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13.社交ダンスと強盗と

初笑いと初詣

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サーコ高校2年生正月のエピソード。彼女のモノローグです。

今年の初笑いは元旦の朝、起きた。
出来心でトモの本名 김진구キム・ジング を検索してみたんです、何が出てくるかなって。たとえばSNSやっている方なら本人のプロフィールとか、そうで無くても同じ名前の人がヒットするじゃないですか。
トモの場合、まず俳優のジングさんがヒットした。いろんな映画にご出演ですから、わかりやすい事例ですね。
意外だったのは『ドラえもん』の「のび太」がヒットしたこと。あちらではジングというんですって! 朝から爆笑させていただきました。
で、トモにラインしたんですよ。ちょうど教会の元旦礼拝に出席して帰り際だったようです。彼、既に知っていたらしく、のび太のスタンプ3つくらいよこしたあと、こんな返事がついていた。

HAPPY NEW YEAR!新年おめでとう! It's OK. I Like Nobitaいいよ、のび太好きだしI like naps, too昼寝も好きだから.”

たしかにトモはお昼寝大好き人間ですね。マイペースなところも似ているかな?

ところで、もうひとつ、とんでもなヒットがありまして。なんと明治神宮ですよ。神宮をハングルで진구ジングと表記するんだって。クリスチャンに明治神宮はキツすぎる。
リャオさんにもリンクつけてしっかりラインしといた。ご実家から事務所へ戻ったところのようで、彼、いや、彼女にとっても初笑いだったみたい。
――正月早々、最高なネタに感謝です。今晩早速いじってあげよう。ふふふ!」
はい、今晩は3名で初詣の予定です。トモはあまり乗り気でない。彼にとって初詣は教会での元旦礼拝であり、日本の神社なんてのは偶像崇拝の最たるものなんです。こないだのラインではこんな返事でしたよ。
――サーコがどうしても、というなら、付き合います。ただし、私は波上宮入口で二人を待ってます」
あーあ、そんなこと言ってても「神宮」と同じ発音ってことで絶対にリャオさんからいじられるはず。かわいそうに。

リャオさんの提案で牧志の事務所に車とバイクを置き、旭橋駅から波上宮まで歩く。ちょっと寒い。
あたし、今回はあまりおしゃれでなく、普通に紺のニットとコーデュロイのズボン、耳にリャオさんからもらったペリドットのイヤリングしてます。リャオさんとトモはあたしを挟み込むようにして歩く。二人ともあたしの安全に気を配ってくれているのです。感謝。
「リャオさんは波上宮、来たことある?」
「三回目くらいかな。取引先の結婚式、そこの会館でやってた」
確かにそこは有名どころですね。じゃあ、“あけみさん”姿で来るのは初めてなんだ?
「そうね。こんなところをコート羽織って歩くとは思わなかった」
フェイクファーのハンドバックを揺らしてリャオさんが答える。パンプスとおそろいだ。今日のリャオさんはピンクのトップコートに明るめチェックなグレーのアンサンブル。そして、あたしが誕生日にプレゼントしたラピスラズリのイヤリング。リャオさん背丈があるから、何着ても様になる。いいなあ。あたしも、もう少し背が高くなりたい。
「サーコくらいのがちょうどいいよ」
リャオさんが答える。トモはずっと押し黙ったまま。そんなに偶像崇拝っていけないことなんだろうか。

波上宮に来た。トモが鳥居の前で止まる。
「お先にどうぞ。ここで待ってます」
「えー、ジング君、行かないの? ここに君の名前があるのに?」
リャオさんの意地悪な問いかけにトモはぷいと横を向いた。本当に嫌らしい。
「じゃ、後でね」
いじるのを止めたリャオさんとあたしは階段を登った。よく冷えた手水を使い、参道へ。昼間の混雑はどこへやら、人はまばらだ。三十秒もしないうちに本殿と賽銭箱の前に出た。
お賽銭投げます。あたしは今年、百五円です。
こちら二拝二拍手一拝だそうです。説明文あって良かった。願い事、うーん、いっぱいあるけど。ひたすら並べたてる。

ママとあたしが健康に過ごせますように。
トモが兵役へ行っても危険な目に遭わず無事に過ごせますように。
高校三年生になりますが学校の勉強で困りませんように。
変な病気が流行ったりせず春休みと夏休みが楽しめますように。

「ずいぶんいろいろ祈るのね?」
リャオさんが隣であきれてる。あ、そうだ。一つ忘れていた。

リャオさんにいい人が現れますように。

「……なにそれ」
あれ、祈っちゃいけませんでしたっけ?
「いや、せっかくサーコが祈ってくれるから、ありがたく思っとく。じゃ、私は今年はちょっと、弾もうかな」
リャオさんが小銭入れからなんと五百円玉出してチャリーンと投げ入れた。でも彼の願い事は中国語なので聞き取れません。
「リャオさん、何て言ったの?」
「知りたいなら中国語を勉強して下さい」
あー! それ、ずるい!

二人でおみくじを引きます。ひとつ百円です。お、二人とも小吉です。こちらのおみくじは4ヵ国語。二人とも、待ち人はいるかもしれないようなそうでないような、あいまいな記述でした。おみくじなんて、そんなもの。

あたしたちはゆっくり歩いてトモの所へ戻ってきた。出店を探索します。例年、波上宮の初詣は十万人以上の人出だそうですが、感染対策とかで屋台が一つ一つ離れて建つようになったんだね。それでも人は多めかな。
「すごい、シャーピン売ってる!」
リャオさんが飛びついて買って、みんなで分けた。うーん、餃子なのか、おやきなのか、微妙なものです。リャオさん自身、一口食べて言った。
「自分で作った方がうまいわ。よし、今度、リベンジするぞ!」
トモも屋台で韓国風ホットドッグなるものを見つけて買っちゃった。何これ?
「日本のアメリカンドッグの中身をチーズにして、衣をポテトにして、砂糖まぶしてケチャップかけて、それからえーっと」
食べてみた。すごい味だ。ごめん、何とコメントしたらいいのかわからない。
「うわ、これ、ココナッツ入っているよ」
「ココナッツ?」
リャオさんの言葉にトモは絶句する。彼、ココナッツちょっと苦手なのです。今年は正月から名前でからかわれ、苦手なココナッツに当たり、そのうえ徴兵されるのね。おお、なんてかわいそうなジング君!

結局、焼きもろこし買って、牧志の事務所へ戻った。みんなでリャオさんのおにぎりと焼きもろこしを食べる。
「やっぱり、おにぎり美味しいね」
あたしとトモはリャオさんをほめちぎった。リャオさんもまんざらではない様子。
「会社は4日からだから、3日のお昼にシャーピン作ったげるよ。来てね!」
そして彼は、彼女は、正月早々揚げ春巻のお土産をあたし達に持たせてくれたのでした。
「いつもいつも、ありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
あたし達は丁寧にお礼を言って事務所を後にしたのでした。
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