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閑話 アイリ
しおりを挟む———すみません。レクト様。もし、貴方が私の後を追おうとしたならやめてください。
私は聖女のスキルを持っていると聞きつけた王都の人間に勇者パーティに引きぬかれました。
私は何度も断りましたが、ある日、レクト様がどうなってもいいのかと脅迫され、勇者パーティに入ることにしました。
ですが、安心してください。私はいつかレクト様の元に戻ります。この金貨は、私の加入金です。でも、私が帰って来るまでに使い切らないで、節約してくださいね。私が帰って来た時にそのお金で一緒に、いつものお店で、いつものご飯を、いつもよりちょっとたくさん食べて、最高に楽しみましょう。
レクト様のご存知の通り、私は弱虫なので、別れを告げる時、泣くのを堪えるのに別れることに必死で、素っ気ない態度を取ってしまうかもしれません。本当にごめんなさい。
謝った直後にこんなことを言うのもなんですが、最後に一言だけいいですか?
私は周りの人間に虐げられ、汚物に向けるような視線や憎悪の視線にしか晒されていなかった私に、ただ純粋な瞳を向けてくれたその日から、たまらなく貴方のことが好きになりました。そして私のために本心から憤慨し、私を普通の生活に引き上げてくれた時には、もう貴方をこれ以上となく愛していました。
手紙でしか、伝えられないずるくて弱虫ですみません。
もし、レクト様がこの手紙を読んで、私に返事をくれると言うのならば、一月後、最後にこの街に戻る時に風の立つ丘でお待ちしています。来てくれたとしても、私は弱虫なので、別れの悲劇に素っ気ない態度をとることでしょう。それでも、お許しいただければ幸いです。—————
一月前、金貨の詰まった袋に忍ばせた手紙の内容を一言一句思い返す。私は微かな希望を持って、レクト様との冒険の日々が始まった丘に来ていた。
来た時には薄紫の空に朝焼けに染まる棚引く雲があったというのに、今や空は星がこれでもかと輝く深い夜。未だに聞こえるのは、風の音と草が騒めく音だけ。
さすがにもうレクト様は来ないのだと理解する。
考えてみれば当然。レクト様に何の理由も告げずに別れだけを一方的に告げたのだ。
それは、別れの理由を悟られたくないわけでもなく、言う必要がなかったわけでもない。色々な溢れて来る想い、別れたくない感情を抑えるのに必死だったからだ。
しかし、ただ別れることだけは告げなければいけない。その一心でそれだけを伝えることには成功したのだが、何も告げずに去るより余計に悪かったかもしれない。
本当に私は弱い。レクト様に救われる前の私と何も変わっていないのだ。
けれど、弱い私でも勇者パーティとしてやっていくのに何の不安もない。それは、レクト様に再び出会って感謝と好きだったと言うことを面と向かって伝えられていないから。
俺を捨てておきながら虫のいい話だと、他にも罵詈雑言を吐き捨てられる覚悟はできている。命を捨てろと言われれば、喜んで捨てようとも思える。
はあ。本当に異常で馬鹿なくらいレクト様のことが好きなんだな。私。
でも、こんな自分が全然嫌じゃない。この想いがあるから私は頑張れる。
その時、夜空を白く輝く彗星が流れた。それは、私の願いを叶えようとしてくれているようだった。
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