サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

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Part1 My Boyhood

Chapter_02.サンシンとの出会い(2)勉、東風平(こちんだ)長助の弟子になる

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At Nishihara Town, Okinawa; 5:30PM JST December 9,1983.
At Nishihara Town, Okinawa;  12:20PM JST January 7,1984.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.

「ははは! じん心配しわーすなけ! 多恵子の友達からー、お金は取らんさ」
東風平こちんだのおじさんは快活に笑った。
「本当?」
「ああ!」
思いがけない提案はうれしかったけど、一抹の不安が残った。多恵子だ。あいつはウーマクー(わんぱく、おてんば)で、おしゃべりだ。しかも、僕と多恵子はこのころ喧嘩の真っ最中だった。

一昨日おととい、多恵子が給食当番で、みんなに給食を配っていた。
「おわんにカレー入れたから、取ってね」
「……俺、いらん」
「どうして?」
「とにかく、いらない。食べないから」
僕はぶっきらぼうに答えた。カレーを食べたくない理由なんて、言いたくもなかった。第一、話したところで馬鹿にされるのがオチだ。
「嫌いなの? そんなこと言わないで、ちょっとは、食べたら?」
多恵子が親切心から勧めているのは、よーくわかってた。でも、素直になれなかった。つい、荒々しく突っぱねてしまったのだ。
「いらねぇんだよ!」
僕の言葉に多恵子がカッとなった。あとはもう、売り言葉に買い言葉だ。僕らは二人とも大声をあげた。
「好き嫌いは良くないよ、食べなよ!」
「い、ら、な、い!」
「何で食べないの?」
「食べたくないからさ!」
「好き嫌いしちゃ、だめ!」
そう言って、多恵子は僕のライスの上にカレーをぶっかけた。周りに沈黙が走った。
「俺、絶対食わねえからな!」
僕は牛乳とパンを抱えて教室から出て行き、一人で食事をした。それ以来、僕は多恵子とずっと口を利いていないのだ。

「ははーん。さては多恵子と喧嘩どぅそーるい?」
東風平のおじさんが、にこにこしながら尋ねた。僕はなんと答えてよいのかわからなかった。
わかたん!」
突然、おじさんが膝を叩いて言い放った。
「あんしーね、うんぐとぅーしぇー、如何ちゃーやが? 水曜の夕方と日曜の昼、おじさんやーんかいーわ。うぬ時間じかのー、多恵子ー、空手とスイミングんかいぅんじょーしが。やーんかいやをぅらんさ」
「本当にいないの?」
僕はおずおずと尋ねた。
「ああ、をぅらんどー。よし、勉君、今度の日曜から始みらやー。一時半からどー。多恵子には内緒。ゐきがとぅゐきが約束やくすくやさ。むらや!」
「うん!」

これが、東風平こちんだ長助ちょうすけ師匠との、最初の出会いだった。

それから僕は、毎週二回、東風平家を訪れるようになった。師匠は、僕が来るときは必ず、食べ物や飲み物を用意して待っててくれた。東風平のおばさんも僕をとてもかわいがり、帰り際にはお菓子や弁当を作って持たせるようになった。稽古は厳しかったけど、僕は師匠と、おばさんと、サンシンが大好きで、行く度にのめりこんだ。
僕はいつも早めに東風平家へ向かい、自転車を裏庭において、多恵子が家を出るのを確かめてから東風平家の門を叩いた。そして、多恵子が帰ってくる十分前には速攻で東風平家を後にした。半年もすると、「安里屋ゆんた」とか「芭蕉布」とかが弾けるようになって、僕は自宅でもサンシンを弾くようになった。

サンシンをはじめてしばらくすると、僕はいじめられなくなった。なぜか?
サンシンのハブ皮にヒントを得た僕は、いじめっこ達のランドセルにハブの抜け殻を入れてまわったのだ。なんてったって僕は「お化け屋敷」に住んでいた。ネズミ天国はすなわちハブ天国だ。抜け殻なんて腐るほどあった。きっと、次はランドセルに本物を入れられると思ったのだろう。いじめっこ達は二度と僕に近寄らなくなった。 

一九八四年の正月。僕は、多恵子から年賀状を受け取っていた。年賀状にはこう書かれていた。

あけましておめでとうございます。去年はひどいことをしてすみませんでした。できれば、今年は勉君と仲直りしたいです。よろしくお願いします。

……女の子から先に謝られて、そのまま無視はできないでしょう?

三学期が始まったその日、始業式が終わった後、僕は帰ろうとする多恵子を呼び止めた。
「多恵子!」
「……勉」
振り返って立ち止まった多恵子に、僕はちょっとぶっきらぼうに言い放った。
いゃーからの年賀状、見た」
僕はズボンの後ろ側に必死に右手をなすりつけ、多恵子に右手を差し出した。
「これで、仲直りな」
多恵子は、うれしそうに僕の手を握った。
「うん! ありがとう!」
「じゃあ、明日な」
「ありがとー! 明日ねー!」
僕は多恵子の声を聞きながら走り去った。たわいもない喧嘩だった。でも、仲直りできて、ほっとした。だって、本当はもう給食の次の日には、すごく、すごーく仲直りしたかったのだから。でも、意地っ張りな僕は、仲直りのタイミングを計りかねていたのだった。

この先、僕らは何度も喧嘩しては仲直りを繰り返すことになる。だけど、僕はひそかに思っている。あのカレー事件があったからこそ、多恵子とはずっと仲良しでいられるのかもしれないって。ずっと、ずーっと。……そう、多恵子との腐れ縁 (?)は、この後もひたすら続くのだった。というわけで、次章へTo be continued.
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