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Part2 Rasidensy Days of the Southern Hospital

Chapter_09.照喜名(てるきな)の苦悩(3)勉、多恵子に協力依頼する

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At Nishihara Town, Okinawa; November 25, 1999.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.

帰り道、そのまま東風平こちんだ家へ寄った。師匠は出かけていたが、稽古場の棚に並んでいる琉球民謡のテープはその場で自由に聴いても良いことになっている。
オフの多恵子は家にいた。僕はテープを選びながら、早速、照喜名の件を伝えた。
「ふーん、照喜名てるきなさんって研修医?」
「そうそう。いい奴だよ。見てられないくらい」
「で、里香を誘えばいいんだ?」
「できそう? クリスマス前がいいんだけどさ」
「うん、聞いてみるよ。病院の見学っぽく言えばいい?」
「俺の後輩の実家が病院経営してて、すっごくいいカウンセリングの部屋があるんだ。アロマテラピーの勉強になるよって伝えて。そうそう、あと、そいつイギリスに住んでたって」
「なんか、すごい人だね」
多恵子も興味津々の様子だ。僕は猫なで声で語りかけた。
「あの、多恵子さんのオプティで行きたいんですけど、出してもらえますか? 僕の車、そろそろ車検だから」
「いいよー。ガソリン代は頂戴ね」
僕は手を合わせ多恵子を拝んだ。
御拝にふぇーでーびる」
これも策略の一つだ。女の子の、しかも親友の車で行ったほうがなにかと肩の力が抜けやすい。僕は照喜名のためにアットホームな雰囲気を用意しておきたかった。
「わかってるとおもうけど、粟国あぐにさんには照喜名の気持ちは内緒だぞ」
「もちろん、任せて! 人のキューピットは楽しいねー」

あの、お嬢さん?
いゃーぬーんちっちゅくとぅばかりびけいっし、我達わったーくとーかんげーてぃくぃらんが?
なま掛かとーるBGM、「愛の雨傘」どぅやんどー? 僕の親戚でもなんでもないけど、上間うえま昌成しょうせい作の、押しも押されぬ沖縄芝居定番恋愛劇のテーマソングだよ? わかってる?

多恵子は流れている民謡に耳を傾けて、微笑んだ。
幾回いくけーちん、くくるんかいみゆる、上等歌やっさー」

やーふんぬ(ダメだこりゃ)。
照喜名てるきなのこと、笑えないや。僕自身、多恵子にこれ以上迫れないんだし。

僕は多恵子との打ち合わせの件を照喜名にメールで伝えた。ついでに、粟国さんとどう会話を進めるのか頭の中で何度もシミュレーションをしておくように言い聞かせた。オペやBLS(一次救命処置)と一緒で、訓練を何度か積んでおけば自然と体が動くようになる。こうしてダブルデート(?)の準備は着々と進められたのだった。
というわけで、次章へTo be continued.
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