採集スキルしかない冒険者

kitatu

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 あれから何日が経っただろう。久しぶりに見る太陽に容赦無く日差しをぶつけられ、痛いくらいに眩しい。

 捨てられた後、何もかもが嫌になって、ずっと幼馴染と過ごした宿屋で引きこもっていた。しかし、払っていた宿泊費が底をつき、宿屋から追い出されてしまった。

 アイリから、もらった袋の中に金が入っているのはわかっていたが、それを使ってしまうと本当にアイリとつながりが断たれる気がして、袋すら開けられなかった。我ながら女々しいとは思うがその金に手をつけられず、冒険者ギルドへ仕事を探しにいくことにしたのだった。

 行き慣れた冒険者ギルドへ入り、依頼書の貼られた掲示板を眺める。そして、幼馴染がいなくてもできそうなスライム討伐の依頼書を破り取り、受付に持っていこうとしたその時、肩を掴まれた。

「おいおい、女がいねえと何もできない、採集スキルしかねえ無能が何しに行くつもりだよ?」

 俺の肩を掴んだのは、このギルドで唯一Bランクの冒険者、ガイストという男だった。ガイストの大きな体越しに取り巻きがニヤニヤとしているのが見えた。
 冒険者ギルドに登録しようとした際、俺たちに絡んできて、アイリが返り討ちにしたことがあり、それから、俺のことを無能と影で俺に聞こえるように罵ってくる男だった。
 当然この男は嫌われている。それに加えて太刀が悪いのは、アイリがこの男はこのギルドで最も強かったらしい。そのため、強いモンスターを倒すにはガイストに頼らざるを得ないため、こいつの粗暴の悪さにも衛兵やギルドは目を瞑るしかなかったそうだ。

「今から依頼を受けに行く」

「はははは! 無能ができる仕事なんてねえよ! ちょっとこっち来いや!」

 そう言って、ガイストは俺の腕を掴んで引きずって行く、俺は抵抗したが相手はBランクで剛力のスキル持ち、なすすべはなかった。引きずられる中、周りを見渡すがギルド職員も見て見ぬふりをし、冒険者の中にはクスクス笑っている奴もいた。

 路地裏まで引きずられ投げ捨てられ、背中に痛みが走る。

「痛っ」

「今まで散々調子こいてくれたな!」

「てめえなんて、生きる価値がねえ無能なんだよ!」

「二度と顔見せんじゃねえぞ」

 俺に罵倒を浴びせながら男たちは殴る蹴るの暴力を振るい続ける。
 もう、何回蹴られたか、殴られたかわからない。痛みはすでに感じない。視界が白くなっていく。

「やっぱ女がいねえと何もできない無能だな……となんだ? この袋?」

 ポケットを弄られる感覚。耳元に残るガイストの言葉から叫ばずにいられなかった。

「やめろぉぉぉ!!」

 俺はぼやける視界から、必死に体を起こして飛びつこうとするも、俺の頭に男たちの足が顔面に迫りぶつかる。

「や、やべえ。金貨がこんなに!」

「なんだ、この手紙? なになに? すみません、レクト……」

 そこで俺の意識は途切れた。

✳︎✳︎✳︎

 冷たい水滴が顔に滴り落ちて目を覚ました。目の前には重く灰色の雲に埋め尽くされた空が広がっていた。口の中に広がる鉄の匂いにえずき、内臓が壊れるような痛みが走る。

 強張る体を動かそうにも追い打ちをかけて、数が増えていく雨水は俺の衣服に集り、より地面に固定しようとしてくる。

 それでも力を振り絞って起き上がり、雨を避けようと屋根のある場所を探す。

 体が冷え、寒さから逃れるために宿を探そうとして、自分の財布を出そうとズボンのポケットに手を入れた。しかし、無い。それどころか、アイリにもらった袋さえ無い。

 酷く焦燥感に掻き立てられ、身体中をかきむしるように探したが見つからなかった。そして、現実を飲み込んだ俺は、意外にも嫌に落ち着いていた。

「ああ。あいつらに取られたのか」

 自分の最も大切なもの。盗まれれば当然怒り狂う。しかし、今の俺にはそんな事これっぽちも思ってはいなかった。むしろ、これで俺を生に止めるものは何もなくなったと安堵し、口が勝手に歪に緩んだ。

 疲れた。アイリが俺を捨てたことを飲み込めずにいたけれど、もうどうでもいい。アイリとの繋がりは夢だったのだ。金貨の袋がアイリとの日々が存在していたことを確信させていたが、失くなった今、夢であったと確信する。

 愛情を注いでくれた父ですら、捨てるほどのスキルしか持たなかった俺に、聖女スキルというこの世に二つとないスキルを持つものが構うなんて、夢であるに決まっている。

 ああ、俺はなんて弱いんだ。スキルだけでなく、心まで弱い。幻影にすがって生きるなんて、なんと情けない。

 自分を軽蔑する思いが強まり、痛む足を引きずりながら、俺は街の外の廃教会に来ていた。神を信じるタチでは無いが、最後に懺悔して逝きたいと願ったのである。

 廃教会は、石造りの壁はとうに崩れ、屋根やステンドガラスもない。だが、歴史書だけはここを廃教会であると記されていたので廃教会と呼ぶのである。聖職の人間たちはここを廃教会としながらも何故かわからないが放置している。そのため、教会と揉めるのを嫌ってか誰もこの教会跡に手を出さずにいた。

 そんな壊れた石の壁だけの教会に入ると、中央の通路は土がつもり、その両側には何列も並んだ椅子が朽ち苔に蝕まれていた。
 俺は通路を進み、教会の中心でひざまづいた。そして喉を振り絞り掠れた声をだす。

「神よ。俺が歩んだ人生は、とても悲惨な人生であった。だが、こんな俺より悲惨な人生を送るものがいることも知っている。だから、ここで生を諦めて逃げる情けない俺を許してくれまいか? もし、死んで生まれ変わったなら、わずかな時でもこんな俺についてきてくれたあいつに言ってないことがある。ただそれだけ伝えたい」

 ここまで来ても神頼み。本当に自分が嫌になる。だけれども、こんなに長い頼みごとをはじめは言うつもりではなかった。そもそも、神頼みをするつもりもなく、許してくれまいかと懺悔するつもりだけだったのだ。

 そこで、ふと気付き、自嘲する。
 そうか。俺は罪の意識が消えていないんだ。
 それを理解するといつぶりかの自己敬愛を覚えた。

 良かった。俺は何も持たないし、何もできない。中身も矮小な人間だ。けれど、幻影であったとしても、こんな俺は優れたスキルをもつあいつを俺のために押し留めるなんては有ってはならない事で、厚意に甘えたのだと理解できている。わずかであってもついて来てくれたあいつへ罪悪感は持っていられる。それに、変わらない気持ちも持てることが誇らしい。

 さあ、ここで死ぬと迷惑がかかるし、せめて魔物の餌にでもなろうか。

 そう教会を出ようとしたその時、閃光で一瞬視界は真っ白になり、すぐに背後から地面を割るような大きな音が聞こえた。遅れて、焼け焦げる凄まじい匂いが放たれる。
 驚き、振り返ると神父台が焼け焦げていた。雷が落ちたのだろう。

 雨はすぐに神父台を鎮火したが、残骸が残るばかりであった。しかし、炭に溺れてしまっている奇妙な、錆びてボロボロになった宝箱があることに気づく。
 神父台の下にあったのだろうか。好奇心に揺り動かされ近づいて確認しようとすると、宝箱が勝手に開いた。

 そして、淡い黄色の光を放ちながら、不自然に汚れのない分厚い辞書のような本が浮き上がってくる。本は雨を弾きながら勝手に俺の目の前に来て止まったので、わけもわからず、俺は受け止めるように両手を差し出すとストンと俺の手に落ちて来た。
 俺は反射的に本を見ると、本は分厚くザラザラとした羊皮紙でできており、表紙に大きく神代文字で『理の書』と書かれていた。

 これはごくわずかな遺跡で見られる神代文字だ。仮にも貴族の長男として教育を受けてきたため、かろうじて読めた。
 さらに、表紙の著者名にはアルクと描かれており、これは我が家で伝わる御伽噺で古の刻、神々が地上を支配していた時、神を殺した賢者の名前だった。

 俺は何気なくページをめくって見る。そこには、羊皮紙であるのに経年劣化は見られず、綺麗な柔らかい文字で書かれていた。

『この書は我が子孫に残す財産である。劣化で失われることと他人に奪われることを忌避したため魔法をかけてある。そのため、我が血族以外、そしてかけてある魔法の魔力より大きな魔力を有するもの以外が読むと気が触れる。資質を有しないものは次のページを開かぬように』

 何を馬鹿なと笑いたくなるのが普通だが、突然浮かび上がり、暖かい黄色い光りが辺りを照らす本に書かれていることを到底馬鹿にすることなど出来なかった。それどころか、禁忌に触れたかのような恐怖に襲われる。

 魔力がなければ、気が触れることは本当だろう。だが、俺は迷わずに次のページを開いた。気が触れて楽になれるならと愚考したためである。

 しかし、ページを開いても何も起こりやしない。なんだ、ただのホラ吹きじゃないかと次々にページを開く。そして、俺は驚愕した。

 本の中身は、ありとあらゆる生物の生態や特性が描かれていた。植物から魔物、鉱物までだ。その中に書かれていたことは全く知らないことで、聞いたこともないことばかりであったのだ。

 もし、この本の中身が本当ならば、採集スキルしか持ち得ない俺でも、いや逆に採集スキルを持っている俺だからこそ強くなれるかもしれない。そして、アイリに追いつけるほどの力を手に入れられるかもしれない。

 どうせ、落とす命。それなら、今落とさずに、こんな戯論が描かれた本を宛に夢を見て全てを掛けてやろう。絶望に陥っていた俺をそう思わせるほどには本の内容は革新的だったのである。

 雨はすでに晴れ上がり、雲の切れ間から光が差した。
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