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キチキチとコウモリの鳴く音が聞こえる。あたりはジメジメとした重い水臭い空気で満たされていた。
目の前は暗く手にもつ松明の灯りが照らす範囲以外何も見えない。ただただ闇を照らしに奥へと進む。
「なあ。放してくれないか?」
俺は背中に顔を埋めて抱きついてくるツクモに呆れた声を出した。
「嫌だ! 絶対嫌! だって暗くて怖いもん!」
本とは暗闇を怖がるものなのか? そんな馬鹿な話はない。
「じゃあ、せめて本に戻ってくれよ」
「嫌ぁぁぁ!」
背中がじんわりと濡れてきたので、諦めてそのまま進む。
ツクモは、本に戻るのを嫌がる。ましてやアイテムボックスに入れようとするとなおさら嫌がる。
何故かとツクモに聞くと、離れて行ってしまいそうで怖いからだそうだ。
いわゆる人恋しさというものだろう。
神のくせに、人と関わろうと恋しくなるなんて、どこかのちゃっちい神話のような話だ。
俺はツクモという重りを引きずり、奥へと進んでいると、炎の光が膝くらいの緑の植物を照らした。
「あった。これであってるか?」
俺がそうツクモに尋ねると、腰の横からひょこりと顔を出してブンブンと頷く。
「うん。これがケイブベリーだよ」
人になっても仮にも理の書。書内の膨大な情報は全てツクモの知識である。
「よし! これがケイブベリーか!」
俺はこのケイブベリーが目的で洞窟の奥地まで足を運んできたため喜びをあらわにした。
ケイブベリーは洞窟の奥地に生える薬草がつける紫と黒が混じった実をつけるためケイブベリーと呼ばれる。
ツクモによると、この薬草はわずかな魔力光でも吸収することができ、光合成の際、糖分への変換効率がいいため、生存競争の相手が少ない洞窟の奥地でも生き残ることができるらしい。
この薬草は洞窟の奥で度々見られるが、実をつけるのに何十年もかかるためかなり希少である。その上、食べると高い甘みと動体視力や瞬間視力、深視力・立体視、視覚反応時間など視力が強化されることがより希少性に拍車をかけているのだそうだ。
「それじゃあ始めようか」
俺はそう言って、外気に触れないように小さなスライムの皮で包んだ魔石を取り出した。
このスライムの魔石は採集スキルのレベルが10になってから驚くほど簡単に採取でき、アイテムボックスにスライムの皮で包んだ状態でストレージしておいたのだ。
話は元に戻るが、ケイブベリーの薬草に、スライムの魔石を潰して、一気に溢れ出る強い魔力光を与えると過度に光合成を起こしてしまい、それに伴って土壌から急激に大量の栄養価の吸い上げる。
結果、葉草は機能障害を起こし間も無く枯れてしまう。しかし、作り上げた栄養は全て透き通るようなリンゴほどの紫色の実を作るのに使われ実として残る。
その実はケイブベリーの何万倍もの成分を含み、食べると様々な成分が作用して美味しいらしい。
美しい紫からアメジストベリーと著者は名付けたそうだ。
俺の目的はこのアメジストベリーを食し視力を上げることである。
しかし、このアメジストベリーには注意点がある。
アメジストベリーを二つ以上食べると視力が上がり過ぎ、目から脳に送られる情報量が莫大となって、脳が壊れる。そのため、二つ以上は食べないことが懸命である。私は二つ食べてしまい、秘薬のエリクサーを使ってなんとか生き延びることができたが、絶対に一つだけしか食べないように。
と、かなりお茶目すぎるただし書きもツクモは教えてくれた。
何はともあれ、実がならなければ話にもならない。
俺は魔石を摘み、まぶたが潰れそうな程思いっきり目を閉じ、指先に力を入れた。
瞼越しにもわかるくらい洞窟内が青く染まった。しかし、一瞬で暗くなり、松明の赤を瞼の裏に捉えると目を開けた。
「きれい……」
「ああ……」
そこには、枯れ木が必死で大きな実を支えていた。実は光沢を放つ紫色の美しい色をしており、見ているだけで飲み込まれそうであった。
呆然と立ち尽くしていたが、甘く清涼感のある香りに誘われ手を伸ばし、果実をもぎ取った。
そして、我慢できずに齧り付く。
プリプリとしたぶどうのような食感に果汁が弾けた。口の中には極上の甘みと適度な酸味が広がり、最後に高原の風のような気持ちの良い風味が残った。
「美味い」
筆舌しがたい美味さとはこのことかと理解する。
あっという間に手から果実は消えており、もう一つと手を伸ばそうとした。が、白く柔らかい手に遮られる。
「ダメ」
ツクモに止められ、ふと我に帰る。
「あ、ああ。すまない」
「いいよ!」
そう言ってツクモは白い歯を見せてニカっと笑った。そして、どう?と尋ねてくる。
「何か変化ある?」
辺りを見回す。未だに洞窟は暗いが、何があるか、壁の凹凸、天井に止まるコウモリ達を捉えた。夜目も遠視力も比べ物にならないくらい上昇していることがわかった。
「よく見えるよ」
「それなら良かった! じゃあ、他の動物が食べたら大変だから、アイテムボックスに残りのアメジストベリーを採集して帰ろっか!」
確かに、この近辺には今まで見えなかったケイブベリーがある。いくつかはアメジストベリーになっており、採集しなければならない。
しかし、疑問を覚えた。
「こんなに美味しいものをツクモは食べたくないのか?」
俺がそう尋ねるとツクモは苦笑した。
「私はいいよ。あははは……」
目の前は暗く手にもつ松明の灯りが照らす範囲以外何も見えない。ただただ闇を照らしに奥へと進む。
「なあ。放してくれないか?」
俺は背中に顔を埋めて抱きついてくるツクモに呆れた声を出した。
「嫌だ! 絶対嫌! だって暗くて怖いもん!」
本とは暗闇を怖がるものなのか? そんな馬鹿な話はない。
「じゃあ、せめて本に戻ってくれよ」
「嫌ぁぁぁ!」
背中がじんわりと濡れてきたので、諦めてそのまま進む。
ツクモは、本に戻るのを嫌がる。ましてやアイテムボックスに入れようとするとなおさら嫌がる。
何故かとツクモに聞くと、離れて行ってしまいそうで怖いからだそうだ。
いわゆる人恋しさというものだろう。
神のくせに、人と関わろうと恋しくなるなんて、どこかのちゃっちい神話のような話だ。
俺はツクモという重りを引きずり、奥へと進んでいると、炎の光が膝くらいの緑の植物を照らした。
「あった。これであってるか?」
俺がそうツクモに尋ねると、腰の横からひょこりと顔を出してブンブンと頷く。
「うん。これがケイブベリーだよ」
人になっても仮にも理の書。書内の膨大な情報は全てツクモの知識である。
「よし! これがケイブベリーか!」
俺はこのケイブベリーが目的で洞窟の奥地まで足を運んできたため喜びをあらわにした。
ケイブベリーは洞窟の奥地に生える薬草がつける紫と黒が混じった実をつけるためケイブベリーと呼ばれる。
ツクモによると、この薬草はわずかな魔力光でも吸収することができ、光合成の際、糖分への変換効率がいいため、生存競争の相手が少ない洞窟の奥地でも生き残ることができるらしい。
この薬草は洞窟の奥で度々見られるが、実をつけるのに何十年もかかるためかなり希少である。その上、食べると高い甘みと動体視力や瞬間視力、深視力・立体視、視覚反応時間など視力が強化されることがより希少性に拍車をかけているのだそうだ。
「それじゃあ始めようか」
俺はそう言って、外気に触れないように小さなスライムの皮で包んだ魔石を取り出した。
このスライムの魔石は採集スキルのレベルが10になってから驚くほど簡単に採取でき、アイテムボックスにスライムの皮で包んだ状態でストレージしておいたのだ。
話は元に戻るが、ケイブベリーの薬草に、スライムの魔石を潰して、一気に溢れ出る強い魔力光を与えると過度に光合成を起こしてしまい、それに伴って土壌から急激に大量の栄養価の吸い上げる。
結果、葉草は機能障害を起こし間も無く枯れてしまう。しかし、作り上げた栄養は全て透き通るようなリンゴほどの紫色の実を作るのに使われ実として残る。
その実はケイブベリーの何万倍もの成分を含み、食べると様々な成分が作用して美味しいらしい。
美しい紫からアメジストベリーと著者は名付けたそうだ。
俺の目的はこのアメジストベリーを食し視力を上げることである。
しかし、このアメジストベリーには注意点がある。
アメジストベリーを二つ以上食べると視力が上がり過ぎ、目から脳に送られる情報量が莫大となって、脳が壊れる。そのため、二つ以上は食べないことが懸命である。私は二つ食べてしまい、秘薬のエリクサーを使ってなんとか生き延びることができたが、絶対に一つだけしか食べないように。
と、かなりお茶目すぎるただし書きもツクモは教えてくれた。
何はともあれ、実がならなければ話にもならない。
俺は魔石を摘み、まぶたが潰れそうな程思いっきり目を閉じ、指先に力を入れた。
瞼越しにもわかるくらい洞窟内が青く染まった。しかし、一瞬で暗くなり、松明の赤を瞼の裏に捉えると目を開けた。
「きれい……」
「ああ……」
そこには、枯れ木が必死で大きな実を支えていた。実は光沢を放つ紫色の美しい色をしており、見ているだけで飲み込まれそうであった。
呆然と立ち尽くしていたが、甘く清涼感のある香りに誘われ手を伸ばし、果実をもぎ取った。
そして、我慢できずに齧り付く。
プリプリとしたぶどうのような食感に果汁が弾けた。口の中には極上の甘みと適度な酸味が広がり、最後に高原の風のような気持ちの良い風味が残った。
「美味い」
筆舌しがたい美味さとはこのことかと理解する。
あっという間に手から果実は消えており、もう一つと手を伸ばそうとした。が、白く柔らかい手に遮られる。
「ダメ」
ツクモに止められ、ふと我に帰る。
「あ、ああ。すまない」
「いいよ!」
そう言ってツクモは白い歯を見せてニカっと笑った。そして、どう?と尋ねてくる。
「何か変化ある?」
辺りを見回す。未だに洞窟は暗いが、何があるか、壁の凹凸、天井に止まるコウモリ達を捉えた。夜目も遠視力も比べ物にならないくらい上昇していることがわかった。
「よく見えるよ」
「それなら良かった! じゃあ、他の動物が食べたら大変だから、アイテムボックスに残りのアメジストベリーを採集して帰ろっか!」
確かに、この近辺には今まで見えなかったケイブベリーがある。いくつかはアメジストベリーになっており、採集しなければならない。
しかし、疑問を覚えた。
「こんなに美味しいものをツクモは食べたくないのか?」
俺がそう尋ねるとツクモは苦笑した。
「私はいいよ。あははは……」
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