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一章

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 ケリーが違和感を感じてふと目をさますと、自分を懐に抱えるようにして、ラウルが隣で眠っていた。後頭部の髪がラウルの寝息で熱くなっている。
 びっくりして飛び起きそうになるのを渾身の精神力で耐え、ラウルを起こさないよう静かに離れようとした。
 ラウルより先に部屋に戻ってきてしまったため、うかつにも寝台に倒れ込んでそのまま眠ってしまったらしい。
 腰を抱えているラウルの腕をそうっと掴んで外そうとすると、その動きにつられてラウルの手が追いかけてきてぎゅっとシャツを掴まれた。
 一瞬ギョッとしたが、寝息は乱れていないので無意識なのだろう。

「………」

 しばらく待って、再びラウルの手の力が緩んだところを見計らい、ケリーがもう一度その手を外そうとすると、またラウルの手が追いかけてくる。何度か慎重にそんな攻防を繰り返していると、ラウルの手はとうとうケリーのシャツのお腹のあたりをぎゅっと掴んで、背中にぴったりと身体まで寄せられてしまった。
 完全に懐にすっぽりと収まってしまった感じだ。
 先ほどまでは後頭部だったラウルの寝息が、今は頭頂部で静かに繰り返されている。

「……おまえいい匂いがするな。なんの香をつけているのだ?」
「……っ!?」

 ラウルが寝息に混じってムニャムニャというので、ケリーはなるべく刺激しないようそっと小さく答えた。

「香など使っていない……」
「ふ…ん…、薬草の匂いかな……? なんか懐かしい匂いがする」
「……」

 そういうと、ラウルは再びスースーと深い眠りに落ちてしまったらしい。
 緊張でまんじりともせずに夜が明けるのを待ったが、ケリーも疲れからつい眠りに落ちてしまったらしい。
 そして明け方、今度こそ本当に由々しき違和感でパッチリ目が覚めた。

「!?」
「……ん?」

 ケリーが反射的にもがく。

「んん??」

 ラウルが自分の手が弄っている柔らかいものの正体をもっと知ろうとして、さらにケリーのシャツの中に手を潜り込ませた。

「ちょっ!」
「なんだ、おまえ女だったのか。どうりで声も高く幼く見えるはずだな」

 ラウルはまるで意に介さず、ケリーを抱えて胸を弄る手を止めない。
 ケリーは抵抗して必死にラウルの手をどかせようとしたが、気づくとくるりと仰向けにされて、いきなり唇を奪われた。

「──!?」

 遠慮なくキスを深くするラウルから必死に顔を逸らして腕を突っぱね、なんとか逃れようとするが、体格のいいラウルはケリーの抵抗をものともせずに、首筋に唇を這わせ、シャツを捲り上げて胸を遠慮なく弄ってくる。

「ちょ、い、いや!」

 あまり大きくはないがケリーの乳房はラウルの手の中で柔らかく潰され、気づいた時にはその頂にある蕾を舌で転がされていた。

「ひゃっ、あっ!」
「気持ちいいだろう?」

 胸に舌を這わせながら、そういうラウルのくぐもった声がケリーの敏感な柔らかい肌を震わせる。
 ラウルの手はすでに、ケリーのズボンに手をかけていた。
 ケリーがもがくたびに寝台がギシギシと音を立て、ラウルの手つきはますます力強く大胆になってゆく。

「もう少し大人しくしろ。やりにくいじゃないか」
「いやあ!」

 とうとうバシッと頬を叩かれて、ようやくラウルの動きが止まった。

「いてっ! なにをする?」

 心外だというようにラウルが驚いた顔でケリーを見た。

「──…っぅう」

 完全に余裕を失ったケリーは、ラウルに剥かれたシャツを必死にかき合わせながら、ポロポロと涙を零した。あまりのことに言葉も出ない。

「……なぜ泣く?」
「う…うぅ…う…」

 ケリーは必死に泣き顔を隠しながら、毛布を手繰り寄せて小さくなるものだから、さすがのラウルもケリーが本気で嫌がっていることにようやく気付いた。

「……あー、すまん……。まさか嫌がるとは思わなくて……。その、こういう村娘は案外奔放だから……」

 毛布をかぶって丸まったまま、ケリーがひっくひっくとしゃくり上げる。
 というか、先ほどの広間で、武人相手に一歩も怯まず、あまつさえナイフを持って暴れまわろうとしていたのがウソのようだ。

「さっきとは別人だな」
「それとこれとは別だ!」
「25だと言ってたろう?」
「25だから奔放だとは限らないだろ!」

 毛布の中からやっとくぐもった抗議の声がする。

「まぁそうだな。確かに。……あー、そうか、人妻なのだな」
「なんでそうなる!?」
「なんでって、人妻じゃないのか? じゃあなぜ俺を拒否する?」
「はあああ!?」

 あまりのことに、ケリーは呆れて思わず毛布から顔を出してしまった。
 そして、一体どう育ったらそんな思い上がった発想になるのだと言おうとして口を開いたまま固まった。

「───…」

 さも不思議だというようにケリーを見るラウルは、改めて美しい男だと思った。
 きりりと涼しげな目元に通った鼻筋、厚すぎも薄過ぎもしない唇は、ちょうどいい大きさで次の言葉を探している。
 そして何よりも彼は、黒い瞳と濡れ羽色の黒い髪を持つ龍王色なのだ。それが示すのは、この国の希少な王族であるということだ。彼の子を産み、その子が龍王色を持っていれば、どんな平民の娘でもたちまち王族の仲間入りなのである。子供とともに生涯王宮の奥で大切に保護され敬われる。
 ラウルは女性に群がられることはあっても、本当に拒まれたことがないのだろう。

「悪かった。あ、初めてなのだな。じゃあ、えーと、優しくするからほら……」

 そう言って、ラウルは寝台の隅っこで丸くなるケリーに腕を差し出した。

「行くわけないだろう!」
「なぜ?」
「私にだって、相手を選ぶ権利ぐらいはあるんだ!」

 ケリーはさあと腕を広げるラウルを無視して寝台を降り、長椅子に寝転がった。

「へえ、俺では役不足か……」

 ラウルはそう言って、なぜか楽しそうに笑うと、大人しくひとりで寝台に横になってしまった。どうやら力ずくで襲おうとは思わないらしい。
 そしてケリーは、毛布をかぶって長椅子で丸まった。
 もうじき朝だ。





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