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18.あきお君東京へ出張する

リャオ、コサカ氏を手玉に取る~報告と次なる課題

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夕方になった。周到に用意してツー・ファー・ランド本社へ向かう。コサカの野郎が降りてきた。キョロキョロしてる。
「コサカさん」
「き、金城君?」
相手は仰天してる。まあ、そうだろうね。私、あけみだもん。うふふ。
「今晩はお招きいただき、ありがとうございます!」
丁寧に挨拶してコサカの手を握る。硬直する相手に構わず、ひっぱる。
「私、行きたいお店があるんです。ご一緒してもらえます?」
まさか振り解いたりしないよね? 第一、貴社はLGBT当事者協賛企業だよね? てことは、私がこんな格好をしていても面と向かって差別はできない。まして、私の行為をアウティングするなんてもってのほかだ。そんなマネしたら支援団体にチクってあげるわよ?

私はコサカをとあるベトナム料理店へ連れ出した。
「ここ、最近流行ってるんですよ」
カップル2名を上席へ案内してもらう。うふふ。さあて、どうしてやろうか。メニューを開く。よし、目当ての品、見っけ! さっそく席に備え付けのベルを鳴らして店員を呼ぶ。
「すみませーん、カエルの唐揚げください!」
「……カ、カエル?」
「カエル、中国で流行ってるんですよ。是非お試しになって!」
私はニッコリ微笑みかける。コサカさん、あんたゲテモノは苦手だったな? きっちり調べはついてるんだよ。そうそう、あのメニューも忘れずに注文してあげよう。
「それから、この、シンガポール風カエルのお粥とオレンジジュースのセットを一つ」
「ええっ?」
そんな顔しなさんな。うまいんだからこれが。
コサカは既に青くなっている。あらま、序盤から飛ばしすぎたかしら。ゆっくり料理してあげたいのに。

さて、ご存知の読者様も多いことでしょう。ベトナムはビール天国。つまみも色々ございます。
「コサカさんはビールですか?」
押され気味な相手がうなずくのを確認してハノイビールにグラス2つ、おつまみにロンロンを。うふふ。ビール、お酌してあげるわ。
「今日はお誘いいただき、ありがとうございます。乾杯!」
はい、どんどん飲んでね。これからが本番よ。
ロンロン来ました。ぶっちゃけ、豚の内臓盛り合わせ。沖縄風に言うなら「中味」をそのまま持ってきた感覚。沖縄では腸を使いますが、こちらは胃袋です。香菜と一緒にレモンとかで食べます。
「美味しいですよ。あらどうしたのコサカさん、どんどん召し上がって!」
コサカは表情が引きつっている。どうしたの? こんなに美味しいのに!
続いて、カエルのお粥セット。お鍋に白粥、蓋付きポットに煮込まれたカエルのぶつ切りがたっぷり。
「よそってあげますね」
「いや、いいから、いいから!」
おい、まさか白粥だけ食べるつもりかい? 遠慮はいらないよ、一番美味しい太ももの部分入れたげる。チャポン。
「本当に美味しいんですよ! ほとんど鶏肉ですから!」
嘘じゃないよ。鶏肉より美味しいくらい。コサカさん、目を固くつむって食べてる。ね、美味しいでしょ? どうして顔をしかめるの?
そうしているとカエルの唐揚げも来たよ。こりゃ大分スパイシーに調理したね。水かきがよく見えるわ。コサカさん、ますます顔をしかめる。うーん、ビールによく合うし美味しいのになー。

コサカさん、青い顔で白粥とオレンジジュースをちびちびやってるよ。気の毒に。でも釈放する前にもう一押し。ベルを鳴らし店員を呼ぶ。
「すみません、メニューに、誕生日の客にプレゼントありますって書いてあるんですけど」
「はい、お誕生日を証明するものはお持ちですか?」
私は免許証を見せた。顔はもちろん、あきお君。

おい、店員さん、そこで固まっちゃだめだよ。東京はオリンピックも開催した国際都市なのに、LGBTの客をこんな調子で扱い続けるつもりかい?
コサカさんもコサカさんだ、自分がLGBTの客を連れ込んだ相手だと思われるのがそんなに嫌ですか? あー、修行が足りないな。もう少し鍛えてあげようか?

「少々、お待ちくださいね」
店員さんが下がった。コサカさんがどもりながら話す。
「……金城さん、今日、誕生日だったの?」
「あら、申し上げてなかったですか?」
そうよ。8月18日生まれ。獅子座なの。乙女座だったらよかったのに。
「お待たせしました。本日のデザートが一品サービスになります」
チュオイ・チン(揚げバナナ)だ。揚げバナナって書いたけど、バナナに米粉つけて揚げた天ぷらです。
「悪くないですよ」
コサカさんにも薦める。実は、すこし酸味がある。コサカさん、また顔をしかめたね。バナナと言わない方が良かったかもしれないが、今回はいいことにする。

以上です。コサカさん、本日はごちそうさまでした! 沖縄土産に本場のフォーを買い込みながらコサカさんに話しかける。
「またこの時期に呼んでいただけます?」
「いや、あの、ちょっと」
では、このあたりで釈放してあげましょう。気をつけてお帰りくださいませ。投げキッスしたげる。チュッ!
そしたらコサカさん、店先で転んだ。あーあ、気をつけてって言ったのに。

私はどうも電車が苦手です。他人と肩が触れるのがダメなの。ちょうど空いているバスがあったのでホテル近くまで乗ります。明日は沖縄便早いから、さっさと寝るわ。

部屋に戻り、化粧を落としてラインをチェックする。お、サーコだ。久しぶりだなあ。大きなケーキのスタンプ。
――お誕生日おめでとうございます。事務所行ったらお留守でしたので」
誕生日、覚えててくれてるんだね。嬉しいな。返事をする。
――どうもありがとう。東京出張中です。本当は大陸へ里帰り墓参したかったんですけどね」
――東京ですか。こんな暑い時期にお疲れ様。いつお戻りですか?」
そうだな、フォーも買ったし、東京土産もさつきさんに渡したいから、誘ってみよう。
――明日、金曜日には戻ります。サーコの休みはいつですか? たまには事務所で一緒にごはんでも」
――うーん、そうですね。もうじき夏休みも終わっちゃうから、その前に顔出しとこうかな。火曜日あたり、いかがでしょう?」
火曜日ね。じゃ、午後からスケージュル開けとくよ。

最終日。“あきお君”で飛行機に乗る。沖縄に着いてすぐ西町の会社に行き、社員のみなさんへお土産配る。喜んでくれてる。本当に行列並んで買ってくるとは思ってなかったらしい。
社長室へ出向いて父に通訳の件を報告する。かなり呆気にとられた様子。
「そりゃ、ずいぶん大変だったね?」
「大変なんてもんじゃないですよ! あ、そうそう。あちらの中国企業さんから招聘依頼が来ても、承知しちゃいけません。必ず、他社さんへ振ってください」
ここまで一気に話をして、私は社長室のソファに座り込んだ。ヘトヘトだ。

「それでね、あきお君」
父が私の向かいに座る。
「来月末あたり、麻子さんを招待してお食事でもどうかと思ってるんですよ」

……来たか。
私はきちんと座り直した。父が何を言いたいのかは、だいたい予想がつく。一応、はぐらかしてみます。
「彼女、ここのところバイトで忙しいようですよ?」
「それなら10月初めあたりでもいいですよ。父の日にも花束をいただいたし、お顔も見てみたい」
父はサーコを気に入っているようだ。それはそれで、いいことなんだけど。
「高校ご卒業してすぐ結婚は、やっぱり早いのかね」
あー、やっぱりその話ですか!
「あの、麻子さん、進学を希望していらっしゃるようですから。なんでしたら本人から直接お聞きになってください」
「そう。じゃ、麻子さんの予定早く教えてね」
内心ドギマギしていることを悟られないよう、返事してしまった。

……どうしよう。後でサーコと話を詰めなくては。
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