サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

文字の大きさ
50 / 152
Part2 Rasidensy Days of the Southern Hospital

Chapter_10.ずっこけダブルデート(1)多恵子、運転手になる~勉、ヤギの鳴きまねを披露する(させられる)

しおりを挟む
At Nakagusuku Village and Urasoe City, Okinawa; from 9:30AM to 10:20AM JST, December 16, 1999.
The narrator of this story is Taeko Kochinda.
多恵子さんに久々に登場していただきました。

その日は木曜日だった。あたしはいつもよりちょっとおしゃれをした。里香と一緒に選んだミッシェル・クランの白ブラウスに、黒地に細かい赤格子柄のスカートを合わせ、両耳に銀の星型のピアスをし、朝九時には愛車のオプティで家を出た。二十度は超えそうだったが、念のため薄い水色のカーディガンを用意しておいた。

まず、中城にあるサザン・ホスピタルの独身寮まで勉を迎えに行った。海に面した高台にあるので特に冬場は風が強い。白地のシャツの上から紺のブルゾンを羽織って、勉は駐車場で待っていた。オフの日、この男はいつもBOBSONのジーンズを履いている。
ゃーびらたい」
あたしは車のパワーウィンドウを開けて合図した。
「本日はよろしくおねがいします」
「今日は後ろに乗ってね。助手席は里香だから」
「はーい」
勉はおとなしく後ろに乗った。
「多恵子、上等すがいっし。今日はスカートか?」
「お出掛けするっておっしゃるものですから」
あたしはそっけなく答えた。 “今日は”って。悪かったね、いつもズボンで。
「いつも、こんなだったらいいのによ」
左頬の赤あざをぽりぽり掻きながら勉がつぶやく。頼んでも無駄です。スカートってあまり好きじゃないんだよね。第一、あたしはあんたの彼女でもなんでもないし。

外はあいにくの雨模様だ。あたしは車を走らせ中城なかぐすくICインターチェンジから高速に乗った。すぐに西原ICインターチェンジで降りて、浦添にある粟国あぐに里香の家まで行く。そして里香を乗せてそのまま首里の照喜名てるきな医院へむかうつもりだ。
「おはよう、今日はよろしくね?」
里香はなんと、ピンクのブラウスにかっちりしたグレーのスーツ姿だ。その上、パールをあしらった十八金のチョーカーまで身に着けている。いつもはバイク通勤だから彼女もパンツルックが多いのだが、おしゃれとなると里香にはとてもかなわない。もともと身長はあるし、長い黒髪だし、美人だから見栄えがする。目元なんか、アイライナーがいらないくらい、ぱっちりしているのだ。
しょうがないか。今日は里香が主役だもんね。って、彼女にはそう伝えてはいませんが。
「おはよう里香。助手席、乗って」
「なんで、助手席は上間先生じゃなくていいの?」
なんで、じゃないでしょう。何でもないんだから。
「いいの。今日は、勉は河童軍団の世話係だから」
「河童の世話って?」
「はいはい、落ちないように見張ってりゃいいんでしょ?」
勉があきらめたように調子を合わせた。あたしは車を走らせた。
「……多恵子、あんたよ、何ねこのぬいぐるみ軍団は?」
里香がすっとんきょうな声を上げている。
「だから、河童」
あたしは国道五八号線に出ると、首里向けに車線を変更しながらそう答えた。ご丁寧に勉が後ろで解説し始めた。
「これ、全部名前ついてるんだぜ。えっと、クッシャロ、マシュー、サロマ、アカン、トーヤだっけ?」
「ピンポーン、よくできましたー」
そうそう。さすが勉、よく覚えてる。っていうか、トーヤを釣ってくれたの、あんただったね?
「……なにそれ?」
「北海道の湖の名前つけてるの。今度来る子はね、シュマリナイって名前に決めたんだ」
「また俺にクレーンゲームやらせる気だな?」
そうです。さすがよくお見通しで。クリスマスプレゼント、待ってるよ。
「河童、好きなんだ」
ぽつりとつぶやく里香に勉が言った。
「こいつは、“かっぱっぱー”だから」
「かっぱっぱー?」
「中学校の英語の時間に、“Cup of coffee”って文章を寝ぼけて“かっぱっぱー”って読んで以来、こいつのあだ名は“かっぱっぱー”」
あたしは、たまらず運転しながら叫んだ。
「いいさー、“かっぱっぱー”、かわいいでしょ? あたし、溺れたことないし」
そうなんです。あたし、中学高校と水泳部だったんです。これでも女子千五百メートルの選手でした。遠泳は今でも得意だよ。
「でもお前、授業中よく寝てたよなー。俺、隣の席だったら、いつも起こす係だった」
こ、この男! いつまで中学時代の話をするつもり? よーし、反撃してやる!

「あんまり人の悪口言ったら、すぐ“白ヤギ委員長”って呼ぶよ!」
さすがに、これにはこたえたようだ。
「うわ、それは、やめてくれ! 今まで築き上げた僕のクールなイメージが」
「なーにがクールよ!」
鼻で笑っちゃいますよ。沖縄語うちなーぐち丸出しなあんたのどこがクールよ? 運転しながらあたしは続けた。
「あんた、小児科研修の時、子供の患者さん相手に、したたか(めいっぱい)鳴いてたってね? オペ室で評判だったよー」
「いや、あ、それは」
どうしたの勉? 今更焦ってもしょうがないでしょ? あたしをいじめた罰だ。それとも、里香の前ではイイカッコしようってつもりだったのかな? そうは問屋が卸すものか!
「中二の修学旅行でさ、罰ゲームあったんだよねー、つ、と、む、君?」
意地悪く明るい声であたしは畳みかけた。
「あ、あ、あ」
勉が固まっている。あたしはさらに明るめの声で促した。
「動物の鳴きまねオンパレードやったよねー」
「……で、白ヤギなの?」
助手席の里香が意外そうな顔をしている。
「色白で、ヤギの鳴きまねがうまくて、委員長だったから、“白ヤギ委員長”」
「へえ、意外だなー。結構、上間先生って茶目っ気があるんだー」
「あはは……」
里香の言葉に勉はただ苦笑いをしている。あたしは言葉を継いだ。
「茶目っ気ねー。どうせなら目も山羊ふぃーじゃーみたいにブルーだったら良かったのにね?」
すると勉が茶色の目を見開いて頬を膨らませた。
「余計なお世話だ」
あんた、そんなに本気で怒らなくったっていいじゃない。よーし、攻撃第二弾!
「じゃ、早速、鳴いてもらいましょー!」
「え、な、鳴くんですか?」
勉、声がひっくり返っているよ? あたしは攻撃の手を緩めなかった。
「まさか、鳴かないって言わないよねー? あたしがこうして里香誘って、車まで出してるのに?」
勉はあたしの話をあわてて途中でさえぎった。
「わ、わ、わかりました。鳴きます、鳴きます」
そうよ。そうこなくっちゃ! 勉は咳払いをした。
「一回だけだぞ」
そして、思いっきり深呼吸をして、叫んだ。
「ンベェーエ、エ、エ!」
あたしたち二人は大声で笑った。何度聞いても、ヤギそっくりだ。
「うまーい!」
里香が手を叩いて喜んでいる。勉が間延びした声を出した。
「ああ、これで病棟でも毎日やらされるなー。折角クールなイメージ作ってたのに」
よく言うよ。誰も最初からそう思ってないってば。ハンドルを握りなおし、あたしは明るく言った。
「上間先生、物事はあきらめが肝心ですよー」
「……がっくし」
後部座席で河童を抱いて、勉はうなだれた。 ((2)へつづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

処理中です...