カーネイジ・レコード

あばらい蘭世

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第1章 全ての始まりの記録

abyss:52 逃れられない死という絶望

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父さんの頸椎の神経回路は破壊され動きが止まったはずだった。
突然右腕が母さんに攻撃し腹に爪ナイフが突き刺さる。


「どうして…………? ごぶっ」
「夜春!!! 夜春ぁ!!!!!」
あと少しでキスができたのに、刺さったナイフのせいでそれが叶わない。
いまナイフを抜けば一気に失血してショック死してしまう。

「くそ、しくじったのじゃ! あの怪我はまずい…………」
ローグの声に相当な焦りがこもっている。
すぐに病院に連れて行ければ助かる可能性はある。しかしこの場所から連れ出すまでの距離とレグルスが邪魔をしてくる物理的・時間的余裕がない。
つまり、助からない絶望という未来しかない。

「ああああああああああああああああああああああっ!!!!」
父さんの悲痛な叫び声が響き渡る。

「頚椎の回路がやられても腕の予備電源があります」
レグルスが解説したが誰の耳にも入っていなかった。

「おれはなんてことを! クソ! 考えろ!!!」
「あなた……… せっかく 会えたんだ から笑いま しょう………」
夜春よるは! 俺が必ず助けるから大丈夫だ!!!! やっと会えたのに! こんな結末あんまりだぁ!!!」
父さんは顔しか動かせないが涙をボロボロこぼし痛いほど気持ちが伝わる。

「─── 泣かないで………最後に会え ただけ で幸せ………」
2人は助からない絶望的な状況を理解していた。
「夜春っ! 君だけを、君だけを独りで逝かせない。君のいない人生なんて俺には─── 辛すぎる」
母さんに残された時間が残りわずかということ。
父さんは涙で充血した目を俺に向けた。

「ハルキ、父親らしいことを何もしてやれずごめんな。俺は愛したひとと一緒に逝く」
「ハルキ─── 母さんあなたを 産んで幸せ よ。私たちの ことは背 負わなくて いいからあな たの ─── 自由 に生きて」
母さんの顔から血の気が引いている。爪は刺さったままなので出血はまだそんなにないが臓器が複数箇所損傷しているため激痛なはずだ。

「父さん! 母さん!!! やめろ! 俺が、俺がなんとかするから! なんとかするから諦めるな!!!」
俺の腕の中で呼吸が弱くなっていくティナを抱えながら叫んだ。

叫ばずにはいられなかった。そうしないと自分がどうしようもできない無力さを認めて絶望してしまうから。
どうにかすると叫んだが俺の叫びが中身のないものでしかないことは誰にもわかっていた。

わかっていたからこそ、誰も責めず誰も責められず諦めてしまっていた。

本当に何もできないのか!?

この場から動けず3人が死ぬのを黙って見ることしかできないのか!?
考えても考えても打開策が見つからない! この場を切り抜ける術が見つけられない!

あああああああああ!!!!
心が折れそうだ!!!

俺の中にも絶望感が押し寄せてきた。
どうすることもできない現実を突きつけられ本当に心が折れそうだ!!!!
心を折ってしまえばもう考えなくて済む、なんて考え始めた。

(ーーーーーえーーーーわーーー!ー)

また頭の中で声が聞こえた。

(ーーあsーーーえーーーーわーー我ーーーーDーー無ーーーーーーっーーーーーー)

今度は長く聞こえる。
いまそんな声なんてどうでもいい!

やっと2人が13年ぶりに再会できたのにこんな終わりがあってたまるか!
俺だって父さんにようやく逢えてもっと話がしたいよ!
空白の13年間を埋めるようにたくさん話がしたいさ!
なんなんだチクショウ! 世の中、理不尽すぎる!
理不尽に平気で誰かの幸せを、命を奪っていく!

「チクショウ! チクショウチクショウ!!!」

叫びながら向けようのない怒りで両腕を床に何度も叩きつける。
思い切り叩きつけ腕の骨にヒビが入っていく。
「うああああああああああああっ!!!!」
どうしよう、どうしよう、どうしよう!

ローグならなんとかしてくれるかも、と一縷の望みにすがった。
「ローグどうにかならないのか!? あんた助けに来たんだろ!!!父さんと母さんを助けてくれよ!」
ローグの口から出た言葉は真逆の言葉だった。
「すまん、いま動かせば死を早めるだけじゃ。あのまま2人で少しでも長く会話をさせてやることしかできない」
ローグの言葉を聞いて、俺の中に2人が助からない。失う。という現実で殴られるように突きつけられた。
俺の気力もそこできれた。

「お前はぁ………何しに─── きたんだ…ぁ……っ…!」
俺は期待を裏切られたことでローグに向けて生まれた憎しみで睨みつけていた。
「わしは─── 肝心な時に役立たずじゃ…………すまん」
ローグを責めても問題は解決しないのは分かっている。
だけど、誰かにこの気持ちをぶつけないと自分が正気でいられなかった。


(ーーーーーfさkfjえーーーーファsfわーーーーーさファファフェーDーーーーーmんvzmんwーーーsふぁーーーーーーー)

頭の中で父さんと母さんをどうやって助けるか、を考えることが一つなくなったらさっきの声が余計に聞こえるようになった。

─── もう、なんでもいい。なんて言っていようがどうでもいい。

(ーーーーーえーーーーわーーーーーーDーーーーー⌘ーーーあわわーーーぼぇ~~~ーー)

ええい!うるさい!何を言っているんだ!?
それともショックで俺の頭がおかしくなったのか!?
現実逃避し始めたのか?

(いい加減─────聞こ──────おーい─────)

日本語!?
急に何を言っているか聞こえ始める。

(我を─────かめ)

あ? なんだって?!

(我を───その手に───掴め!)

どこのだれを? 何を掴めって?
主語がない、お前は会話が出来ないのか?
俺が俺の中で勝手に会話しているんだ。

幻聴だ。

もうどうでもいいんだよ!!!

(おーーーい!もしもーーーし、ここにいるぞー!きこえんのかー)

より鮮明にはっきり聞こえた。
虚無になりそうだった俺の中に遠慮なくズカズカと土足で話しかけてくる意味不明な声の鬱陶しさに…………

俺は─── 
ブチギレた。


「ごちゃ ごちゃ と 頭の中でうるせえんだよ!!!! 
 用があるなら テメェから来やがれ!!!!!!!!」

俺は無意識で右手を前に突き出し声に出して叫んでいた。

ゴバァァン!!!

室内の奥にあった三角錐の岩の塊が爆砕した。
岩の上部が剥き出しになり長い棒が見える。
棒が空中にシュッと浮かび上がり空中で水平になり

パシュン!

真っすぐ飛んで俺の突き出した右手の右手で握りしめていた。
握りしめた棒だと思ったものは、シルバーの刀身とゴールドの装飾が施された太くて長いロングソードだった。

この剣を握った瞬間から俺の頭の中に失われていた過去の記憶が洪水のように一気に流れ込んできた。
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