カーネイジ・レコード

あばらい蘭世

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第1章 全ての始まりの記録

abyss:53 父の記憶①

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助からない母さんと一緒に逝くことを選んだ父さん。
ティナも重傷を負って俺の腕の中で呼吸が弱くなっている。
誰もが絶望の中にいる中、俺の手には一本の剣が握られた。


飛んできた剣を掴んだ瞬間から俺の頭の中に失っていた赤ん坊から幼少の記憶が洪水のように大量に流れ込んできた。
記憶の断片が映像として頭に次々と映り出される。
映像のトンネルの中をすごいスピードで飛んでいるような視覚効果のようだ。
俺自身が何をされているか分からないまま次々と記憶が流れ込んでくる。


最初に見た記憶は、赤ん坊のベッドの上で両手足をバタバタしている自分だった。天井には吊るされたモビールのおもちゃがある。ひょこっと前髪をおろしたかっこよすぎる男前が俺の顔を覗き込む。
俺のことを名前で何度も呼び、指であやしてくれる。これが父さんの若いころか。
赤ん坊の俺は鍛えられった大きな父さんの腕に抱きかかえられあやされていた。
俺が泣きわめいているときに父さんがいつも笑いながらのぞき込んで抱っこや高い高いをしてくれている。
その後ろでまだ10代の若い母さんがお鍋から黒い煙を出しながらニコニコと父さんと一緒に笑っていた。

次に見た映像は、母さんと手を繋ぎながら外を散歩している映像だった。
外の景色から見えるのはアメリカのどこかの都市だった。
アメリカで生活していた記憶なかったけどこんな感じだったんだな。
そこへ母さんの悲鳴が響き渡る。
「そいつをよこせぇ!」
「何するの! 子供を返しなさい!」
俺は見知らぬアメリカ男に抱きかかえられ、もう一人の男が母さんと揉みくちゃに格闘していた。
母から引き離されて怖くて泣きながら母を見ると男に銃で撃たれ倒れても俺の名前を叫んでいる姿だった。
攫った男たちはマフィアだった。
(俺の女性が傷つけられると殺意が沸き上がる原点はこれかもしれない)


次の映像は薄暗いレンガ倉庫の部屋の中。
攫われたあとの続きのようだ。
俺は周りに母さんと父さんがいないことに不安を感じ、探しにとことこ歩き始めた。
「とぉー、かぁー どこぉ?」
閉じ込められている部屋のドアが開いていたため脱走していた。
廃墟のような工場の大きな建物にいた。建物が入り組んでいて子供のかくれんぼにはうってつけだった。
怖い人たちに見つからないように隠れながら歩いていたけどお腹が空いたから誰にも見つからなさそうな箱の中に隠れてお昼寝した。
どれくらい寝ていたかわからなけど外が騒がしくなって目が覚めた。
あちこちから銃声や爆発音と悲鳴が上がっている。
あちこちからバンバンと銃声が鳴っていて怖くてジッとしていたら父さんと誰かの会話がした。
銃声が鳴り、そのあと母さんの声が聞こえた。
母さんと父さんの俺を探す声に箱の蓋をどかした。
2人が走ってくる足音がして見上げると頭から血を流した父さんと包帯を巻いた母さんが笑って抱き上げてくれた。
「とぉーーー! かぁーーーー!だっこぉーーー!」
俺は手足をバタバタさせて大喜びしている。

「ああハルキ、無事でよかった!怖くなかった?」
「もう大丈夫だ、全部終わったから家に帰ろう、よしよし」
と二人が交互に抱っこしてくれた。
足元にはマフィアの男たちが大勢血だらけで倒れていた。


別の映像に切り替わる。
大人の事情があったのかわからないが、アメリカで住んでいたアパートの荷造りを終えて飛行機に乗った。
飛行機は初めてだったから興奮した。
到着した国は日本だった。こうして俺は日本に住むことになった。
新しい家になっても父さんと母さんは仲が良くて俺をたくさん愛していることが伝わる。
(俺はどうしてこんなに大切なことをいままで忘れていたんだ)
両親に愛されている温かい気持ちに包まれながらハルキは次々と流れてくる父の記憶を思い出していった。


次に見た映像は黒髪の可愛い女子大生の記憶だった。
この顔─── 遥姉ちゃんだ。俺が小学生に上がる前くらいだ。
公園で遊んでいたら一緒に遊んでくれるようになり彼女の家に遊びに行ったりしてよく遊んでもらっていた。
「ハルくーん! もうまた変なところ触ってぇ! えっち!」
と遥姉ちゃんのおっぱいをポンポンしている俺の映像から始まる。
(俺って小さいときこんなだったのか?)
ちょっと恥ずかしんだけど。
(他にもこんな映像をたくさん見せられるのか? 子供の頃なら忘れているのをこの年齢で客観的に観るのはエグイ)

「ハルくんのお母さんすごい美人さんだよねー、ハルくんもお母さんに似ているから超美少年なるよ!」
と頬をぷにぷに触りながら遥はニコニコしていた。
「ああん! めっちゃかわいい! ハァハァハァ!」
時々、遥の顔は高揚しヨダレを垂らしただらしない口元になっていた。
(ちょっとまて!これ今でいうというやつじゃないか?!)
子供の時は何もわからなけど、いまこうして見ていると違う発見があるもんだな。

次の映像は俺を抱っこしている父さんの映像に変わった。
思いつめたような神妙な顔をして俺の頭をナデナデしてくれている。
父さんの心情なんてお構いなしに俺はキャッキャ手をバタバタさせている。
俺は父さんのことがめちゃくちゃ好きだったんだ。
「ハルキ、父さんこれからちょっと昔の友達を止めてくる。必ず戻ってくるからおりこうさんで母さんと待っているんだぞ。俺に何かあったら母さんを守ってくれ」
俺をギュッとしばらく抱きしめ
「ハルキ、愛しているぞ」

これが最後に聞いた言葉だった。父さんの出掛ける後姿を最後に見た時だった。
(父さん、昔の友達に会いに行くって言ったのか。俺が記憶をなくしていなければ誰だったか早くに分かって阿久津に辿り着けたかもしれない。もっと早く家族が再会出来たかもしれないと考えると悔しい)

記憶がなかったとはいえこれほど両親から愛情深く育てられていたことにただただ感謝しかなかった。

映像は次の場面に切り替わった。
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