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10.恋するダミー
ジング氏、リャオに宣戦布告する
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今回はリャオ=あきお君のモノローグです。
夕刻、帰りかけたときのこと。ピアノの音色がする。ショパンのノクターン変ホ長調Op9-2。
会社の階段を上ってホールを覗き込んだ。暗がりに蛍光灯が一つ二つだけ点灯し、誰かがピアノを弾いている。
「……トモ?」
4分の曲だから、私が声を掛けたとき道着姿のままの彼は弾き終えていた。トモは軽く鍵盤をタオルで拭き、立ち上がった。
「ピアノ、弾けるんだ?」
「まあね。ハイスクールまでやってましたから。それより、リャオ」
彼はピアノから離れた。
「話がある」
私は視線をトモから外した。トモは構わず話しかける。
「リャオ、君はサーコにキスした。あれは、演技じゃないね?」
私は黙っていた。トモがこちらへ近づいてくる。彼は突き刺すような目線で私に言い放った。
“I have been worried about your relationship recently.”
日本語学校時代からそうだった。トモは日本語がうまく思いつかないときは英語で話すし、私も時折英語で答えていた。でも、できることなら、今回はこの男とは言い争いたくない。私は口を開いた。
“ She is more like a sister to me.”
“Don't say that! It's obvious you're not telling the truth.”
見え透いた嘘、とまで言われ、私は観念した。トモは問い詰める。
“Give it to me straight! You’re telling me that you don't have feelings for Asako? Which one is it?”
私は目を閉じ、答えた。
“Okay. Then it’s a yes. I do have feelings.”
トモが息をのんだのがわかった。しばらく静寂があって、彼は私に告げた。
“This won’t end well.”
“Tomo,”
私は彼に向き直った。
“Have you ever told her about your military service? ”
彼の動きが止まった。
そりゃそうだろう。今の質問は彼にとって急所のはずだ。すべての若い韓国人男性には兵役の義務がある、そのことをトモが知らないはずはなかった。
私は会話を日本語に戻した。
「サーコには、きちんと説明したほうがいいと思うよ、できるだけ早く」
彼は何か言いたそうだったが、私は足早にホールを後にした。
夕刻、帰りかけたときのこと。ピアノの音色がする。ショパンのノクターン変ホ長調Op9-2。
会社の階段を上ってホールを覗き込んだ。暗がりに蛍光灯が一つ二つだけ点灯し、誰かがピアノを弾いている。
「……トモ?」
4分の曲だから、私が声を掛けたとき道着姿のままの彼は弾き終えていた。トモは軽く鍵盤をタオルで拭き、立ち上がった。
「ピアノ、弾けるんだ?」
「まあね。ハイスクールまでやってましたから。それより、リャオ」
彼はピアノから離れた。
「話がある」
私は視線をトモから外した。トモは構わず話しかける。
「リャオ、君はサーコにキスした。あれは、演技じゃないね?」
私は黙っていた。トモがこちらへ近づいてくる。彼は突き刺すような目線で私に言い放った。
“I have been worried about your relationship recently.”
日本語学校時代からそうだった。トモは日本語がうまく思いつかないときは英語で話すし、私も時折英語で答えていた。でも、できることなら、今回はこの男とは言い争いたくない。私は口を開いた。
“ She is more like a sister to me.”
“Don't say that! It's obvious you're not telling the truth.”
見え透いた嘘、とまで言われ、私は観念した。トモは問い詰める。
“Give it to me straight! You’re telling me that you don't have feelings for Asako? Which one is it?”
私は目を閉じ、答えた。
“Okay. Then it’s a yes. I do have feelings.”
トモが息をのんだのがわかった。しばらく静寂があって、彼は私に告げた。
“This won’t end well.”
“Tomo,”
私は彼に向き直った。
“Have you ever told her about your military service? ”
彼の動きが止まった。
そりゃそうだろう。今の質問は彼にとって急所のはずだ。すべての若い韓国人男性には兵役の義務がある、そのことをトモが知らないはずはなかった。
私は会話を日本語に戻した。
「サーコには、きちんと説明したほうがいいと思うよ、できるだけ早く」
彼は何か言いたそうだったが、私は足早にホールを後にした。
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