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第1章 全ての始まりの記録
abyss:54 父の記憶②
しおりを挟む遥の家に遊びに行った時の映像に切り替わった。
家の庭で2人で遊んでいる。
「今日もうちのおにーちゃん帰ってこないの。歴史が変わる研究しているとかなんとか言ってたけど3週間は帰ってこなさすぎでしょ! お風呂ちゃんと入っているのかなー」
とぶつくさ言う遥。
遥姉ちゃんには兄がいるらしいが、俺は遥の家に遊びに行くようになってから一度も会ったことがない。
遥姉ちゃんと会ったのはただの偶然だろうが、いまの話で阿久津と遥が兄弟だったということが繋がった。繋がったところで何も変えられないんだけど。
そしてついにあの日、あの出来事が起きた記憶が流れた。
俺から見て遥の背後にある隣の街から天に昇る眩しい光の柱と閃光が襲ってきた。
閃光で目が眩み何が起きているのか分からなくなる。
ズズズズ ドン!!!!
最初に襲ってきたのは地響きととてつもない衝撃波だった。
爆風と衝撃波で周りの建物が粉々に壊れていく景色がスローモーションのように映っていた。
「きゃーーーーー!!!! ハルくーーーーーん!!!!!」
俺に覆いかぶさるように遥にキツく抱きしめられる。
抱きしめられたことは偶然で俺の前にいた遥が吹き飛ばされながら俺を抱きしめただけだった。
抱きかかえられながらゴロゴロゴロゴロ!と転がり身体の方向、平行感覚が麻痺する。
激しい爆音と衝撃波と熱風が吹き荒れ通り過ぎていく。
耳は何も聞こえず、全身は激痛で意識を失った。
どれくらい時間が経ったか意識を取り戻したものの周りがとても静かだった。うっすらと目に入る光景は全壊、半壊した建物や倒れた電柱、木々、人が倒れて蠢いている姿だった。
世界は激しく動いているが俺の耳には何も聞こえてこない。
鼓膜が破れたのか、一時的に聞こえなくなっただけなのか分からず、なぜ世界から音が消えたのか不思議に思った。
自分を抱きしめたまま蹲っている遥の身体を押し出し起こす。
ぎゅーーと、上半身を起こすと遥と思われる顔が目の前にあった。最初それが遥と分からなかったのは充血し血の涙を流しながら目が少し飛び出していたからだ。目を見開いたまま瞬きを一切していない。
「ぉ ねぇ・・・・ちゃん・・・・?」
遥は表情一つ動かさない。
自分を抱えたまま脱力して全く動かなくなってしまった遥。遥の腕の中から抜け出したくても抜け出す力がなかった。
ずっと目を見開いたままの遥に見つめられ不気味という恐怖が沸き上がっていた。
「わああああああっんん!!!!」
自分を見つめる遥の顔から逃げたくてパニックを起こし、激痛を忘れるほど無我夢中で這い出す。
這い出した後遥の姿を見てゾッとした。
遥は蹲ったままの姿勢で後頭部、背中に木材やガラス、石の破片が大量に突き刺さって絶命していた。
(強烈なトラウマの原点はこれだ)
遥の身体が肉壁になったおかげで死ななかったが、全部は防ぎきれず一緒に転がっていた時の破片がハルキにも重傷を負わせていた。
頭部、胸、お腹、腕、背中と全身に傷ができ出血している。
出血と怪我のせいで遥の横で動けずに倒れていると、遠くから微かに母さんの声が聞こえた。
微かに聞こえるがすぐ傍まで駆け寄ってきていた。
母さんは俺の怪我をみて取り乱しかけていた。
その横には見覚えのある老人、少し若いローグがいた。
「これはいかん、急いで治療せねば!」
「ローグおねがい!!! この子を助けて!!!」
「かなり重傷じゃな、今から救助を待っても間に合わん! 運んでいる間に出血多量で失血死してしまう!」
「ハルキ! お母さんがついているから大丈夫よ!!!」
俺の怪我がどうしようも出来ないほど重症なのはわかっていても母さんは必死に励ましていた。
「将暉が潜入している怪しい研究のことを聞きつけて慌てて駆けつけてみればこの惨状。彼は誰と何をしていたんじゃ」
ローグはボソボソと呟いていた。
「夜春、このままだと助からん! 一か八かの方法があるがやっていいか!?」
「──なんでもいいからお願い助けて!助かるならやって!!!」
ローグは頷くと、帯に包んでいた長物を取り出した。
俺が握った剣と少し形状は違うがおそらく同じ剣だろう。
剣の柄の帯だけを解く。
母さんは握っていた俺の手を離し、ローグは剣の柄を俺に握らせた。
剣はバチチチチッとスパークして光りだす。
じっと見つめる母さんとローグ。
俺の身体の傷が徐々に塞がり治っていく。
「おおおっ─── 成功か!?」
「奇跡だわ! ローグありがとう!」
母さんが俺を力強く抱きしめる。
剣の装飾だった一部が目として見開いた。
目が開くと俺とローグの頭の中に話しかけてくる声がする。
『何百年ぶりの栄養だ、ローグ。貴様いままでよくも我を放置してくれたな』
(この剣がしゃべっているんだよな? 信じ難いがこの剣しか考えられない)
「すまんのぅ、アイツが復活しなかったから使わなかったのじゃ」
『黙れクソジジイ! 貴様はもう用済みだ! 今後お前に我の力は扱わせん!!!』
「そんなことしたら誰から栄養を──── まさか!」
『そのまさかだ、小僧のほうがお前よりずっと豊富な栄養を持っていた。潜在能力の数値が計れん』
子供の時の俺は何を言っているかわからなかったが、いまこうして聞くと俺がこの剣の持ち主に強制的に選ばれてしまったようだ。
「まだ子供じゃぞ」
『すでに治癒した時に十分な栄養はもらった。小僧がある程度成長したら我のところに連れてこさせろ』
「命を助けてもらったからのぅ…………約束しよう」
ローグは沈痛な顔をしていたが納得せざる負えないようだ。
ローグは顔をガバッと上げ
「最後の会話のついでに教えるのじゃ! 将暉は! この子供の父親は生きているのか?! あの爆心地のど真ん中にいるはずなのじゃ!」
『貴様は馬鹿か? あの規模を考えれば死んでいるに決まって…………おい、まて───
生きてるぞ。将暉とやらの意識を感じる』
どういう理屈や能力で父さんが生きてると分かったのかは不明だが生きていると確信を持った理由がわかった。
ローグが力強い笑みを浮かべ
「つくづく強運の持ち主じゃな、生きてさえいればなんとかなるじゃろうて」
「あの人は生きているのね!?」
母さんが会話に入ってきた。
「夜春!?」
『お主、我の声が聞こえるのか?』
「ふつうに聞こえていたわよ。事情はなんとなくわかったわ、ローグが勝手に約束したことも」
「なんてことだ………… 気まずいことこの上ないんじゃが」
「ハルキの命を助けてくれたし約束ってずっと未来の話でしょ、いまは受け入れるわ」
『この生物、理解力と頭の回転が早すぎて怖いんだけど』
「そうじゃろ、この星にもバケモノがおるのじゃ」
「ちょっと。バケモノって私のこと言っているの!?」
「他に誰がおるんじゃ」
剣が話を遮る。
爆心地周辺数キロは何も残らないほど燃え盛っているが
『オイッ!これは───まさか─── 間違いない。アイツが復活しかけている』
「ちょうど封印した場所で大地をえぐる大爆発がおきたんじゃ」
ローグと剣は2人にしかわからない話を始めた。
『だからこの惨状か。なんにせよアレは厄介だ。数百年経っても生きているなんてありえないことだぞ。我がしばらくの間封印してくる。もう少し栄養が必要じゃな…………小僧のここまでの記憶を全部頂こうか。この記憶は次に我を持った時に返してやる。よいな小僧?』
ローグと剣が何を言っているか理解できるわけがない。
俺は痛みで
「ぅぁ…………」
とだけ呻いた。
「はい!本人の同意いただきました! 夜春、同意でいいな?」
「え!? あ、─── うん!」
急に話を振られ勢いで返事をしてしまう母さん。
『保護者の同意確認!』
とローグと剣が呻き声を同意として無理やり話を進めやがった。
(ちょっとまてこらー!)
これは過去に起きたことの回想だからツッコミを入れても意味がないのはわかるが、無理やりこじすけすぎるだろ!
『いいか小僧、成長したら必ず我のところに来て栄養をよこすのだぞ』
剣は俺の身体の傷や臓器の損傷を完全に治すと空中に浮かび上がり爆心地に高速でまっすぐ飛んで見えなくなった。
そうだったのか。大爆発に巻き込まれた俺が怪我一つしていない理由、なぜ母さんが俺を鍛え抜いたか納得できた。
俺が小中高のどこかでこの事を説明されても理解できないし、説明されていたとしたら
「は?何言っているんだお前?」と冷めていただろう。
記憶の映像はそこで終わり、俺は現実世界で意識を取り戻した。
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