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26.韓国の空の下で
運搬役のバリヤ
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リャオ=あきお君=“あけみさん”のモノローグに切り替わります。ローリングストーンズの曲をご紹介しています。
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彼女が隣の部屋にゆっくりと吸い込まれていった。
私は右頬に手のひらを当ててたたずむ。
お礼を言わなくちゃいけない。でも、悲しみの方が大きい。
外は雨模様のようだ。
冷蔵庫からもう一缶、ビールを取り出す。ひたすら飲む。
わかってる。サーコは明日、トモのものになる。最初からわかってて、韓国へ連れて来た。
彼女にとって私は運搬役でしかない。確かにキスをひとつ、くれたけど。
ついさっきまで一緒にご飯食べてたじゃない?
ついさっきまで一緒に歩いていたじゃない?
昨日は、君はこのベッドに寝てたんだよ? なぜかはよくわからないけどさ。
トモが宣教師で、本来は婚前交渉なんか絶対に応じることのない人物だとしても、今回は違う。私にはわかる。彼は彼女を断らない、断れない。それくらい、精神的に追い詰められている。
軍隊は人間を破壊する。どんな美辞麗句もその事実の前には力を失う。彼はこれ以上の破壊には耐えられない。でも彼女を抱けば、少しは慰めになる。少しは希望が見える。
彼には無事、兵役を終えて戻ってきて欲しい。だから。
私は缶ビールを口に運ぶ。
物心ついたときから、私の周りには目に見えないバリヤが張り巡らされている。
ちょうど感染症騒ぎの時、感染予防と称してあちこちに張られたビニールシートのように、私と人々との間には目に見えないカーテンが覆い被さっている。
幼い頃は、みんなそうだと思ってた。人々はビニールシート越しにいる存在なんだと。
だけど、大人になるにつれて、どうやら普通一般の人々はそうじゃないらしいと気がついた。
なぜ自分にだけバリヤがあるのだろう?
周囲の人々はバリヤに気つかない。見えないんだからしょうがない。
周囲の人々はバリヤの向こう側で抱き合って笑いながら、人生は楽しいって言ってる。
自分はこれが‘普通’だと思っていることが、普通じゃないって言われる。
君の人生は味気ないね、どうして抱き合わないの? って。
バリヤの内側はそれなりに快適といえば快適だ。静かだし、誰にも煩わされることもない。
だけど、人々と触れる感覚ってのが、ちょっとよくわからない。
どうせわからないんだから、人を愛さずにいればそれでいいじゃん。そう思ってた。
別に人なんか愛さなくても、人生楽しい事っていくらでもあるし。誰かに迷惑かけてるわけでもないし。
でも、そのままではいられなかった。好きな人ができた。すごく動揺している自分がいる。
でも、その人はきっと、バリヤの向こう側にいる。
普通の人たちはみんな、バリヤの向こう側にいる。
なぜ自分にだけバリヤがあるのだろう?
このバリヤを取ることは出来ないのかな?
どうして女性の格好してるのかって?
似合ってるんだから着てもいいでしょ? 誰かに迷惑かけているわけでもないし。
人を愛せない、味気ないって笑われる人生なんて、‘普通’のあんたたちにはわかんないわよ。
私はストーンズの ‘Beast of Burden’ をエンドレスで掛けている。
今日だけ、つぶやいてもいいかな。今日だけ。
你是一个漂亮,漂亮,漂亮,漂亮,漂亮,漂亮的女孩。
拜託寶貝,拜託,拜託
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彼女が隣の部屋にゆっくりと吸い込まれていった。
私は右頬に手のひらを当ててたたずむ。
お礼を言わなくちゃいけない。でも、悲しみの方が大きい。
外は雨模様のようだ。
冷蔵庫からもう一缶、ビールを取り出す。ひたすら飲む。
わかってる。サーコは明日、トモのものになる。最初からわかってて、韓国へ連れて来た。
彼女にとって私は運搬役でしかない。確かにキスをひとつ、くれたけど。
ついさっきまで一緒にご飯食べてたじゃない?
ついさっきまで一緒に歩いていたじゃない?
昨日は、君はこのベッドに寝てたんだよ? なぜかはよくわからないけどさ。
トモが宣教師で、本来は婚前交渉なんか絶対に応じることのない人物だとしても、今回は違う。私にはわかる。彼は彼女を断らない、断れない。それくらい、精神的に追い詰められている。
軍隊は人間を破壊する。どんな美辞麗句もその事実の前には力を失う。彼はこれ以上の破壊には耐えられない。でも彼女を抱けば、少しは慰めになる。少しは希望が見える。
彼には無事、兵役を終えて戻ってきて欲しい。だから。
私は缶ビールを口に運ぶ。
物心ついたときから、私の周りには目に見えないバリヤが張り巡らされている。
ちょうど感染症騒ぎの時、感染予防と称してあちこちに張られたビニールシートのように、私と人々との間には目に見えないカーテンが覆い被さっている。
幼い頃は、みんなそうだと思ってた。人々はビニールシート越しにいる存在なんだと。
だけど、大人になるにつれて、どうやら普通一般の人々はそうじゃないらしいと気がついた。
なぜ自分にだけバリヤがあるのだろう?
周囲の人々はバリヤに気つかない。見えないんだからしょうがない。
周囲の人々はバリヤの向こう側で抱き合って笑いながら、人生は楽しいって言ってる。
自分はこれが‘普通’だと思っていることが、普通じゃないって言われる。
君の人生は味気ないね、どうして抱き合わないの? って。
バリヤの内側はそれなりに快適といえば快適だ。静かだし、誰にも煩わされることもない。
だけど、人々と触れる感覚ってのが、ちょっとよくわからない。
どうせわからないんだから、人を愛さずにいればそれでいいじゃん。そう思ってた。
別に人なんか愛さなくても、人生楽しい事っていくらでもあるし。誰かに迷惑かけてるわけでもないし。
でも、そのままではいられなかった。好きな人ができた。すごく動揺している自分がいる。
でも、その人はきっと、バリヤの向こう側にいる。
普通の人たちはみんな、バリヤの向こう側にいる。
なぜ自分にだけバリヤがあるのだろう?
このバリヤを取ることは出来ないのかな?
どうして女性の格好してるのかって?
似合ってるんだから着てもいいでしょ? 誰かに迷惑かけているわけでもないし。
人を愛せない、味気ないって笑われる人生なんて、‘普通’のあんたたちにはわかんないわよ。
私はストーンズの ‘Beast of Burden’ をエンドレスで掛けている。
今日だけ、つぶやいてもいいかな。今日だけ。
你是一个漂亮,漂亮,漂亮,漂亮,漂亮,漂亮的女孩。
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