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お味噌汁
3.内緒話
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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; 8:40AM JST October 4, 1999.
The narrator of this story is Taeko Kochinda.
翌日、夜勤明けのミーティングで、勉に会った。
「昨日はありがとうね。おいしかったよ」
「どういたしまして」
夜勤はちょっとハードだったけど、ほめられると素直にうれしい。疲れが吹き飛ぶものだ。
「また作ってよ。冬になったら春菊がおいしいから。あの味噌汁に卵落としたら、もう最高だよなー!」
……あんたね、もう次の話をしているの? 春菊って、まだ二ヶ月くらい先だよ?
着替えを終えて、ナースステーションに忘れ物を取りに帰ったときだ。
病棟の廊下から数人の笑い声が響いている。あたしは、壁に隠れて、聞き耳を立てた。
「だから、あれには通じないって言ったでしょ?」
勉があきれた口調でつぶやいているのが聞こえる。
「やっぱり、ダメでしたかー」
同僚ナースの津田千秋が慰めるように言った。
「上間先生、あたしたちから、それとなく、言いましょうか?」
粟国里香も心配そうに尋ねている。
何を、言うの? 誰に?
「ありがとう。でも、自分でなんとかするよ」
なぜか、勉の声が真剣味を帯びているように聞こえた。
何なんだ、一体?
廊下を曲がった先で、あたしは持っていたショルダーバッグを絡ませて、勉を捕まえた。
「うわわわ!」
慌てる勉をそのまま手繰り寄せる。
「ちょっと、何、今の?」
「多恵子、き、聞いてたの?」
あの、何を焦っていらっしゃるので?
「良くは聞き取れなかったけど、ダメって、何がよ? 味噌汁?」
「違う、違う」
勉は必死で両手をぶんぶん振った。そして、早口でまくし立てた。
「味噌汁はおいしかったよ。さっきのは中身のない話だから、気にしないで。あの、俺、伊東先生に呼ばれてるから!」
そう言うが早いか、駆け足で去っていった。
あのさー、勉。あんたが足が速いのは十分わかってるから、病棟の廊下を走らないで下さいね?
The narrator of this story is Taeko Kochinda.
翌日、夜勤明けのミーティングで、勉に会った。
「昨日はありがとうね。おいしかったよ」
「どういたしまして」
夜勤はちょっとハードだったけど、ほめられると素直にうれしい。疲れが吹き飛ぶものだ。
「また作ってよ。冬になったら春菊がおいしいから。あの味噌汁に卵落としたら、もう最高だよなー!」
……あんたね、もう次の話をしているの? 春菊って、まだ二ヶ月くらい先だよ?
着替えを終えて、ナースステーションに忘れ物を取りに帰ったときだ。
病棟の廊下から数人の笑い声が響いている。あたしは、壁に隠れて、聞き耳を立てた。
「だから、あれには通じないって言ったでしょ?」
勉があきれた口調でつぶやいているのが聞こえる。
「やっぱり、ダメでしたかー」
同僚ナースの津田千秋が慰めるように言った。
「上間先生、あたしたちから、それとなく、言いましょうか?」
粟国里香も心配そうに尋ねている。
何を、言うの? 誰に?
「ありがとう。でも、自分でなんとかするよ」
なぜか、勉の声が真剣味を帯びているように聞こえた。
何なんだ、一体?
廊下を曲がった先で、あたしは持っていたショルダーバッグを絡ませて、勉を捕まえた。
「うわわわ!」
慌てる勉をそのまま手繰り寄せる。
「ちょっと、何、今の?」
「多恵子、き、聞いてたの?」
あの、何を焦っていらっしゃるので?
「良くは聞き取れなかったけど、ダメって、何がよ? 味噌汁?」
「違う、違う」
勉は必死で両手をぶんぶん振った。そして、早口でまくし立てた。
「味噌汁はおいしかったよ。さっきのは中身のない話だから、気にしないで。あの、俺、伊東先生に呼ばれてるから!」
そう言うが早いか、駆け足で去っていった。
あのさー、勉。あんたが足が速いのは十分わかってるから、病棟の廊下を走らないで下さいね?
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