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Part2 Rasidensy Days of the Southern Hospital
Chapter_08.謹慎事件(4)おかげさまで周囲にバレバレです
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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; 7:11PM JST November 17, 1999.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
“Dr. Uema.”
(上間先生)
聞き慣れた声に驚いた。マギーがにっこり笑って立っている。
“Maggie? Why are you here?”
(マギー? どうしてここに?)
“I’m just stopping by. Here are his X-ray photographs.”
(たまたま寄っただけです。はい、彼のレントゲン写真)
そう言ってマギーは、少年のレントゲン写真が入った封筒を僕に差し出した。
“Ah, thank you.”
(ああ、ありがとうございます)
僕は封筒を受け取った。写真を照明にかざしてチェックする。なーんだ、全然異常ないじゃん。ただの打ち身か。
僕の側で、マギーが優しく問いかける。
“Dr. Uema?”
(上間先生)
“Huh?”
(何か?)
どうして声をかけられたのか、僕には意味がわからなかった。マギーが続けた。
“Don’t take it too hard. Accidents happen no matter how careful you are. ”
(あまり頑張りすぎないで。どんなに注意しても事故は起きるものよ)
ありがたい。僕の過ちをみごとにフォローしてくれている。心に彼女の優しさが染みるようだ。さすがは、マギー。あなたは本当にいい看護師長だよ。
僕は黙って頷いた。すると、マギーは僕の肩を優しく叩いてこう告げたのだ。
“It’s just like Taeko’s situation. She’ll be here tomorrow as usual.”
(多恵子の場合もそう。彼女、明日からは通常勤務よ)
……やった! 謹慎、解けるんだ。良かった。本当に、良かった。ほっとしたよ。
“Bye !”
(じゃあね)
マギーは明るく笑って去っていった。
“Bye !”
(じゃあ、また)
僕も軽く右手を挙げ、しばし目で見送った。
「カカズ君は戻ってきた?」
僕はナカダさんに尋ねた。
「待合に座っています」
「ここ通してもらえる?」
少年が入室して、座った。僕は淡々とレントゲンの結果を告げた。
「右肩のレントゲン結果ですけど」
ボードの照明をつけてレントゲン写真を貼りつけ、ひたすらしゃべった。
「特に異常は見られませんね。湿布薬を出しますので、それを貼ってできるだけ安静にしてください。あと、縫った太ももは一週間後に抜糸します。汚さないように気をつけて。入浴後はこの外用薬を薄く塗って、替えのテープを同じように貼ってください。そこの受付で一週間後の予約を取って帰ってね。それから、一週間たっても痛みが引かなかったり、体のほかの部分に痺れを感じたり、縫ったところがじくじくしてくるようなら、またその都度おっしゃってください」
「あの、先生」
僕はさっさと背中を向けた。ごめん。もうこれ以上、君と話したくない。
「今日はこれで結構ですよ。お大事に」
「先生、……さっきは、ごめん」
それは、こっちのセリフ。僕はそのまま机に向かいながら言った。
「もういいよ。こっちもついカッとなったから」
君と顔をあわせる意気地は持ち合わせていないよ。さっさと帰ってくれ。
「医者は大変なんだね。彼女とデートする暇すらないのかい?」
少年に気づかれないよう、僕は小さく舌打ちした。
「……まだ彼女じゃないよ。もう帰っていいぞ」
「なんで? 告白しねえの?」
どうして、そう、人の恋愛を、簡単に、結論づけようとするかな?
僕は天井を仰ぎ、吐き捨てるように言った。
「そんなことしたら、投げられちまうよ。さあ、帰った帰った」
この一言で、掘らなくもいい墓穴を掘ってしまった。
僕を投げ飛ばすなんて芸当ができる女性は、多恵子をおいて、ほかにいない……よね?
周りのスタッフ達からくすくす笑いが聞こえる。
あーあ、ナカダさんまで笑ってるよ。最悪。
「先生、がんばれよ。Good luck!」
少年はそう言い残して、会計窓口へ向かった。なにが“Good luck !”だ。おかげで、周りにバレまくりじゃねーか。
これで俺、明日からしばらく有名人だな。
誰かが壁をノックしている。
「上間先生、お疲れ様です」
振り返って僕は立ち上がった。伊東先生が壁にもたれてニコニコしている。
「お疲れ様です。昼間は、ありがとうござました」
患者さんの件と、多恵子の件のお礼を僕は口にした。
「すまねーな、呼び出して。緊急オペが立て続けに二件入っちまって。美樹先生だけじゃ対応できない代物だったから」
そうか、緊急オペが二件。携帯でなにやら言っていたのは、そのことだったのか。
緊急オペで剃り損ねて、伸びてきたヒゲが気になるのだろう。伊東先生は顎を撫でながら、いたずらっ子のような目で僕を見ている。
「多恵子ちゃんとの時間ぶっ壊して、すまなかったね」
ギクッ! 僕は硬直した。ひょっとして、さっきの大声、聞いていらしたので?
「いえ、し、仕事ですから」
僕は目線を外し、あわてて机の周りを片付け始めた。耳どころか、きっと顔中真っ赤になってるんだろうな。やってられないよ、全く。
「じゃ、これで失礼します。お疲れ様でした」
立ち去る僕に、伊東先生が笑って手を振った。
「おう、お疲れ」
駐車場へ出て、ふと思い出す。今日はしし座流星群だよな?
空を見上げると、……やっぱり曇ってた。だめじゃん。((9)へつづく)
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
“Dr. Uema.”
(上間先生)
聞き慣れた声に驚いた。マギーがにっこり笑って立っている。
“Maggie? Why are you here?”
(マギー? どうしてここに?)
“I’m just stopping by. Here are his X-ray photographs.”
(たまたま寄っただけです。はい、彼のレントゲン写真)
そう言ってマギーは、少年のレントゲン写真が入った封筒を僕に差し出した。
“Ah, thank you.”
(ああ、ありがとうございます)
僕は封筒を受け取った。写真を照明にかざしてチェックする。なーんだ、全然異常ないじゃん。ただの打ち身か。
僕の側で、マギーが優しく問いかける。
“Dr. Uema?”
(上間先生)
“Huh?”
(何か?)
どうして声をかけられたのか、僕には意味がわからなかった。マギーが続けた。
“Don’t take it too hard. Accidents happen no matter how careful you are. ”
(あまり頑張りすぎないで。どんなに注意しても事故は起きるものよ)
ありがたい。僕の過ちをみごとにフォローしてくれている。心に彼女の優しさが染みるようだ。さすがは、マギー。あなたは本当にいい看護師長だよ。
僕は黙って頷いた。すると、マギーは僕の肩を優しく叩いてこう告げたのだ。
“It’s just like Taeko’s situation. She’ll be here tomorrow as usual.”
(多恵子の場合もそう。彼女、明日からは通常勤務よ)
……やった! 謹慎、解けるんだ。良かった。本当に、良かった。ほっとしたよ。
“Bye !”
(じゃあね)
マギーは明るく笑って去っていった。
“Bye !”
(じゃあ、また)
僕も軽く右手を挙げ、しばし目で見送った。
「カカズ君は戻ってきた?」
僕はナカダさんに尋ねた。
「待合に座っています」
「ここ通してもらえる?」
少年が入室して、座った。僕は淡々とレントゲンの結果を告げた。
「右肩のレントゲン結果ですけど」
ボードの照明をつけてレントゲン写真を貼りつけ、ひたすらしゃべった。
「特に異常は見られませんね。湿布薬を出しますので、それを貼ってできるだけ安静にしてください。あと、縫った太ももは一週間後に抜糸します。汚さないように気をつけて。入浴後はこの外用薬を薄く塗って、替えのテープを同じように貼ってください。そこの受付で一週間後の予約を取って帰ってね。それから、一週間たっても痛みが引かなかったり、体のほかの部分に痺れを感じたり、縫ったところがじくじくしてくるようなら、またその都度おっしゃってください」
「あの、先生」
僕はさっさと背中を向けた。ごめん。もうこれ以上、君と話したくない。
「今日はこれで結構ですよ。お大事に」
「先生、……さっきは、ごめん」
それは、こっちのセリフ。僕はそのまま机に向かいながら言った。
「もういいよ。こっちもついカッとなったから」
君と顔をあわせる意気地は持ち合わせていないよ。さっさと帰ってくれ。
「医者は大変なんだね。彼女とデートする暇すらないのかい?」
少年に気づかれないよう、僕は小さく舌打ちした。
「……まだ彼女じゃないよ。もう帰っていいぞ」
「なんで? 告白しねえの?」
どうして、そう、人の恋愛を、簡単に、結論づけようとするかな?
僕は天井を仰ぎ、吐き捨てるように言った。
「そんなことしたら、投げられちまうよ。さあ、帰った帰った」
この一言で、掘らなくもいい墓穴を掘ってしまった。
僕を投げ飛ばすなんて芸当ができる女性は、多恵子をおいて、ほかにいない……よね?
周りのスタッフ達からくすくす笑いが聞こえる。
あーあ、ナカダさんまで笑ってるよ。最悪。
「先生、がんばれよ。Good luck!」
少年はそう言い残して、会計窓口へ向かった。なにが“Good luck !”だ。おかげで、周りにバレまくりじゃねーか。
これで俺、明日からしばらく有名人だな。
誰かが壁をノックしている。
「上間先生、お疲れ様です」
振り返って僕は立ち上がった。伊東先生が壁にもたれてニコニコしている。
「お疲れ様です。昼間は、ありがとうござました」
患者さんの件と、多恵子の件のお礼を僕は口にした。
「すまねーな、呼び出して。緊急オペが立て続けに二件入っちまって。美樹先生だけじゃ対応できない代物だったから」
そうか、緊急オペが二件。携帯でなにやら言っていたのは、そのことだったのか。
緊急オペで剃り損ねて、伸びてきたヒゲが気になるのだろう。伊東先生は顎を撫でながら、いたずらっ子のような目で僕を見ている。
「多恵子ちゃんとの時間ぶっ壊して、すまなかったね」
ギクッ! 僕は硬直した。ひょっとして、さっきの大声、聞いていらしたので?
「いえ、し、仕事ですから」
僕は目線を外し、あわてて机の周りを片付け始めた。耳どころか、きっと顔中真っ赤になってるんだろうな。やってられないよ、全く。
「じゃ、これで失礼します。お疲れ様でした」
立ち去る僕に、伊東先生が笑って手を振った。
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