁当箱を覗いて歓声をあげている。
「えー、ウナギ! いいなー、お金持ち!」
リャオさん、あのあと、わざわざウナギ買いに行ったんですか? 土用の丑の日はかなり先だよ?
でも、確かに美味しかったので全部食べた。ごちそうさま。
帰りに牧志の事務所へ寄る。ウナギのお礼を伝える。リャオさんがケタケタ笑う。
「サーコ、あれは、アナゴです」
アナゴって、何?
「ええ? サーコ、アナゴ知らないの?」
「聞いたことはあります。マスオさんの同僚のお名前」
リャオさんは頭を抱えている。
「あの、本当に、食べたことないの? マジで? 回転寿司とかよくあるけど?」
うーん、最近、お寿司は縁遠いですね。パパとママが離婚してから一回も食べてないよ。
「よし、わかった。明日の夜、寿司食べに行こう。トモにラインしとく」
翌日。ママにはあけみさんの家に寄って夜遅くなる件を伝えて学校へ登校した。六校時を終えてそのまま牧志の事務所へ。
トモが来ていた。みんなで寿司食べに行くと聞き二つ返事で承諾したらしい。そりゃそうだ。
「バイクなのでアルコールが飲めないのが残念です」
うーむ。飲める人ってそう考えてしまうのだろうか。
あたしはリャオさんにドレッサーを借りて、いただいたペリドットのイヤリングをする。トモが気づくかなーとしばらく見てましたが、やっぱり気づかないようです。高校の制服にはすぐ目が行くけど、イヤリングをチェックしないんだ。男性ってこれだから。
回転寿司屋に到着しトモがトイレに立った時、トモがイヤリングに全く気付いてない件をリャオさんに報告する。
「気づいてないので、水曜の件はトモに黙っておきます」
「ありがたい! だって、あの人に言ったら回し蹴り必至だから」
「なるほど。じゃあ、今後リャオさんが似たような事したらトモにティミョパンデトルリョチャギしてもらいますね」
「ええっ! それは勘弁して!」
あたしは寿司をつつきながらクスクス笑った。ちょうどトモが帰ってきた。
「何笑っているんですか?」
いや、別に。それよりほら、リャオさん見てごらん。
「うわっ、ちょっとこのエビ、わさび入れすぎ! くーっ」
鼻をつまんでツラそうにしているリャオさんを横目に、あたし達は寿司にパクついた。きっとすごい出費だったはずだ。リャオさん、本日はごちそうさまでした!
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